シンデレラ・スキャンダル



 龍介さんと共にレンタルハウスに戻り、扉を開ければ、そこにはぽつんとスーツケースだけがあった。

「他に荷物ない?」

「もうないです」

「……そっか。怖かったね」

 そう言ってまた頭を優しくそっと撫でてくれる。

 そして、龍介さんはわたしのスーツケースを持って外に出ると、扉に鍵をかけてから家の近くにあるポールに向かって歩いていく。そのポールにはキーボックスが付いていて、鍵をしまうことができるようになっていた。

「こうやって返すんですね」

「最初、このこと言わなかったんだよ。『綾乃に返してもらうから』とか言いだして」

「そう、なんですか……本当に龍介さんに来て頂いてよかったです。わたし、一人だったらどうしていいかわからなかったから」

「だから、俺のところにおいでって言ったのに」

「本当ですね。忍さんにも怒られそうです」

 だから言ったじゃないと怒る忍さんの顔が浮かぶ。きっと龍介さんも想像がついたのだろう。口元に手を当てて笑っている。

 そして、龍介さんはスーツケースを右手に持つと、わたしに左手を差し出した。迷いなくその手を取れば、しっかりと包み込んでくれる。

 タクシーの後部座席に乗り込んでも、彼はわたしの手を離そうとしなかった。大きな手のひらに包まれたままの左手が、やけに熱い。普通なら、もう離れてもいいタイミングのはず。なのに、彼が自然すぎるのか、それともわたしが離したくないと無意識に握り返しているのか。

(……どっちでもいいや)

 今はただ、この熱を感じていたくて、わたしは窓の外へと視線を逃がした。ガラスに映る自分が、だらしなく頬を緩めているのを見られたくなかったから。