シンデレラ・スキャンダル



 そろそろ食事会が終わる時間だというのに、卓也の姿が見当たらない。また周囲の目を盗んで、どこかの女性と二人きりになっているのだろうか。

 華やかなパーティー会場を、わたしは焦燥感を抱えながら探し回った。彼の秘書として、こういった公の場で彼を見失うのは失態。

 熱気でむせ返るような会場にも、喫煙所にも彼の姿は見当たらない。もう帰ってしまったのかと、外に出てあたりを見回す。すると、どこかへ行っていたのか、まるで時間をかけて散策でもしていたかのように、ゆったりとした足取りでこちらへ歩いてくる卓也の姿があった。

「田辺さん!」

「……どうしたの?」

「皆さんが、そろそろお開きの前にご挨拶をと、おっしゃっています。それで、お探ししておりました」

「ああ、今行くよ」

 卓也は軽く頷き、踵を返そうとしたわたしを「綾乃」と呼び止めた。

「……これ持ってて」

「はい?」

 突然のことに、思わず間抜けな声を出してしまった。

 不意に差し出されたのは、真新しい小さな箱。デバイスか何かの箱だろうか。手にすれば、なんだかずっしりと重い。

「仕事用のスマホ。必要だって思い出して、今、急いで買ってきたんだ」

 卓也は悪びれる様子もなく、そう言って微笑んだ。この男の行動はいつも予測不可能。仕事用のスマホが必要だと急に思い立ち、この重要なパーティーの最中に抜け出して買いに行ったというのだろうか。その突拍子のなさに、わたしはため息をつくこともできず、ただその真新しい箱を見つめるしかなかった。

「おっしゃってくだされば、わたしが買いに行きましたのに」

「いいよ、これぐらい。明日の朝イチで設定したいから持ってきて。初期設定とかは自分でやるから」

 どうせ、卓也が使う機器類は全てにロックがかかっている。わたしが触れるはずもない。わざわざ言わずとも、触ろうとも思わない。

「はい、かしこまりました。朝九時には、お部屋にお持ちいたします」

「よろしく。これから、会社の男性陣だけで飲みに行くから、もういいよ。今日は遅くまでご苦労様。秘書のみんなは、帰りなさい」

「かしこまりました。あ、明日は十時半から社内ミーティングですので」

「はいはい。分かってますって。寝坊しないように気を付けますよ、秘書さん。厳しい視線は怖いからね」

 卓也は茶化すようにそう言って、もう一度、微笑みをこちらに向けた。