◇
龍介さんの泊まるレンタルハウスに着くなり、彼はわたしの手を引いて階段を上がっていく。
「綾乃ちゃんの部屋、先に案内するよ」
「ありがとうございます」
「余ってる部屋だから、そんなにいい部屋じゃないけど」
「いえ、泊めていただけるだけでありがたいですから。そんなこと、おっしゃらないでください」
「……そうですか」
わたしの答えを聞いた彼は笑っている。どうして笑っているのか聞いてみると、言葉遣いが面白いと言い出す。
「お嬢様っぽいよね」
「……全然、そんなことないですよ」
昨日は上がることのなかった二階は、五つの部屋に分かれていた。そんなにいい部屋ではないと言って案内された部屋には、ベッドはもちろんのこと、ソファまである。
その部屋のドアを開けて、わたしを促しながらも、どこか納得のいかない顔をする龍介さん。まだ「女の子をここに泊めて俺がメインルームっていうのは」と呟いている。
「もう、龍介さんってば」
「だってさ」
さっきも宿泊代のことで「払う、払わない」の押し問答をしたところ。宿泊代なんて絶対に受け取らないと彼は強く首を横に振る。宿泊代を支払わないのなら、料理でも洗濯でも掃除でも何でもすると言ったわたしに、「気にしなくていいから」と一言。
「綾乃ちゃんって結構頑固だよね」
「龍介さんこそ。本当に何でもするのに……」
「あ、メインルームも一応見てみる? 眺めはいいよ」
「龍介さんっ」
再びわたしの手を引いて彼が家の中を進んでいく。同じ二階のフロア。ひと際大きな木の扉。彼がドアノブに手をかけて手前に引くと、光りに包まれた大きな部屋がそこにあった。
「わぁ……」
美しい青と金色の装飾が施されたシーツに包まれる見たこともない大きさのベッドの先には、広いバルコニーにテーブルが一つ、チェアが二つ。そして、一階のリビングと同じようにコバルトブルーの海が見える。
「すごい……綺麗」
「こっちがいい?」
「ふふ。もう龍介さん」
「やっぱり、こっちの部屋使わない? 鍵も二重だし、バルコニーからの眺めも最高だから、気分転換になると思う」
彼は本気で心配してくれているのだ。さっきの恐怖を、少しでも早く忘れられるように。その不器用なまでの誠実さに、胸が温かくなる。
「大丈夫です。龍介さんが同じ階にいてくれるだけで、十分安心ですから」
「そっか」と眉根を寄せながら微笑んだ彼は部屋の中を進んでバルコニーの窓を開けた。
「ここでお茶でもしよっか」
「はい。龍介さん、何を召し上がります?」
「俺ね、決まってるの。ルイボスティー」
「へ……」
ルイボスティー。わたしが会社でよく飲むお茶。それは、健康的なお茶。ダイエットのため、美容のためにわたしが会社でよく飲むそのお茶は、男性が飲むイメージはあまりない。
ましてや龍介さんのような風貌の人とは対局にありそうな存在なのに、それを「決まっている」だなんてやはりアスリートだろうか。思わず目を見開いたわたしを、物言いたげな瞳が見つめてくる。
「綾乃ちゃん、今、絶対に似合わないって思ってるでしょ」
「お、思ってます……」
「俺、玄米とかも食べるし、健康オタク気味で」
「……意外すぎます」
どちらかというと、ぷかぷかタバコを吸って健康なんて気にしないと言い退けてしまいそうな見た目をしている。でも、龍介さんからはタバコの匂いなんて微塵も香らずに、香水なのか柔軟剤なのか爽やかな香りがいつも漂っている。
「食材とかさ、結構気にするんだよね。綾乃ちゃんは何飲む?」
「わたしもルイボスティーを。大好きなんです」
龍介さんの泊まるレンタルハウスに着くなり、彼はわたしの手を引いて階段を上がっていく。
「綾乃ちゃんの部屋、先に案内するよ」
「ありがとうございます」
「余ってる部屋だから、そんなにいい部屋じゃないけど」
「いえ、泊めていただけるだけでありがたいですから。そんなこと、おっしゃらないでください」
「……そうですか」
わたしの答えを聞いた彼は笑っている。どうして笑っているのか聞いてみると、言葉遣いが面白いと言い出す。
「お嬢様っぽいよね」
「……全然、そんなことないですよ」
昨日は上がることのなかった二階は、五つの部屋に分かれていた。そんなにいい部屋ではないと言って案内された部屋には、ベッドはもちろんのこと、ソファまである。
その部屋のドアを開けて、わたしを促しながらも、どこか納得のいかない顔をする龍介さん。まだ「女の子をここに泊めて俺がメインルームっていうのは」と呟いている。
「もう、龍介さんってば」
「だってさ」
さっきも宿泊代のことで「払う、払わない」の押し問答をしたところ。宿泊代なんて絶対に受け取らないと彼は強く首を横に振る。宿泊代を支払わないのなら、料理でも洗濯でも掃除でも何でもすると言ったわたしに、「気にしなくていいから」と一言。
「綾乃ちゃんって結構頑固だよね」
「龍介さんこそ。本当に何でもするのに……」
「あ、メインルームも一応見てみる? 眺めはいいよ」
「龍介さんっ」
再びわたしの手を引いて彼が家の中を進んでいく。同じ二階のフロア。ひと際大きな木の扉。彼がドアノブに手をかけて手前に引くと、光りに包まれた大きな部屋がそこにあった。
「わぁ……」
美しい青と金色の装飾が施されたシーツに包まれる見たこともない大きさのベッドの先には、広いバルコニーにテーブルが一つ、チェアが二つ。そして、一階のリビングと同じようにコバルトブルーの海が見える。
「すごい……綺麗」
「こっちがいい?」
「ふふ。もう龍介さん」
「やっぱり、こっちの部屋使わない? 鍵も二重だし、バルコニーからの眺めも最高だから、気分転換になると思う」
彼は本気で心配してくれているのだ。さっきの恐怖を、少しでも早く忘れられるように。その不器用なまでの誠実さに、胸が温かくなる。
「大丈夫です。龍介さんが同じ階にいてくれるだけで、十分安心ですから」
「そっか」と眉根を寄せながら微笑んだ彼は部屋の中を進んでバルコニーの窓を開けた。
「ここでお茶でもしよっか」
「はい。龍介さん、何を召し上がります?」
「俺ね、決まってるの。ルイボスティー」
「へ……」
ルイボスティー。わたしが会社でよく飲むお茶。それは、健康的なお茶。ダイエットのため、美容のためにわたしが会社でよく飲むそのお茶は、男性が飲むイメージはあまりない。
ましてや龍介さんのような風貌の人とは対局にありそうな存在なのに、それを「決まっている」だなんてやはりアスリートだろうか。思わず目を見開いたわたしを、物言いたげな瞳が見つめてくる。
「綾乃ちゃん、今、絶対に似合わないって思ってるでしょ」
「お、思ってます……」
「俺、玄米とかも食べるし、健康オタク気味で」
「……意外すぎます」
どちらかというと、ぷかぷかタバコを吸って健康なんて気にしないと言い退けてしまいそうな見た目をしている。でも、龍介さんからはタバコの匂いなんて微塵も香らずに、香水なのか柔軟剤なのか爽やかな香りがいつも漂っている。
「食材とかさ、結構気にするんだよね。綾乃ちゃんは何飲む?」
「わたしもルイボスティーを。大好きなんです」


