『男子平泳ぎ200メートル、予選第12組の試合を開始します』
あれから20分後。僕はプールサイドに立っていた。
ジャージを脱いで『MIZUHARA』と書かれた箱の中にしまう。
身に着けているのは、ハーフスパッツタイプの水着着だ。
色は黒。太股に水色のラインが走っている。
目の前には青いプール。
照明で隅々まで照らされている。
加えて僕の後ろとプールの向こう側には、青いシャツ&黒いパンツ姿の審判員の姿があった。
「わくわくしてきた」
「落ち着け、落ち着け……」
「ぜってー負けねえ」
相も変わらず、ここには色んな感情が漂っている。
高揚感、緊張、闘争心。
そんな感情を紛らわすように、選手達は各々跳ねたり、両手を左右に振ったりしている。
因みに僕は何もしない。
いつも通りぼーっとしているはず……だったんだけどな。
「……あ、いた」
気付けば、永良の姿を探していた。
西側の下の方、我喜屋君の隣に座って観戦している。
謎に背筋を伸ばして、ただでさえ大きな目をかっと見開いていた。
一秒たりとも見逃さない。
そんな気迫を感じる。
予選からその調子なの? 大分強火だね。
まったく……あんなに熱心なのに、どうして今まで気付かなかったんだろう。
それだけ、真っ暗闇の中で生きてたってことなのかな。
君に出会わなかったら、僕はどうなっていたんだろうね。
微苦笑を浮かべつつゴーグルをかけた。
透明な青の中を歩いて、飛び込み台に片足を乗せる。
ホイッスルが鳴り響く。
一回、二回、三回………五回目で台の上へ。
後ろに控えていた審判員が、僕の背後に立った。
『Take your marks』
合図を受けて飛び込んだ。
水泡の雲を抜けて、前へ前へと進んでいく。
永良は今、どんな目で僕を見ているんだろう。
僕がゴールした時、どんな反応を見せてくれるんだろう。
また弱気になる?
いや、まずは喜んでくれるかな。君は強火オタクだから。
『すっげえ!!』
永良がキラッキラの目で見つめてくる。
その目にはもう僕しか映っていなくて。
それもいい。
それもいいんだけど、何か物足りないんだよね。
何か……遠い。もっともっと近付きたい。
プールの壁に僕の手が触れた。ゴールだ。
水中から顔を上げて、観客席に目を向ける。
すると、永良は険しい顔で首を傾げていた。
何あれ。超ムカつく。
「何なの――っ!」
電光掲示板に目を向けて、漸くその理由が分かった。
僕の名前の横に表示されたタイムは、2分11秒。
自己ベストよりも6秒も遅かった。
「……やばっ」
「厳巳!!!!!!!!!!!!!」
案の定、怒鳴られた。当然だ。
1.0〜3.0秒ならまだセーブで通せるけど、それ以上は怠惰と取られる。
コーチなら猶更だ。
反省しないと。
いくら永良に『ざまあ』されたいからって、故意もしくは自滅する形で負けるのは絶対にナシだ。
それじゃ何の意味もない。
というか、永良に対して失礼だ。
彼とは正々堂々と戦って、ちゃんと負けないと。
「…………」
なんて思いつつも、一方でこうも思い始めている。
無理かもしれない。
永良は僕には勝てないかもしれない……と。
だけど、僕と永良の間で成立しそうな関係は、主人公とライバル以外に考えられない。
ライバルがダメなら友達、欲を言えば親友になりたいけど、どうしたらいいのか……。
長く独りでいすぎた。
親友はおろか友達の作り方さえ、僕にはもう分からなくて。
『お前には競泳しかねえ。この世界でしか生きていけねえんだからな』
コーチのあの考えは、あながち間違っていないのかもしれない。
我喜屋君のことが死ぬほど羨ましい。心からそう思った。
あれから20分後。僕はプールサイドに立っていた。
ジャージを脱いで『MIZUHARA』と書かれた箱の中にしまう。
身に着けているのは、ハーフスパッツタイプの水着着だ。
色は黒。太股に水色のラインが走っている。
目の前には青いプール。
照明で隅々まで照らされている。
加えて僕の後ろとプールの向こう側には、青いシャツ&黒いパンツ姿の審判員の姿があった。
「わくわくしてきた」
「落ち着け、落ち着け……」
「ぜってー負けねえ」
相も変わらず、ここには色んな感情が漂っている。
高揚感、緊張、闘争心。
そんな感情を紛らわすように、選手達は各々跳ねたり、両手を左右に振ったりしている。
因みに僕は何もしない。
いつも通りぼーっとしているはず……だったんだけどな。
「……あ、いた」
気付けば、永良の姿を探していた。
西側の下の方、我喜屋君の隣に座って観戦している。
謎に背筋を伸ばして、ただでさえ大きな目をかっと見開いていた。
一秒たりとも見逃さない。
そんな気迫を感じる。
予選からその調子なの? 大分強火だね。
まったく……あんなに熱心なのに、どうして今まで気付かなかったんだろう。
それだけ、真っ暗闇の中で生きてたってことなのかな。
君に出会わなかったら、僕はどうなっていたんだろうね。
微苦笑を浮かべつつゴーグルをかけた。
透明な青の中を歩いて、飛び込み台に片足を乗せる。
ホイッスルが鳴り響く。
一回、二回、三回………五回目で台の上へ。
後ろに控えていた審判員が、僕の背後に立った。
『Take your marks』
合図を受けて飛び込んだ。
水泡の雲を抜けて、前へ前へと進んでいく。
永良は今、どんな目で僕を見ているんだろう。
僕がゴールした時、どんな反応を見せてくれるんだろう。
また弱気になる?
いや、まずは喜んでくれるかな。君は強火オタクだから。
『すっげえ!!』
永良がキラッキラの目で見つめてくる。
その目にはもう僕しか映っていなくて。
それもいい。
それもいいんだけど、何か物足りないんだよね。
何か……遠い。もっともっと近付きたい。
プールの壁に僕の手が触れた。ゴールだ。
水中から顔を上げて、観客席に目を向ける。
すると、永良は険しい顔で首を傾げていた。
何あれ。超ムカつく。
「何なの――っ!」
電光掲示板に目を向けて、漸くその理由が分かった。
僕の名前の横に表示されたタイムは、2分11秒。
自己ベストよりも6秒も遅かった。
「……やばっ」
「厳巳!!!!!!!!!!!!!」
案の定、怒鳴られた。当然だ。
1.0〜3.0秒ならまだセーブで通せるけど、それ以上は怠惰と取られる。
コーチなら猶更だ。
反省しないと。
いくら永良に『ざまあ』されたいからって、故意もしくは自滅する形で負けるのは絶対にナシだ。
それじゃ何の意味もない。
というか、永良に対して失礼だ。
彼とは正々堂々と戦って、ちゃんと負けないと。
「…………」
なんて思いつつも、一方でこうも思い始めている。
無理かもしれない。
永良は僕には勝てないかもしれない……と。
だけど、僕と永良の間で成立しそうな関係は、主人公とライバル以外に考えられない。
ライバルがダメなら友達、欲を言えば親友になりたいけど、どうしたらいいのか……。
長く独りでいすぎた。
親友はおろか友達の作り方さえ、僕にはもう分からなくて。
『お前には競泳しかねえ。この世界でしか生きていけねえんだからな』
コーチのあの考えは、あながち間違っていないのかもしれない。
我喜屋君のことが死ぬほど羨ましい。心からそう思った。
