「どうですか?」
悪戯っぽく笑う彼に思わず微笑む。
「できるかなぁ」
「手、貸して」
そう言った彼の右手がわたしの左手を持ち上げて鍵盤の上に導くと、指の形を整える。全く日に焼けていないわたしの手と対比されるかのような彼の手は、爪が大きくて小麦色で、分厚い男の人のもの。
彼の温もりを感じる指先が熱を持ち、その熱が手首を超えて、肘、肩を過ぎて心臓に届くと一度大きく鼓動を鳴らした。胸の奥が苦しいのに、でもそれが心地いい。
そして、彼の左手は一オクターブ高い位置で一緒に弾き始める。それを真似るようにしてたどたどしく、わたしの指も動き出す。何度も何度も繰り返される同じ旋律。そのうち、彼の右手が加わりメロディーを奏でだす。
「わわ……」
彼の左手が鍵盤から離れてしまってもわたしの指はなんとか動き続けて、彼の右手と一緒に拙いメロディーを奏でている。弾きながら彼を見上げれば、微笑んでくれる。
そして、息を吸い込んだ音が聞こえたかと思うと、すぐ近くで龍介さんの歌声が響いた。低くて柔らかいその声と龍介さんの少し高い体温。声の振動が直接伝わってくる。指が、震える。甘い、というより、脳が痺れるような感覚。眩暈がする。幸せすぎて、胸がいっぱいで、息がうまく吸えなくて、視界が滲む。
彼といると、わたしの感情の制御がまったく効かなくなる。
歌う彼と何度も目を合わせて、その度に微笑む。木漏れ日がリビングに降り注ぐ。風が吹き抜ける。そして、二人で奏でる音と彼の歌声に包まれる。
彼といると、笑っているはずなのに、なぜか涙が溢れそうになる。穏やかで温かく満たされて、初めてのようでいて懐かしいような不思議な感覚。この一瞬があまりにも眩しくて目が眩みそうになり、胸の高鳴りに手が震えそうになる。そう、一瞬一瞬が眩しい程に輝くから、戸惑いと喜びが一緒に訪れる。
先ほどと同じように、最後の音が優しく名残惜しそうに響いて、曲の終わりを告げた。
「……弾けたね」
龍介さんが挙げた右手に、自分の左手を合わせる。パチン、と乾いた音が響く。本来なら、そこで離れるはずの手が、重なったままゆっくりと下ろされる。離したくない。その想いは、わたしだけじゃないのかもしれない。
ぎゅう、と手のひらに力が込められた。力を込めたのは、わたしか龍介さんか。確かめる間もなく、彼の熱い指が、わたしの指の隙間を埋めるようにして滑り込んでくる。言葉よりもずっと強いその熱に、わたしは息を呑んだ。
悪戯っぽく笑う彼に思わず微笑む。
「できるかなぁ」
「手、貸して」
そう言った彼の右手がわたしの左手を持ち上げて鍵盤の上に導くと、指の形を整える。全く日に焼けていないわたしの手と対比されるかのような彼の手は、爪が大きくて小麦色で、分厚い男の人のもの。
彼の温もりを感じる指先が熱を持ち、その熱が手首を超えて、肘、肩を過ぎて心臓に届くと一度大きく鼓動を鳴らした。胸の奥が苦しいのに、でもそれが心地いい。
そして、彼の左手は一オクターブ高い位置で一緒に弾き始める。それを真似るようにしてたどたどしく、わたしの指も動き出す。何度も何度も繰り返される同じ旋律。そのうち、彼の右手が加わりメロディーを奏でだす。
「わわ……」
彼の左手が鍵盤から離れてしまってもわたしの指はなんとか動き続けて、彼の右手と一緒に拙いメロディーを奏でている。弾きながら彼を見上げれば、微笑んでくれる。
そして、息を吸い込んだ音が聞こえたかと思うと、すぐ近くで龍介さんの歌声が響いた。低くて柔らかいその声と龍介さんの少し高い体温。声の振動が直接伝わってくる。指が、震える。甘い、というより、脳が痺れるような感覚。眩暈がする。幸せすぎて、胸がいっぱいで、息がうまく吸えなくて、視界が滲む。
彼といると、わたしの感情の制御がまったく効かなくなる。
歌う彼と何度も目を合わせて、その度に微笑む。木漏れ日がリビングに降り注ぐ。風が吹き抜ける。そして、二人で奏でる音と彼の歌声に包まれる。
彼といると、笑っているはずなのに、なぜか涙が溢れそうになる。穏やかで温かく満たされて、初めてのようでいて懐かしいような不思議な感覚。この一瞬があまりにも眩しくて目が眩みそうになり、胸の高鳴りに手が震えそうになる。そう、一瞬一瞬が眩しい程に輝くから、戸惑いと喜びが一緒に訪れる。
先ほどと同じように、最後の音が優しく名残惜しそうに響いて、曲の終わりを告げた。
「……弾けたね」
龍介さんが挙げた右手に、自分の左手を合わせる。パチン、と乾いた音が響く。本来なら、そこで離れるはずの手が、重なったままゆっくりと下ろされる。離したくない。その想いは、わたしだけじゃないのかもしれない。
ぎゅう、と手のひらに力が込められた。力を込めたのは、わたしか龍介さんか。確かめる間もなく、彼の熱い指が、わたしの指の隙間を埋めるようにして滑り込んでくる。言葉よりもずっと強いその熱に、わたしは息を呑んだ。


