光と闇の戦いは、時を経るごとに激しさを増していった。
わたくしは変わらずペンダントの中。
玉座横のジュエリースタンドから、戦いの行く末を見守っている。
ユーリは右手前方で魔王の本体と。
ビルは左手前方で魔王の分身と。
その他数十人の戦士達は、後方で魔王の臣下達と交戦している。
「ぐあっ!?」
ユーリの体が吹き飛ぶ。
魔王に蹴り飛ばされたようだ。
「………っ」
持ち上げた顔は悔しげだった。
その口端からは真っ赤な血が流れ出ている。
「くそっ」
袖で乱雑に口元を拭った。
上下白の軍服は所々破れて血が滲んでいる。
対する魔王はほぼ無傷の状態。
黒い軍服は僅かも乱れていない。
「さて勇者よ。次はどう出る?」
ユーリは無言のまま、一方で闘志を滾らせたまま火球を放った。
球を中心に弓形に飛び散る火の粉。
その姿はまるで翼を広げた火の鳥のようだった。
とても美しい魔法ね。
「まぁ、二十の若造にしてはやる方だ――っ!」
ユーリの火球に続いて、別の――太陽を思わせるような巨大な火球が迫って来る。
「なるほど。これが本命か。くっくっくっ……いいぞ! 来い!!」
魔王はあろうことか二つの火球を正面から受け止めに掛かった。
赤い火花と紫色のオーラが吹き荒れる。
目を凝らすと、魔王が火球を打ち上げているのが見えた。
耳を劈くような爆音を響かせながら、天井を、幾重にも積み重なった雲を突き破っていく。
そうして火球は遥か上空へ。
城内に光が差し込んでくる。
「くっくっく……」
陽の光が魔王の体を照らし出す。
黒い軍服はシャツごと破れて、肩に辛うじてかかっているような状態に。
真っ白な両手は黒焦げになっていた。
「……化けモンが」
悪態をついたのはレイだった。
彼の周囲には、魔術師特有の青い光の残滓が漂っている。
相変わらずの全身黒ずくめ。
革製の黒のジャケット、パンツ、ブーツスタイルを貫いている。
「その言葉、そっくりそのまま返してやる。実に見事であった。師を……大賢者エルヴェ・ロベールを超えたな」
「……そうかい」
レイの体が光に包まれる。
緑色の光。あれは治癒術ね。
術者を見つけて――口元を覆う。
その女性は淡い茶色の髪を横結びにしていた。
着ているのは深緑色の甲冑。
機動力を重視してか兜は被らず、関節や脇腹は布地の防具で固めている。
彼女の得物は双剣であるようだ。
魔物からの攻撃を軽やかに躱して返り討ちに。
戦闘の合間合間に、仲間達の治療を行っている。
『エレノア様!』
実の姉のように慕ってくれた、そんなミラの姿が頭を過ぎる。
「ぐああぁあああああ!!!????」
断末魔と共に、魔王の分身が塵に変わっていく。
勝者は赤い軍服の男性――ビル。
しかしながら、彼は少しも喜ばない。
ただ……怒っている。いえ、憎んでいる。
あれほど温かかった萌黄色の瞳が、今は酷く冷たい。
「ユーリ」
そんな彼がユーリの名を呼んだ。
対するユーリは僅かも臆することなく返事をする。
「信じていいんだよね?」
「当然です」
即答だった。
おまけに自信満々な笑みも添えて。
ビルは思わずといった具合に吹き出すと、さり気なく顔を俯けた。
ユーリに対する親愛と、ほんの少しの寂しさを感じる。
「じゃあ、よろしくね」
「先生も」
ビルはひらひらと手を振ると、すっと切り替えて魔王に斬り掛かった。
剣と剣とが、闘志と闘志とが激しくぶつかり合う。
剣が交わり合うたびに空気が震えて、石造りの壁や床が崩れていった。
「良い使い道を見つけたようだな」
「……どこまで視えてるの?」
「さあな?」
力の差は歴然。
ビルは苛烈でありながら、精緻で隙のない剣技で魔王を追い詰めていく。
『っ! あっ、あれは……!!』
眩い光を感じた。鋭利で、力強い光。
これは……勇者の光。ユーリだ。
剣を横に構えた状態で、足元に虹色の魔法陣を展開させている。
「ぐおおおぉおぉおお!!!!」
「ぎゃあぁああああ!!!」
光に照らされた魔物達が次々と塵に変わっていく。
光と闇は表裏一体。
光の民である人族の脅威は『闇魔法』であり、闇の民である魔族の脅威は『光魔法』である。
古来より言い伝えられてきた通説が今、真実に変わる。
戦いを終えた戦士達がユーリに目を向けていく。
光の勝利を。
魔王討伐の夢を託すように。
「ぐああぁああ!!!」
魔王の膝が折れた。
真っ白な上体から紫色の血が噴き出ている。
ビルが決めた。
おそらく魔王は……もう動けない。
「これで終わりだッ!!!」
ユーリが魔王に斬りかかる。
ビルはそんなユーリの姿を認めて、誇らしげな表情を浮かべた。
直後、彼の姿が消える。
後には魔王だけが残された。
魔王は――笑っていた。
彼は最後に何を思ったのだろう。
「ぐああぁああぁああああぁああッ!!?」
光の剣が魔王の体を斬り裂いた。
先ほどのビルの攻撃と合わさって、バツを刻むような恰好になる。
「見事、だ……」
魔王の体が、他の魔物同様に紫色の塵に変わっていく。
「真の魔王が……攻めてくる」
「っ!? 何だって!?」
「いつになるかは分からぬが、……まぁ……精々励むことだな」
戸惑うユーリ達を嘲笑い、そして消えていった。
彼は最期の最期まで魔王だった。
あの豪奢な仮面の下には、一体どんな素顔を隠していたのだろう。
『…………』
彼が犯した罪は重い。
けれど、彼からすればやむを得なかったのかもしれない。
だから、神に願い乞う。
どうか彼に罰を。贖罪の機会をお与えくださいと。
ペンダントに亀裂が走る。
靄が晴れて視界がクリアになってきた。
ああ、やっと……やっと外に……っ。
「エレノア!!!」
ユーリが駆け寄ってくる。
彼の手がペンダントに触れた。
それと同時に、浮遊感を覚えて――わたくしの体が大きく傾く。
わたくしは変わらずペンダントの中。
玉座横のジュエリースタンドから、戦いの行く末を見守っている。
ユーリは右手前方で魔王の本体と。
ビルは左手前方で魔王の分身と。
その他数十人の戦士達は、後方で魔王の臣下達と交戦している。
「ぐあっ!?」
ユーリの体が吹き飛ぶ。
魔王に蹴り飛ばされたようだ。
「………っ」
持ち上げた顔は悔しげだった。
その口端からは真っ赤な血が流れ出ている。
「くそっ」
袖で乱雑に口元を拭った。
上下白の軍服は所々破れて血が滲んでいる。
対する魔王はほぼ無傷の状態。
黒い軍服は僅かも乱れていない。
「さて勇者よ。次はどう出る?」
ユーリは無言のまま、一方で闘志を滾らせたまま火球を放った。
球を中心に弓形に飛び散る火の粉。
その姿はまるで翼を広げた火の鳥のようだった。
とても美しい魔法ね。
「まぁ、二十の若造にしてはやる方だ――っ!」
ユーリの火球に続いて、別の――太陽を思わせるような巨大な火球が迫って来る。
「なるほど。これが本命か。くっくっくっ……いいぞ! 来い!!」
魔王はあろうことか二つの火球を正面から受け止めに掛かった。
赤い火花と紫色のオーラが吹き荒れる。
目を凝らすと、魔王が火球を打ち上げているのが見えた。
耳を劈くような爆音を響かせながら、天井を、幾重にも積み重なった雲を突き破っていく。
そうして火球は遥か上空へ。
城内に光が差し込んでくる。
「くっくっく……」
陽の光が魔王の体を照らし出す。
黒い軍服はシャツごと破れて、肩に辛うじてかかっているような状態に。
真っ白な両手は黒焦げになっていた。
「……化けモンが」
悪態をついたのはレイだった。
彼の周囲には、魔術師特有の青い光の残滓が漂っている。
相変わらずの全身黒ずくめ。
革製の黒のジャケット、パンツ、ブーツスタイルを貫いている。
「その言葉、そっくりそのまま返してやる。実に見事であった。師を……大賢者エルヴェ・ロベールを超えたな」
「……そうかい」
レイの体が光に包まれる。
緑色の光。あれは治癒術ね。
術者を見つけて――口元を覆う。
その女性は淡い茶色の髪を横結びにしていた。
着ているのは深緑色の甲冑。
機動力を重視してか兜は被らず、関節や脇腹は布地の防具で固めている。
彼女の得物は双剣であるようだ。
魔物からの攻撃を軽やかに躱して返り討ちに。
戦闘の合間合間に、仲間達の治療を行っている。
『エレノア様!』
実の姉のように慕ってくれた、そんなミラの姿が頭を過ぎる。
「ぐああぁあああああ!!!????」
断末魔と共に、魔王の分身が塵に変わっていく。
勝者は赤い軍服の男性――ビル。
しかしながら、彼は少しも喜ばない。
ただ……怒っている。いえ、憎んでいる。
あれほど温かかった萌黄色の瞳が、今は酷く冷たい。
「ユーリ」
そんな彼がユーリの名を呼んだ。
対するユーリは僅かも臆することなく返事をする。
「信じていいんだよね?」
「当然です」
即答だった。
おまけに自信満々な笑みも添えて。
ビルは思わずといった具合に吹き出すと、さり気なく顔を俯けた。
ユーリに対する親愛と、ほんの少しの寂しさを感じる。
「じゃあ、よろしくね」
「先生も」
ビルはひらひらと手を振ると、すっと切り替えて魔王に斬り掛かった。
剣と剣とが、闘志と闘志とが激しくぶつかり合う。
剣が交わり合うたびに空気が震えて、石造りの壁や床が崩れていった。
「良い使い道を見つけたようだな」
「……どこまで視えてるの?」
「さあな?」
力の差は歴然。
ビルは苛烈でありながら、精緻で隙のない剣技で魔王を追い詰めていく。
『っ! あっ、あれは……!!』
眩い光を感じた。鋭利で、力強い光。
これは……勇者の光。ユーリだ。
剣を横に構えた状態で、足元に虹色の魔法陣を展開させている。
「ぐおおおぉおぉおお!!!!」
「ぎゃあぁああああ!!!」
光に照らされた魔物達が次々と塵に変わっていく。
光と闇は表裏一体。
光の民である人族の脅威は『闇魔法』であり、闇の民である魔族の脅威は『光魔法』である。
古来より言い伝えられてきた通説が今、真実に変わる。
戦いを終えた戦士達がユーリに目を向けていく。
光の勝利を。
魔王討伐の夢を託すように。
「ぐああぁああ!!!」
魔王の膝が折れた。
真っ白な上体から紫色の血が噴き出ている。
ビルが決めた。
おそらく魔王は……もう動けない。
「これで終わりだッ!!!」
ユーリが魔王に斬りかかる。
ビルはそんなユーリの姿を認めて、誇らしげな表情を浮かべた。
直後、彼の姿が消える。
後には魔王だけが残された。
魔王は――笑っていた。
彼は最後に何を思ったのだろう。
「ぐああぁああぁああああぁああッ!!?」
光の剣が魔王の体を斬り裂いた。
先ほどのビルの攻撃と合わさって、バツを刻むような恰好になる。
「見事、だ……」
魔王の体が、他の魔物同様に紫色の塵に変わっていく。
「真の魔王が……攻めてくる」
「っ!? 何だって!?」
「いつになるかは分からぬが、……まぁ……精々励むことだな」
戸惑うユーリ達を嘲笑い、そして消えていった。
彼は最期の最期まで魔王だった。
あの豪奢な仮面の下には、一体どんな素顔を隠していたのだろう。
『…………』
彼が犯した罪は重い。
けれど、彼からすればやむを得なかったのかもしれない。
だから、神に願い乞う。
どうか彼に罰を。贖罪の機会をお与えくださいと。
ペンダントに亀裂が走る。
靄が晴れて視界がクリアになってきた。
ああ、やっと……やっと外に……っ。
「エレノア!!!」
ユーリが駆け寄ってくる。
彼の手がペンダントに触れた。
それと同時に、浮遊感を覚えて――わたくしの体が大きく傾く。
