ざまあをください。

お友達はたぶん170センチぐらい。
黒髪センター分けで、くったりとした目をしている。
ゆるそうな感じの人だ。
この人も僕や永良(ながら)と同い年なのかな?

「ダメだ。お前はすっこんで――」
「マジモンのシンデレラストーリー? 王子様のお眼鏡にかなっちゃった感じ?? あっ、それとも~」

返答の余地すら与えてもらえない。
まさにマシンガントーク。
眩暈を覚えた。物凄く疲れる。

「リズ、まずは自己紹介からだろ」
「ああ、そうだね! ごめん、ごめん♪ ガキヤリズム。我、喜ぶ住まいと書いて我喜屋(がきや)。美しい音と書いてリズムです! 因みに俺も中3。15だからタメ語でOKよん☆」
我喜屋(がきや) 美音(りずむ)君? 同い年?」
「そうそう! よろしくね〜♡♡♡」

強引に手を取られて強制握手。
物凄くマイペース。案の定、苦手なタイプの人だった。
この人とはあまり関わり合いたくないな。

「へぇ? 厳巳(いずみ)君って、顔だけじゃなくて手も綺麗なんだね」
「?」

我喜屋君はついでとばかりに僕の手を観察し出した。
綺麗? 何の変哲もないフツーの手だと思うけど。

「んっ」
「っ!」

ヤバ。指先で擽られて、思わず変な声が出ちゃった。
慌てて口元を覆うけど、手遅れだった。
我喜屋君が嗤ってる。ニチャアとしたやらしい顔で。

「えっろ」
「リズッ!! いい加減にしろッ!!」

永良が僕と我喜屋君を引き離してくれる。
助かった。ほっと息を吐きながら、ポケットに両手を隠す。

「たはぁ〜! メンゴメンゴ♡」
「〜〜っ、大体お前な」

永良のお小言が続く。
今回に限らず、過去のやらかしにまで言及し出した。
どうやら彼らは、中学でも、スクールでも、プライベートでも一緒に過ごしているらしい。

……なら、後にしてくれないかな。
僕とは大会の時にしか会えないんだから。
きゅっと唇を引き結んで、顔を俯かせる。

「はぁ〜……この前のジャパンオープンで色々あったんだよ」

不貞腐れたように永良が語り出した。
お小言タイムは済んだみたいだ。
目が死にかけていた我喜屋君が、ぱっと息を吹き返す。

「へぇ!? でっ? でっ?」
「だから、色々だって……」

詳しく話す気はないみたいだ。
僕に配慮してのことなのかな。
ありがたいけど、でも……僕はどうにも知って欲しくて。

「永良が約束してくれたんだ。僕を負かすって」

出来るだけ自然にさらりと明かした。
悪戯を仕掛けた時のことを思い出す。
何だかドキドキするな。

「ばっ、バカッ!!」
「~~っ♪」

永良は慌てて周囲に目を向けた。
……何それ。
君にはガッカリだ。
その程度の気持ちだったの?
見ず知らずの人に睨まれたり、嗤われたりするだけで揺らいでしまうような。

「……本気じゃなかったんだ」
「違っ……けど……」
「けど、何?」
「うっ……」

永良がどんどん困り顔になっていく。
一方で、僕はどんどんイライラを募らせていった。
『やっぱ無理だ』って、そう言われているような気がして。

「……うそつき」
「っ! いっ、厳巳――」
「もういいよ。バイバイ」

背を向けて歩き出す。
足取りは重い。
……永良のバカ。

「〜〜っ!!!!! あ゛〜あっ! そうだよ!! 俺が厳巳を負かすんだッ!!!」

甲高くて、ちょっと掠れたような声が響き渡る。永良だ。
彼の声を阻むものは何もなかった。
ちょうど選手が入れ替わるタイミングで、BGMもピタリと止んでいた。

「「「…………」」」

会場中がしんとした静寂に包まれる。
けど、その静寂は直ぐに破られて。

「マジか……」
「アイツ誰?」
「あんまイジってやんなよ。かわいそーじゃん」

会場中がざわめき出した。
好奇3割、嘲笑7割ってところか。

永良の顔がみるみる内に青褪めていく。
だけど、ぎっと歯を食いしばって。

「かっ、覚悟しとけよ! 厳巳!!!」

この前みたいにガクブルしながら宣言してきた。
形はどうあれ、これはもう紛れもない『宣戦布告』。
ここにいる4000人近い人々がその証人だ。
もう逃げられないね、永良。
計画通り(大嘘)

ふふん♪と鼻を鳴らすと、永良がガウッと吠えてきた。
君、ほんとチワワみたいだよね。

「ありがと、永良。楽しみにしてるよ」

背を向けて歩き出す。
足取りは軽い。
鼻歌の一つでも披露したい気分だ。

「へえ~? いずみんって、笑うと結構可愛いんだね」
「………………………知るかボケ」
「はっはっはっは!! もう〜〜! 素直じゃないんだから〜♡♡」

どうやら僕はまた笑っていたらしい。
君以外の人に笑顔を見せてしまったのは、何だか癪だけど……まぁ、こういうのも悪くないかなとも思う。

「厳巳!! とっとと降りて来い!! 棄権する気か!!」

コーチだ。プールサイドから僕のことを呼んでいる。
僕は右手で応えつつ、バックヤードを目指して駆けていく。
今度は僕の番だ。見ててね、永良。