ざまあをください【完結/改稿済】

翌日。僕は()()()()()()()()()()永良(ながら)の地元に向かった。

「ふ~ん。ここが永良の……」

のどかさと暮らしやすさが共存しているような街だ。

駅の向こうには小山、スクールの裏手には茶畑が広がっている一方で、駅前には大きなスーパーが二軒、幹線道路沿いには有名チェーンがずらりと建ち並んでいる。

永良のヤツ、結構いいところに住んでるじゃん。

「……三時か」

永良と同じ中学&学年の子のSNSの情報が正しければ、今日の授業は六限目まで。
ここに着くのはたぶん四時ぐらいになるだろう。

「完璧」

スクールの前に陣取った僕は、ふんっと鼻を鳴らして伸びをした。
今日の僕は早退してきたこともあって制服姿だ。

深緑色のブレザーに黒のズボン。
Yシャツは白でセーターは紺色。
首には金×白黒のストライプのネクタイを締めている。

……とまぁ、文字だけでも分かる通りかなり主張強めな制服だ。
街中では目立って仕方がないけど、面倒なのでもう気にしないことにしている。

「お~、すごい」

頭上をゆったりと走るモノレールを撮っていると、駅の向かいにモックがあることに気付いた。
永良が来たらあそこで話そうかな。

「……へへっ、永良とモックか」

目的を忘れて妄想に耽る。

『僕、ピクルス苦手なんだよね』
『なら俺が食べてやるよ!』

永良の小さな指がピクルスを抜き取る。

『おわっ、ケチャップ付いた』

そう言って指に付いたケチャップを赤い舌で舐め取る。

『……何だよ。行儀悪いって?』
『別に?』

むっとする永良。けど、直ぐに『ぐははっ!』と声を上げて笑い出した。
大口を開けて、凄く楽しそうに。

――パシャ。

僕はそんな永良の姿をスマホに収めた。
そうしたら永良は『や~め~ろ~よ~』なんて言いながら、僕に向かって手を伸ばしてきて――。

「ウムウム」

なかなか友達っぽいんじゃないか?
よし。ちゃんと撮って待ち受けにしよう。

「イズミくん?」

いつの間にやら、僕の足元にはショタっ子の姿があった。
褐色肌のちょっと内気な感じの子だ。
僕はしゃがみ込んで、その子と目線を合わせる。

「うん。そうだよ」

短く答えると、ショタ君の瞳がぱぁーっと輝き出した。
可愛い。子供は無邪気でいいな。

「サインちょうだい!」
「ちょっ!? ごめんなさいね~」

ショタ君の母親と思われるおばさんが駆け寄って来た。
僕は「いいえ」と首を左右に振って、ショタ君に向き直る。

「いいよ。どこにしようか」
「やった! えっとね、えっと……会員証に!」
「分かった」

僕はリュックの中から油性ペンを取り出した。
これもまたコーチの言いつけだ。
出掛ける時は必ず油性ペンを持ち歩くようにしている。

『いいか? お前はもう()()()()()()なんだ。しっかり肝に銘じとけ』

そう言ってコーチは箱買いした油性ペンを押し付けてきた。
もう三年前になるかな。
三十本もあったペンはもう十本もない。

「アタシも!」
「俺にも、お願いしてもいいですか……?」
「わぁ……! 本物の厳巳(いずみ)君だ♡」
「やっばぁ~、超カッコイイ♡♡」

気付けば僕の周囲は人で溢れ返っていた。
子供限定、とはいかず親御さん達にも握手をしたり、サイン(筆記体で書いただけ)をしたり、簡単なインタビューにも答えたりしていく。

ぶっちゃけると、ちょっと前まではこの手の人達のことが凄く苦手だった。
絶対王者、金メダル、伝説……そんなケバケバしたワードをふんだんに使って、主人公の存在を否定してくるから。

でも、今は全然気にならない。
永良のお陰だ。

――僕はもう君の特別になれればそれでいい。

「いっ、厳巳!?」

来た。小さく息をついて振り返る。

永良もまた制服姿だった。
ブレザーは紺色で、ズボンの色は黒。
Yシャツとセーターの代わりに、灰色のフード付きのパーカーを着ている。
ネクタイはしていないみたいだ。

校則、緩いんだね。羨ましいな。

我喜屋(がきや)君は……一緒じゃないみたいだ。
お休みなのか、それとも永良が先に来たのかな。
何にせよ助かる。彼がいるとややこしくなるから。

「何でこんなとこに!?」
「話したいことがあって来たんだ」
「~~っ、だからって押しかけてくる奴があるか!」
「君が連絡先を教えてくれないのが悪いんでしょ」
「うぐっ!? そりゃ……そうだけどよ……」

周囲の人達が「それじゃ~」と遠慮がちに挨拶をして去っていく。
言うまでもなく気を遣ってくれたんだろう。

やっぱりここで話すと迷惑になるな。
予定通りモックに行こう。