◇◇◇
ドアをノックする音が響く。龍介さんはいつの間にか起きたようで、姿が見えない。ベッドから起き上がり、自分の体を一度確認すれば、きちんと龍介さんのシャツを着ていた。目をこすりながら、ガチャリとドアを開ける。
「龍介さ……」
言葉が途中で凍り付いた。目の前に立っていたのは、龍介さんではなく、目を丸くした忍さん。一瞬、時が止まる。視線が合う。わたしの格好は、彼の大きすぎるシャツ一枚。
「……あら」
忍さんの口元が、ニヤリと歪んだ瞬間、全身の血が一気に顔に集まるのが分かった。
(終わった……!)
なにが起こり、どうして忍さんがいるのか。リビングにいると思われるリサの声も聞こえてくる。突然目の前に現れた忍さんの姿に頭が追いつかないままのわたしに、意味有りげな視線が送られる。
「ふうん……私が言ったとおりになったわね」
忍さんが勝ち誇ったように囁いた。無計画ながらも言い訳しようとしたわたしを遮るように、「大人の男女が一緒にいて何も起こらない方がおかしいわよ」と続ける。
「……りゅ、龍介さんは?」
「わたしも探してるわ」
「とりあえず着替えます」
「そのままでもいいじゃない?」
「忍さん……」
急いで着替えて、階段を駆け下りるようにしてリビングに降りたわたしの胸に、待ち構えていたかのようにリサが勢いよく飛び込んできて、わたしは慌ててその小さな身体を受け止めた。まるで子猫のようにすり寄ってくるリサの頭を優しく撫でる。
「リサ、おはよう」
わたしの声に、リサはわたしのシャツの胸元に顔を埋めたまま、もぞもぞと動く。そして、ふいに顔を上げ、わたしの目を見つめた。その真剣な眼差しに、わたしはドキリとする。
「……アヤノ、リュウの匂いがする」
リサがわたしを抱きしめる腕に少し力を込めて、わたしを疑うように、鼻をひくつかせながらそう告げる。一瞬、心臓が跳ね上がった。どうしてそんなことがわかるんだろう、と内心で狼狽する。
「そ、そうかなぁ? 洗濯物を一緒に洗ってるから、匂い移っちゃったかなぁ……」
必死に誤魔化そうと、つい口調が早くなる。袖口を鼻に当てて匂いを確かめてみるけれど、そんなに強く匂いが残るものだろうか。
苦し紛れのわたしの言い訳に、リサは一切納得した様子を見せない。その大きな瞳は、まるでレントゲン写真のようにわたしの内心を見透かしているようで、わたしは目を逸らしたくなった。
「ふぅん」
たった一言、その返し、そしてその顔。口の端をわずかに上げ、全てを知っていると言わんばかりの、大人びた、けれどどこかからかうようなその表情。それは、忍さんと全く同じで、わたしの背筋を冷たい汗が伝った。わたしの些細な変化を見逃さない、この二人には何も隠し事ができないのかもしれない。
ドアをノックする音が響く。龍介さんはいつの間にか起きたようで、姿が見えない。ベッドから起き上がり、自分の体を一度確認すれば、きちんと龍介さんのシャツを着ていた。目をこすりながら、ガチャリとドアを開ける。
「龍介さ……」
言葉が途中で凍り付いた。目の前に立っていたのは、龍介さんではなく、目を丸くした忍さん。一瞬、時が止まる。視線が合う。わたしの格好は、彼の大きすぎるシャツ一枚。
「……あら」
忍さんの口元が、ニヤリと歪んだ瞬間、全身の血が一気に顔に集まるのが分かった。
(終わった……!)
なにが起こり、どうして忍さんがいるのか。リビングにいると思われるリサの声も聞こえてくる。突然目の前に現れた忍さんの姿に頭が追いつかないままのわたしに、意味有りげな視線が送られる。
「ふうん……私が言ったとおりになったわね」
忍さんが勝ち誇ったように囁いた。無計画ながらも言い訳しようとしたわたしを遮るように、「大人の男女が一緒にいて何も起こらない方がおかしいわよ」と続ける。
「……りゅ、龍介さんは?」
「わたしも探してるわ」
「とりあえず着替えます」
「そのままでもいいじゃない?」
「忍さん……」
急いで着替えて、階段を駆け下りるようにしてリビングに降りたわたしの胸に、待ち構えていたかのようにリサが勢いよく飛び込んできて、わたしは慌ててその小さな身体を受け止めた。まるで子猫のようにすり寄ってくるリサの頭を優しく撫でる。
「リサ、おはよう」
わたしの声に、リサはわたしのシャツの胸元に顔を埋めたまま、もぞもぞと動く。そして、ふいに顔を上げ、わたしの目を見つめた。その真剣な眼差しに、わたしはドキリとする。
「……アヤノ、リュウの匂いがする」
リサがわたしを抱きしめる腕に少し力を込めて、わたしを疑うように、鼻をひくつかせながらそう告げる。一瞬、心臓が跳ね上がった。どうしてそんなことがわかるんだろう、と内心で狼狽する。
「そ、そうかなぁ? 洗濯物を一緒に洗ってるから、匂い移っちゃったかなぁ……」
必死に誤魔化そうと、つい口調が早くなる。袖口を鼻に当てて匂いを確かめてみるけれど、そんなに強く匂いが残るものだろうか。
苦し紛れのわたしの言い訳に、リサは一切納得した様子を見せない。その大きな瞳は、まるでレントゲン写真のようにわたしの内心を見透かしているようで、わたしは目を逸らしたくなった。
「ふぅん」
たった一言、その返し、そしてその顔。口の端をわずかに上げ、全てを知っていると言わんばかりの、大人びた、けれどどこかからかうようなその表情。それは、忍さんと全く同じで、わたしの背筋を冷たい汗が伝った。わたしの些細な変化を見逃さない、この二人には何も隠し事ができないのかもしれない。


