突然遮られた視界をそのままに見つめていると、目の前の体が翻り、龍介さんの笑顔が目の前に現れた。
「席に戻りましょうか」
背中に添えられた手が温かい。笑うと黒目でいっぱいになってしまう瞳が、わたしの視線の先で優しい光を放つ。
「龍介さん」
「ん?」
優しい眼差しになにも言葉が出て来なくて、少し首を横に振り、「なんでもないです」と呟いた。
「綾乃、今日この食事会の後は時間ある?」
畑中さんに呼ばれて、一度会場の外に出ていたらしい龍介さんがテーブルに戻ってくるなり嬉しそうに笑って問いかけてきた。
「はい。帰るだけなので」
そう答えると、龍介さんが更に笑顔を深めた。その無邪気な笑い方が可愛くて、まだなにも聞いていないのに笑ってしまう。
「じゃあさ、俺の家来ない?」
「龍介さんの……」
「明日のスケジュールがちょっと変わって、朝ゆっくりできるから」
頷く以外の答えがあるはずがない。龍介さんと一緒に過ごせる時間を、一瞬で思い描いて、はっと息が漏れる。
「綾乃?」
「い、行きたいっ、です……」
前のめり気味に答えてしまった自分が恥ずかしくて、俯いてしまう。すぐに答えることもできなかった割に、声はうわずって、思ったよりも大きくて。
今までみたいに相手の反応を楽しむ余裕なんてない。相手の行動を予測して、言葉を準備しておくこともできない。ただ、龍介さんの言葉に、行動に、胸をときめかせるだけ。
「うん、じゃあ決まり。俺は先に出るから。畑中に迎えに来てもらうからその車に乗って」
「え、でも龍介さんは」
「俺はタクシー使うから大丈夫」
「ちょっとちょっとぉ。これから家に行くっていう話すか? いいなぁ」
龍介さんの隣で唇を尖らせる優くん。からかっているつもりだろうけれど、わたしはそれに構えない程に嬉しくて龍介さんを見つめた。
「綾乃、無視すんなよ。ねえ、ちょっと……龍介さん、綾乃が無視するんですけど!」
「もー。うるせーなー」
「龍、ずっと会えてなかったって言ってただろ? 今日はちょっと色々準備不足というか認識不足だったから……綾乃ちゃんへのお詫びも含めて。本当に動かせるスケジュールだけ動かしたんだよ」
「仁さん、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いいえ。三週間ぶり? 短い時間になっちゃうかもだけどゆっくり過ごしてね」
仁さんの言葉に頷くと、隣で龍介さんが突然ジャケットを脱いで、それをわたしの膝にかける。それには彼の温もりが残っていて、そして彼の香りがした。
「龍介さん?」
「そろそろ歌うから、持ってて」
その言葉に応えるよりも早く、左手に熱を感じて龍介さんを見上げた。悪戯っこみたいな笑顔なのに、わたしを見つめる瞳が優しすぎて、ときめくというよりも驚いて言葉が出てこなくて。
彼は繋がれた手に何度か力を込めると、「よし」と言って立ち上がる。
「優斗、Dawnの前に一曲歌っていい?」
「それはもちろん……でも、なにを歌うんすか?」
「今、歌っておきたいんだよね」
「龍?」
「作り途中なんですけど、いいですか?」
「……ああ、わかった」
仁さんは龍介さんの顔を見て、仕方がないとでも言うような笑顔を浮かべるとすぐに頷いた。わたしは答えを求めて優くんに視線を送ってみたけれど、とぼけるように優くんは首をひねる。
「席に戻りましょうか」
背中に添えられた手が温かい。笑うと黒目でいっぱいになってしまう瞳が、わたしの視線の先で優しい光を放つ。
「龍介さん」
「ん?」
優しい眼差しになにも言葉が出て来なくて、少し首を横に振り、「なんでもないです」と呟いた。
「綾乃、今日この食事会の後は時間ある?」
畑中さんに呼ばれて、一度会場の外に出ていたらしい龍介さんがテーブルに戻ってくるなり嬉しそうに笑って問いかけてきた。
「はい。帰るだけなので」
そう答えると、龍介さんが更に笑顔を深めた。その無邪気な笑い方が可愛くて、まだなにも聞いていないのに笑ってしまう。
「じゃあさ、俺の家来ない?」
「龍介さんの……」
「明日のスケジュールがちょっと変わって、朝ゆっくりできるから」
頷く以外の答えがあるはずがない。龍介さんと一緒に過ごせる時間を、一瞬で思い描いて、はっと息が漏れる。
「綾乃?」
「い、行きたいっ、です……」
前のめり気味に答えてしまった自分が恥ずかしくて、俯いてしまう。すぐに答えることもできなかった割に、声はうわずって、思ったよりも大きくて。
今までみたいに相手の反応を楽しむ余裕なんてない。相手の行動を予測して、言葉を準備しておくこともできない。ただ、龍介さんの言葉に、行動に、胸をときめかせるだけ。
「うん、じゃあ決まり。俺は先に出るから。畑中に迎えに来てもらうからその車に乗って」
「え、でも龍介さんは」
「俺はタクシー使うから大丈夫」
「ちょっとちょっとぉ。これから家に行くっていう話すか? いいなぁ」
龍介さんの隣で唇を尖らせる優くん。からかっているつもりだろうけれど、わたしはそれに構えない程に嬉しくて龍介さんを見つめた。
「綾乃、無視すんなよ。ねえ、ちょっと……龍介さん、綾乃が無視するんですけど!」
「もー。うるせーなー」
「龍、ずっと会えてなかったって言ってただろ? 今日はちょっと色々準備不足というか認識不足だったから……綾乃ちゃんへのお詫びも含めて。本当に動かせるスケジュールだけ動かしたんだよ」
「仁さん、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いいえ。三週間ぶり? 短い時間になっちゃうかもだけどゆっくり過ごしてね」
仁さんの言葉に頷くと、隣で龍介さんが突然ジャケットを脱いで、それをわたしの膝にかける。それには彼の温もりが残っていて、そして彼の香りがした。
「龍介さん?」
「そろそろ歌うから、持ってて」
その言葉に応えるよりも早く、左手に熱を感じて龍介さんを見上げた。悪戯っこみたいな笑顔なのに、わたしを見つめる瞳が優しすぎて、ときめくというよりも驚いて言葉が出てこなくて。
彼は繋がれた手に何度か力を込めると、「よし」と言って立ち上がる。
「優斗、Dawnの前に一曲歌っていい?」
「それはもちろん……でも、なにを歌うんすか?」
「今、歌っておきたいんだよね」
「龍?」
「作り途中なんですけど、いいですか?」
「……ああ、わかった」
仁さんは龍介さんの顔を見て、仕方がないとでも言うような笑顔を浮かべるとすぐに頷いた。わたしは答えを求めて優くんに視線を送ってみたけれど、とぼけるように優くんは首をひねる。


