「ああって! これを見ればLegacyがどれだけ素敵なグループかわかりますから。綾乃さんがおっしゃっていたんですよ。取引先やクライアント、関係各社のことをきちんと調べておくのも秘書のお仕事だって」
「そう、そうでしたね」
「見返りはYUTOのサインで結構ですから!」
優くんのサイン……きっと、喜んでしてくれる。
「ハイ、ガンバリマス」
「それにしても、綾乃さんがあの人のところで働くことになるって意外でした」
「卓也のところ?」
「はい。だって、今まで何回もそういうお話が出たけど、実現したこと一度もなかったじゃないですか。なんかあの人って口だけっていうか……」
「まあ、確かにね」
「それなのに今回は違いましたよね。綾乃さんがお仕事辞める時期と重なったこともあるかもしれないですけど……」
栞ちゃんがなにかを考えるようにして言い淀む。
「綾乃さんのことをちゃんと待っていたところが気になるんですよね。そういえば、相談ってなんだったんですか?」
「ああ、そういえばまだ聞けてないわ。もう聞く気もあまりないんだけど」
「あの人の場合、『ヨリを戻す』なんて可愛らしいもんじゃない気がするんです」
栞ちゃんが、グラスの縁を指でなぞりながら眉をひそめる。
「とんでもないことを言い出してきそうで……」
今までのことがあるからだろうけれど、考え込み始めてしまいそうな栞ちゃんに「でも大丈夫」とはっきりと伝える。
「もうきっと相談なんてないのよ。それになにを相談されても聞く気はないから。好きな人ができたって言ったの。プライドが高い人だからきっと」
「え、え? 好きな人? 綾乃さん、好きな人できたんですか?」
テーブルの上に乗り出して、わたしの顔を覗き込む彼女の大きな目を見つめ返す。
「ハワイで……出会った人と」
出会いを説明しながら、どんどん自分の声が小さくなっていく。今までどんな男の人の話をしても恥ずかしく思うことなんてなかったのに、龍介さんの話は上手く言葉が出てこない。
「なにそれ! 運命みたい」
「そう、なのかな。どうなんだろうね」
「そして綾乃さんが可愛い!」
「いや、別に」
「で、お仕事はなにをされている方なんですか?」
その質問に、心臓が跳ねた。視線を落とすと、テーブルの上に積み上げられたCDジャケット。その一番上で、金髪にサングラスの『RYU』が、不敵な笑みを浮かべてこちらを見上げている。
喉まで出かかった言葉を、ハイボールと一緒に飲み込む。 目の前の栞ちゃんは、何も知らずに瞳を輝かせている。
「お仕事は……」
LegacyのRYUだとそのまま告げることができたなら、どれだけいいだろう。アーティストで、ボーカリストだと。
「詳しくは知らなくて……」
わたしはジャケットの彼から目を逸らし、嘘を重ねた。
「あ、そういえば、YUTOのサインって」
無理矢理変えた話題だったけれど、栞ちゃんは大好きなYUTOの話だったからかすぐに応じてくれて、特に不思議に思っていないようだった。もう言葉を挟む暇もないほどに、彼女は嬉しそうにLegacyの話を続けている。
彼らの場合、ルックスに惹かれたという人たちも多いけれど、その生き方や考え方に共感するファンが多いと畑中さんが言っていたことを思い出す。ストイックさは男女問わずに魅了するのだと。
今や日本一のアーティストとも言える。芸能人との恋は、正直わからないことばかり。LegacyのRYUに恋人がいるということが、芸能界に疎いわたしにはどれだけ影響が大きいことなのかもわからない。
だから、わたしは慎重になって、妹のような栞ちゃんにさえも口をつぐむ。その後もLegacyの話は続いて、わたしがお店を出たのは終電間際だった。
「そう、そうでしたね」
「見返りはYUTOのサインで結構ですから!」
優くんのサイン……きっと、喜んでしてくれる。
「ハイ、ガンバリマス」
「それにしても、綾乃さんがあの人のところで働くことになるって意外でした」
「卓也のところ?」
「はい。だって、今まで何回もそういうお話が出たけど、実現したこと一度もなかったじゃないですか。なんかあの人って口だけっていうか……」
「まあ、確かにね」
「それなのに今回は違いましたよね。綾乃さんがお仕事辞める時期と重なったこともあるかもしれないですけど……」
栞ちゃんがなにかを考えるようにして言い淀む。
「綾乃さんのことをちゃんと待っていたところが気になるんですよね。そういえば、相談ってなんだったんですか?」
「ああ、そういえばまだ聞けてないわ。もう聞く気もあまりないんだけど」
「あの人の場合、『ヨリを戻す』なんて可愛らしいもんじゃない気がするんです」
栞ちゃんが、グラスの縁を指でなぞりながら眉をひそめる。
「とんでもないことを言い出してきそうで……」
今までのことがあるからだろうけれど、考え込み始めてしまいそうな栞ちゃんに「でも大丈夫」とはっきりと伝える。
「もうきっと相談なんてないのよ。それになにを相談されても聞く気はないから。好きな人ができたって言ったの。プライドが高い人だからきっと」
「え、え? 好きな人? 綾乃さん、好きな人できたんですか?」
テーブルの上に乗り出して、わたしの顔を覗き込む彼女の大きな目を見つめ返す。
「ハワイで……出会った人と」
出会いを説明しながら、どんどん自分の声が小さくなっていく。今までどんな男の人の話をしても恥ずかしく思うことなんてなかったのに、龍介さんの話は上手く言葉が出てこない。
「なにそれ! 運命みたい」
「そう、なのかな。どうなんだろうね」
「そして綾乃さんが可愛い!」
「いや、別に」
「で、お仕事はなにをされている方なんですか?」
その質問に、心臓が跳ねた。視線を落とすと、テーブルの上に積み上げられたCDジャケット。その一番上で、金髪にサングラスの『RYU』が、不敵な笑みを浮かべてこちらを見上げている。
喉まで出かかった言葉を、ハイボールと一緒に飲み込む。 目の前の栞ちゃんは、何も知らずに瞳を輝かせている。
「お仕事は……」
LegacyのRYUだとそのまま告げることができたなら、どれだけいいだろう。アーティストで、ボーカリストだと。
「詳しくは知らなくて……」
わたしはジャケットの彼から目を逸らし、嘘を重ねた。
「あ、そういえば、YUTOのサインって」
無理矢理変えた話題だったけれど、栞ちゃんは大好きなYUTOの話だったからかすぐに応じてくれて、特に不思議に思っていないようだった。もう言葉を挟む暇もないほどに、彼女は嬉しそうにLegacyの話を続けている。
彼らの場合、ルックスに惹かれたという人たちも多いけれど、その生き方や考え方に共感するファンが多いと畑中さんが言っていたことを思い出す。ストイックさは男女問わずに魅了するのだと。
今や日本一のアーティストとも言える。芸能人との恋は、正直わからないことばかり。LegacyのRYUに恋人がいるということが、芸能界に疎いわたしにはどれだけ影響が大きいことなのかもわからない。
だから、わたしは慎重になって、妹のような栞ちゃんにさえも口をつぐむ。その後もLegacyの話は続いて、わたしがお店を出たのは終電間際だった。


