一年前の高校二年の夏、ただみんな行くだろうという理由で、私も大学に行こうと思っていた。
それが一変したのは今年の三月。
太陽の暖かさを感じられる晴れの日だった。
お父さんが一週間も検査入院になった理由を私は知らなかった。
「湖心」
お父さんに呼ばれて病室に入ると、入れ違いに出ていったお母さんはハンカチで目元を押さえていた。なんだか嫌な予感がした。
「お前には話しておこうと思う。お父さんはね、すい臓がんだった。それも末期で、助かる見込みはないらしい。余命はもって半年だそうだ」
私の目をしっかりと見て、お父さんは話した。
「え? 胸やけと腰痛じゃ、なかったの?」
私は理解が追いつかず、呆然とそう返した。心臓だけがドクドクと早鐘を打っていた。
「すまない。お父さん、もっと早くに病院に行くべきだったな。そしたら、お前たちともう少し長く一緒にいられたのに」
お父さんは目を伏せて笑おうとした。けれど、その目からは涙が溢れた。
お父さんはいつだって我慢強い。泣き言を言わない。そんなお父さんが「最近腰が痛くてね。年かな」と言ってた時点で病院を勧めるべきだったのだ。私の目にも涙がたまって溢れ出した。
「お父さんが悪いんじゃないよ! 気付かずにごめんなさい」
「湖心が謝ることじゃないさ。お父さんの自己管理の甘さだよ」
お父さんはお酒が好きで、毎日美味しそうに晩酌をしていた。あまりに幸せそうだったから、お母さんも私も咎めることはできなかった。心当たりがあるとすればそれだけだ。
なんで。どうしてお父さんなの?
ベッドを起こして座っているお父さんにしがみついて、私は泣いた。お父さんのお腹は不自然に膨らんでいた。
「文人は小学三年だ。湖心には申し訳ないけれど、お姉ちゃんとして文人を、そしてお母さんを支えてくれるね? ただ、自分を犠牲にしてはならないよ。湖心にも自分のやりたいことをこれからもやって欲しい。お父さんとの約束だよ?」
眉を八の字にして泣きながら言うお父さんに、私はただうんうんと涙を拭うことさえ忘れて頷いた。
それからの三ヶ月は長いようであっという間だった。
お父さんが必死で死に抗うのを。けれどそれ以上にがんがお父さんの体を蝕み、お父さんを弱らせ、死へ引き摺り込むのを。私とお母さん、そして、お父さんが死ぬ間際まで原因を知らされていなかった文人は、涙を堪えながら見届けた。
火葬場で骨となったお父さんと対面した時、残された私たちは言葉を発することもできずに泣いた。がんに侵された場所が赤黒くなっていて、骨はぼろぼろだった。
神はいない。
お父さんが何をしたの?
私は泣きながらそう思った。



