ざまあをください【完結/改稿済】

「さっ、行くよ」
「つかお前、練習は……?」
「サボって来たに決まってるでしょ」
「はぁっ!!!?」

永良(ながら)の目が大きく見開く。
口もあんぐり開いてて……何だかハムスターのミームを思い出すな。

ふふっ、と笑いながらパシャっと撮影。
そうしたら永良がガウガウ吠え出した。

ハムスターになったり仔犬になったり……。
ホント見てて飽きないな。

「サボっただ!? 何やってんだよ、このバカッ!!!」
「うるさいな……」
「お前な、ちったぁ的場(まとば)さんの気持ちも汲んでやれよ。あの人は本気でお前のこと、一番にしようとしてんだ――」
「ちょっと待って。君、もしかしてコーチに絡まれたの?」
「ああ。例の大会の一件でな」
「……何で?」
「傍から見ればお前は被害者なんだ。当然だろ」

永良が言っているのは、『春の中学生大会』でした『ざまあ宣言』のことだ。
けど、彼が言うほど大事にはなっていない。
もっと言うと、完全にスルーされているような状態だ。

あまりにも力の差がありすぎて、誰もまともに取り合わなかったんだ。
それはコーチも同じだったんだけど……そう。
裏で永良に接触してたんだね。

「嫌なこと言われなかった?」
「バカ。メッチャ感謝されたわ。俺なんかに頭まで下げて」
「まさか……話したの? あの日のこと」
「当たり前だろ。的場さんはお前のコーチなんだから」
「サイアク……」

普通言う?
コーチに弱みを握られたようで気分が悪い。

「とにかく、今からでもいいから練習行け。特急乗りゃ、ギリ間に合うだろ」
「ヤダ」
「なら絶交だ」
「それは……ずるいよ」
「ほらっ、とっとと行け」

永良が歩き出す。
話は終わりだと言わんばかりに。
僕は堪らずもう一度「サイアク」と呟いたけど、それでも永良は止まらない。

「それからもうここには来るな」
「オフの日でも?」
「こんなとこに来る暇あったら、しっかりカラダ休ませろ」

気遣ってくれてるようでいて、突き離されているような気がした。
こんなにも頑なで大丈夫なのかな?
あの交渉が成立するのか、本気で不安になってきた。

――主人公を降りて、僕と仲良くするのか。
――主人公を続けて、僕と距離を置き続けるのか。

今の永良なら後者を選ぶような……そんな気がしてる。
絶交カードを切るのにも、まるで躊躇が無かったから。

……ホントに君が何を考えているのか、まるで分からない。
八年近くずっと僕のことを気にかけて、今は僕のためにこんなにも一生懸命頑張ってくれているのに――どうして君は僕を求めてくれないんだろう。

「話なら、年明けの全日本の時にでも聞いてやるから」
「……四か月も先だね」
「そうだな」
「…………」
「…………」
「……分かった。ありがと」

永良の背中がガラス戸の向こうに消えていく。
一人残された僕は溜息一つに駅に向かった。

帰りのモノレールは、僕に『さっさと帰れ』と言わんばかりに直ぐに来た。
永良のスクールが遠ざかっていく。
永良と行くはずだったモックも遠く彼方へ。

その二つが見えなくなった後で、僕はヘッドホンをした。
お気に入りのアニソンを再生する。
だけど、僕の気分は僅かも上がることはなかった。