◇
そろそろ食事会が終わる時間だというのに、卓也の姿が見当たらない。また周囲の目を盗んで、どこかの女性と二人きりになっているのだろうか。
華やかなパーティー会場を、わたしは焦燥感を抱えながら探し回った。彼の秘書として、こういった公の場で彼を見失うのは失態。
熱気でむせ返るような会場にも、喫煙所にも彼の姿は見当たらない。もう帰ってしまったのかと、外に出てあたりを見回す。すると、どこかへ行っていたのか、まるで時間をかけて散策でもしていたかのように、ゆったりとした足取りでこちらへ歩いてくる卓也の姿があった。
「田辺さん!」
「……どうしたの?」
「皆さんが、そろそろお開きの前にご挨拶をと、おっしゃっています。それで、お探ししておりました」
「ああ、今行くよ」
卓也は軽く頷き、踵を返そうとしたわたしを「綾乃」と呼び止めた。
「……これ持ってて」
「はい?」
突然のことに、思わず間抜けな声を出してしまった。
不意に差し出されたのは、真新しい小さな箱。デバイスか何かの箱だろうか。手にすれば、なんだかずっしりと重い。
「仕事用のスマホ。必要だって思い出して、今、急いで買ってきたんだ」
卓也は悪びれる様子もなく、そう言って微笑んだ。この男の行動はいつも予測不可能。仕事用のスマホが必要だと急に思い立ち、この重要なパーティーの最中に抜け出して買いに行ったというのだろうか。その突拍子のなさに、わたしはため息をつくこともできず、ただその真新しい箱を見つめるしかなかった。
「おっしゃってくだされば、わたしが買いに行きましたのに」
「いいよ、これぐらい。明日の朝イチで設定したいから持ってきて。初期設定とかは自分でやるから」
どうせ、卓也が使う機器類は全てにロックがかかっている。わたしが触れるはずもない。わざわざ言わずとも、触ろうとも思わない。
「はい、かしこまりました。朝九時には、お部屋にお持ちいたします」
「よろしく。これから、会社の男性陣だけで飲みに行くから、もういいよ。今日は遅くまでご苦労様。秘書のみんなは、帰りなさい」
「かしこまりました。あ、明日は十時半から社内ミーティングですので」
「はいはい。分かってますって。寝坊しないように気を付けますよ、秘書さん。厳しい視線は怖いからね」
卓也は茶化すようにそう言って、もう一度、微笑みをこちらに向けた。
そろそろ食事会が終わる時間だというのに、卓也の姿が見当たらない。また周囲の目を盗んで、どこかの女性と二人きりになっているのだろうか。
華やかなパーティー会場を、わたしは焦燥感を抱えながら探し回った。彼の秘書として、こういった公の場で彼を見失うのは失態。
熱気でむせ返るような会場にも、喫煙所にも彼の姿は見当たらない。もう帰ってしまったのかと、外に出てあたりを見回す。すると、どこかへ行っていたのか、まるで時間をかけて散策でもしていたかのように、ゆったりとした足取りでこちらへ歩いてくる卓也の姿があった。
「田辺さん!」
「……どうしたの?」
「皆さんが、そろそろお開きの前にご挨拶をと、おっしゃっています。それで、お探ししておりました」
「ああ、今行くよ」
卓也は軽く頷き、踵を返そうとしたわたしを「綾乃」と呼び止めた。
「……これ持ってて」
「はい?」
突然のことに、思わず間抜けな声を出してしまった。
不意に差し出されたのは、真新しい小さな箱。デバイスか何かの箱だろうか。手にすれば、なんだかずっしりと重い。
「仕事用のスマホ。必要だって思い出して、今、急いで買ってきたんだ」
卓也は悪びれる様子もなく、そう言って微笑んだ。この男の行動はいつも予測不可能。仕事用のスマホが必要だと急に思い立ち、この重要なパーティーの最中に抜け出して買いに行ったというのだろうか。その突拍子のなさに、わたしはため息をつくこともできず、ただその真新しい箱を見つめるしかなかった。
「おっしゃってくだされば、わたしが買いに行きましたのに」
「いいよ、これぐらい。明日の朝イチで設定したいから持ってきて。初期設定とかは自分でやるから」
どうせ、卓也が使う機器類は全てにロックがかかっている。わたしが触れるはずもない。わざわざ言わずとも、触ろうとも思わない。
「はい、かしこまりました。朝九時には、お部屋にお持ちいたします」
「よろしく。これから、会社の男性陣だけで飲みに行くから、もういいよ。今日は遅くまでご苦労様。秘書のみんなは、帰りなさい」
「かしこまりました。あ、明日は十時半から社内ミーティングですので」
「はいはい。分かってますって。寝坊しないように気を付けますよ、秘書さん。厳しい視線は怖いからね」
卓也は茶化すようにそう言って、もう一度、微笑みをこちらに向けた。


