◇
そうして話している間にも、みんなのグラスの中の液体は次々に空になり、龍介さんが再びみんなに注いで回る。
わたしは、キッチンに戻り、冷蔵庫を開き、その先にあった光景に口を開いた。まだ始まって数十分しか経っていないのに、もう準備したお酒が半分もない。集まったみんなのお酒の強さを表すように、部屋の一角には、空になったボトルたち。
パーティーが進むにつれて、その速さは衰えるどころか増していく。今日は夜までと言っていたはず。まだ夕暮れ前だと言うのに、この残りの量は心許ない。何度目かわからない冷蔵庫の中身確認。そして、会場確認。やっぱり、足りない。ソファに座っていた龍介さんの元に歩み寄り、肩を指でつつく。
「ん?」
「お酒が足りなさそうなので、買ってきますね」
「え? もう?」
「はい。皆さん凄いスピードです」
「俺も行くから一緒に行こう」
「え、でも龍介さんは」
いわば、この家の主で、このパーティーの主催者である。その人が抜けても良いものか戸惑っているわたしに対して、彼は普通に「行こうか」と言った。わたしに黒い帽子を被せて自分自身も同じく帽子を被る。
そして、リビングとテラスに向かって買い物に行くと声をかけると、わたしの手を引いて家を出た。迎えに来たタクシーに乗り込むと、龍介さんが行き先を告げる。やっぱり、あそこに行くんだ。龍介さんは、「結局は激安の殿堂」とことあるごとに言う。
龍介さんと二度目に会った激安の殿堂で、二人でカートを押しながら店内を巡る。龍介さんは上機嫌なようで微かに鼻歌混じり。鼻歌のはずなのに、伸びやかで美しく心地いい。
「綾乃ちゃん、お酒のこと気付いてくれてありがとう」
「秘書の職業病みたいなものです」
「そっか、秘書だって言ってたよね」
そんな会話をしながらビールやワインのボトルを次々にカートに入れていた時、彼がなにかを思い出したような表情でこちらを見た。
「そうだ、今日からスタッフと仲間が来るって言ってたんだけど、日本で仕事が終わらないみたいで遅れるって。天気が悪いらしくてさ、延期になったみたいで」
「そうなんですか。東京は台風が近づいているみたいですもんね」
接近した台風のせいで、東京は凄まじい暴風雨だと栞ちゃんから連絡がきていたことを思い出す。天気が悪くて延期になるその仕事は何だろうと思うけれど、人のプライベートに踏み込み過ぎるのもためらわれる。
「そうみたいだね。来週かな、合流するの」
「緊張してたからちょっとほっとしました。でも来週……緊張が先延ばしに」
「大丈夫だって。いい奴らだから」
「そういえば、わたし、スタッフさんってレンタルハウスのスタッフだと思ってたんですけど、違うんですね」
「ああ、そうだね。なんていうのかな。まあ、高校からの付き合いの奴だから気にしなくていいよ」
「高校生から! 長いお付き合いですね。でも、龍介さんが高校生のときって」
「ん?」
「……不良でした?」
「え」
「ですよね?」
「いや、そんなことないよ。うん……ちょっとだけね。あれだよ、ちょっと……反抗期っていうの?」
「ちょっと?」
ピアスを開けただけだの、髪を染めただけだの彼が少し必死になって訴えている。酔いが回っているからか、いつもより饒舌になっているようだ。必死になっている様子が可愛らしくてクスクス笑っていると、横で違うのにと呟いて項垂れている彼の姿が目に入った。
会計を終えて、龍介さんと自分の手元を交互に見る。わたしは不満だということを顔に出して彼に主張するけれど、彼は優しい笑顔で応えて歩き出す。
荷物を持つために来たはずなのに、龍介さんはボトルが入った袋を全て持って、わたしにはチーズとフルーツが入った小さな小さな袋を渡した。ここでわたしが持つと言っても、きっと龍介さんは「女性に持たせるものじゃない」と言って、絶対に持たせてくれない。
だからわたしは小さな声で「ありがとう」と口にした。
そうして話している間にも、みんなのグラスの中の液体は次々に空になり、龍介さんが再びみんなに注いで回る。
わたしは、キッチンに戻り、冷蔵庫を開き、その先にあった光景に口を開いた。まだ始まって数十分しか経っていないのに、もう準備したお酒が半分もない。集まったみんなのお酒の強さを表すように、部屋の一角には、空になったボトルたち。
パーティーが進むにつれて、その速さは衰えるどころか増していく。今日は夜までと言っていたはず。まだ夕暮れ前だと言うのに、この残りの量は心許ない。何度目かわからない冷蔵庫の中身確認。そして、会場確認。やっぱり、足りない。ソファに座っていた龍介さんの元に歩み寄り、肩を指でつつく。
「ん?」
「お酒が足りなさそうなので、買ってきますね」
「え? もう?」
「はい。皆さん凄いスピードです」
「俺も行くから一緒に行こう」
「え、でも龍介さんは」
いわば、この家の主で、このパーティーの主催者である。その人が抜けても良いものか戸惑っているわたしに対して、彼は普通に「行こうか」と言った。わたしに黒い帽子を被せて自分自身も同じく帽子を被る。
そして、リビングとテラスに向かって買い物に行くと声をかけると、わたしの手を引いて家を出た。迎えに来たタクシーに乗り込むと、龍介さんが行き先を告げる。やっぱり、あそこに行くんだ。龍介さんは、「結局は激安の殿堂」とことあるごとに言う。
龍介さんと二度目に会った激安の殿堂で、二人でカートを押しながら店内を巡る。龍介さんは上機嫌なようで微かに鼻歌混じり。鼻歌のはずなのに、伸びやかで美しく心地いい。
「綾乃ちゃん、お酒のこと気付いてくれてありがとう」
「秘書の職業病みたいなものです」
「そっか、秘書だって言ってたよね」
そんな会話をしながらビールやワインのボトルを次々にカートに入れていた時、彼がなにかを思い出したような表情でこちらを見た。
「そうだ、今日からスタッフと仲間が来るって言ってたんだけど、日本で仕事が終わらないみたいで遅れるって。天気が悪いらしくてさ、延期になったみたいで」
「そうなんですか。東京は台風が近づいているみたいですもんね」
接近した台風のせいで、東京は凄まじい暴風雨だと栞ちゃんから連絡がきていたことを思い出す。天気が悪くて延期になるその仕事は何だろうと思うけれど、人のプライベートに踏み込み過ぎるのもためらわれる。
「そうみたいだね。来週かな、合流するの」
「緊張してたからちょっとほっとしました。でも来週……緊張が先延ばしに」
「大丈夫だって。いい奴らだから」
「そういえば、わたし、スタッフさんってレンタルハウスのスタッフだと思ってたんですけど、違うんですね」
「ああ、そうだね。なんていうのかな。まあ、高校からの付き合いの奴だから気にしなくていいよ」
「高校生から! 長いお付き合いですね。でも、龍介さんが高校生のときって」
「ん?」
「……不良でした?」
「え」
「ですよね?」
「いや、そんなことないよ。うん……ちょっとだけね。あれだよ、ちょっと……反抗期っていうの?」
「ちょっと?」
ピアスを開けただけだの、髪を染めただけだの彼が少し必死になって訴えている。酔いが回っているからか、いつもより饒舌になっているようだ。必死になっている様子が可愛らしくてクスクス笑っていると、横で違うのにと呟いて項垂れている彼の姿が目に入った。
会計を終えて、龍介さんと自分の手元を交互に見る。わたしは不満だということを顔に出して彼に主張するけれど、彼は優しい笑顔で応えて歩き出す。
荷物を持つために来たはずなのに、龍介さんはボトルが入った袋を全て持って、わたしにはチーズとフルーツが入った小さな小さな袋を渡した。ここでわたしが持つと言っても、きっと龍介さんは「女性に持たせるものじゃない」と言って、絶対に持たせてくれない。
だからわたしは小さな声で「ありがとう」と口にした。


