「さっ、行くよ」
「お前、練習は……?」
「サボって来たに決まってるでしょ」
永良の目がますます大きくなって、口がぽかーんと開いていく。
何か……ハムスターのミームを思い出すな。
ケージの隅で口を開けて驚いてるヤツ。あれ好きなんだよね。
ふふっ、と笑いながらパシャっと撮影。
そうしたら、永良が吠え出した。
言わずもがな、我に返ったんだろう。
ハムスターになったり仔犬になったり……。
ほんと、見てて飽きないな。
「サボっただ!? 何やってんだよ、このバカッ!!!」
「うるさいな……」
「お前な、ちったぁ的場さんの気持ちも汲んでやれよ。あの人はお前に本気なんだよ。本気でお前のこと、一番にしようとしてんだ」
……的場さん?
妙に親しげだな。まさか――。
「コーチに絡まれたの?」
「当たり前だろ。傍から見れば、お前は被害者。貰い事故を喰らったような形になってんだ。的場さんが見過ごすわけがねえ」
永良が言っているのは、『春の中学生大会』でした『ざまあ宣言』のことだ。
けど、彼が言うほど大事にはなっていない。
もっと言うと、完全スルーされているような状態だ。
あまりにも力の差がありすぎて、誰もまともに取り合わなかったんだ。
それはコーチも同じで、永良を話題にすることは一度もなかったんだけど。
「嫌なこと言われなかった?」
「バカ。メッチャ感謝されたわ。俺なんかに頭まで下げて」
「あの人が? 嘘でしょ……」
「とにかく、今からでもいいから練習行け。特急乗りゃ、ギリ間に合うだろ」
「ヤダ」
「なら、絶好状態で『ざまあ』すんぞ。それでもいいのか」
「……それって、もう口も聞かないってこと?」
「そうだ」
「それは……困る」
「なら、とっとと行け」
永良が歩き出す。
話しは終わりだと言わんばかりに。
僕は堪らず「サイアク」と呟いたけど、それでも永良は止まらない。
「それから、ここにも二度と来んなよ」
「オフでも?」
「こんなとこに来る暇あったら、しっかりカラダ休ませろ」
気遣ってくれてるようでいて、突き離されているような気がする。
やっぱり彼の中には『鉄の掟』が。
『推しである僕と私的な関係になるのはNG』みたいなものがあるんだろう。
今回の一件で良く分かった。
永良を脱オタさせない限り何も始まらない。
早く例の作戦を決行させないと。
「話なら、年明けの全日本で聞いてやるから」
「……四か月も先じゃない」
「そうだな」
「…………」
「…………」
永良の背中がどんどん遠ざかっていく。
ワンチャンもう一発食らいつきたいところではある。
永良とモック。キャッキャウフフ。お友達ショット。
どれも譲れない。諦めたくない。
だけど、今日のところは潔く引こう。
おそらくこれが、今の永良に出来る最大限の譲歩だ。
ここは大人しく待つのが賢明だろう。
四か月……僕には耐えがたいロスではあるけど。
「分かったよ。その代わり今度は逃げたりしないで、ちゃんと最後まで話を聞いてね」
「ああ」
永良の背中がガラスドアの向こうに消えていく。
一人残された僕は、溜息一つに駅に向かった。
帰りのモノレールは、僕にさっさと帰れと言わんばかりに直ぐに来た。
永良のクラブが遠ざかっていく。
永良と行くはずだったモックも。
『嫌なこと言われなかった?』
『バカ。メッチャ感謝されたわ』
コーチはもう既に、永良が僕のモチベのカギであることに気付いているんだろう。
それで、感謝した。そして、お願いしたんだろうと思う。
これからも、厳巳の主人公で……ライバルでいてやってくれって。
『俺なんかに頭まで下げて』
あの物言いから察するに、永良は的場コーチのことを尊敬している。
コーチの鑑とか、そんなふうに思っているんだろう。
だけど、僕はそうは思えない。
僕が思うに、コーチの目的もまた『ざまあ』だ。
現役時代の自分に見向きもしなかった協会のお偉方や、かつてのスター選手達を見返したい。
そのために、僕を利用しようとしている。
……僕の目には、そんなふうに映っていた。
だから、僕には響かないんだ。
あの人が何を言おうとも。
「ふぁ~……」
窓を背に大あくびをする。
うん。やっぱ今日はサボろう。
バックからワイヤレスイヤホンを取り出して、お気に入りのアニソンを再生する。
スマホに表示させたのは、さっき撮ったハムスターな永良だ。
可愛い。薄暗かったけど、バッチリ撮れてるな。
さんきゅー、アップル。
間違って消さないように、お気に入り登録しておこう。
写真の下のハートのボタンを押して、ふふん♪と鼻を鳴らす。
最速を目指すって言ったら、君は何って言うのかな。
きっと喜んでくれるよね、永良。
「お前、練習は……?」
「サボって来たに決まってるでしょ」
永良の目がますます大きくなって、口がぽかーんと開いていく。
何か……ハムスターのミームを思い出すな。
ケージの隅で口を開けて驚いてるヤツ。あれ好きなんだよね。
ふふっ、と笑いながらパシャっと撮影。
そうしたら、永良が吠え出した。
言わずもがな、我に返ったんだろう。
ハムスターになったり仔犬になったり……。
ほんと、見てて飽きないな。
「サボっただ!? 何やってんだよ、このバカッ!!!」
「うるさいな……」
「お前な、ちったぁ的場さんの気持ちも汲んでやれよ。あの人はお前に本気なんだよ。本気でお前のこと、一番にしようとしてんだ」
……的場さん?
妙に親しげだな。まさか――。
「コーチに絡まれたの?」
「当たり前だろ。傍から見れば、お前は被害者。貰い事故を喰らったような形になってんだ。的場さんが見過ごすわけがねえ」
永良が言っているのは、『春の中学生大会』でした『ざまあ宣言』のことだ。
けど、彼が言うほど大事にはなっていない。
もっと言うと、完全スルーされているような状態だ。
あまりにも力の差がありすぎて、誰もまともに取り合わなかったんだ。
それはコーチも同じで、永良を話題にすることは一度もなかったんだけど。
「嫌なこと言われなかった?」
「バカ。メッチャ感謝されたわ。俺なんかに頭まで下げて」
「あの人が? 嘘でしょ……」
「とにかく、今からでもいいから練習行け。特急乗りゃ、ギリ間に合うだろ」
「ヤダ」
「なら、絶好状態で『ざまあ』すんぞ。それでもいいのか」
「……それって、もう口も聞かないってこと?」
「そうだ」
「それは……困る」
「なら、とっとと行け」
永良が歩き出す。
話しは終わりだと言わんばかりに。
僕は堪らず「サイアク」と呟いたけど、それでも永良は止まらない。
「それから、ここにも二度と来んなよ」
「オフでも?」
「こんなとこに来る暇あったら、しっかりカラダ休ませろ」
気遣ってくれてるようでいて、突き離されているような気がする。
やっぱり彼の中には『鉄の掟』が。
『推しである僕と私的な関係になるのはNG』みたいなものがあるんだろう。
今回の一件で良く分かった。
永良を脱オタさせない限り何も始まらない。
早く例の作戦を決行させないと。
「話なら、年明けの全日本で聞いてやるから」
「……四か月も先じゃない」
「そうだな」
「…………」
「…………」
永良の背中がどんどん遠ざかっていく。
ワンチャンもう一発食らいつきたいところではある。
永良とモック。キャッキャウフフ。お友達ショット。
どれも譲れない。諦めたくない。
だけど、今日のところは潔く引こう。
おそらくこれが、今の永良に出来る最大限の譲歩だ。
ここは大人しく待つのが賢明だろう。
四か月……僕には耐えがたいロスではあるけど。
「分かったよ。その代わり今度は逃げたりしないで、ちゃんと最後まで話を聞いてね」
「ああ」
永良の背中がガラスドアの向こうに消えていく。
一人残された僕は、溜息一つに駅に向かった。
帰りのモノレールは、僕にさっさと帰れと言わんばかりに直ぐに来た。
永良のクラブが遠ざかっていく。
永良と行くはずだったモックも。
『嫌なこと言われなかった?』
『バカ。メッチャ感謝されたわ』
コーチはもう既に、永良が僕のモチベのカギであることに気付いているんだろう。
それで、感謝した。そして、お願いしたんだろうと思う。
これからも、厳巳の主人公で……ライバルでいてやってくれって。
『俺なんかに頭まで下げて』
あの物言いから察するに、永良は的場コーチのことを尊敬している。
コーチの鑑とか、そんなふうに思っているんだろう。
だけど、僕はそうは思えない。
僕が思うに、コーチの目的もまた『ざまあ』だ。
現役時代の自分に見向きもしなかった協会のお偉方や、かつてのスター選手達を見返したい。
そのために、僕を利用しようとしている。
……僕の目には、そんなふうに映っていた。
だから、僕には響かないんだ。
あの人が何を言おうとも。
「ふぁ~……」
窓を背に大あくびをする。
うん。やっぱ今日はサボろう。
バックからワイヤレスイヤホンを取り出して、お気に入りのアニソンを再生する。
スマホに表示させたのは、さっき撮ったハムスターな永良だ。
可愛い。薄暗かったけど、バッチリ撮れてるな。
さんきゅー、アップル。
間違って消さないように、お気に入り登録しておこう。
写真の下のハートのボタンを押して、ふふん♪と鼻を鳴らす。
最速を目指すって言ったら、君は何って言うのかな。
きっと喜んでくれるよね、永良。
