「勇者一行が、城に入ったようだな」
ガラスの檻の中から魔王に目を向ける。
この檻はペンダントのような形状をしているらしく、今は玉座横のミニテーブルに置かれた、十字のジュエリースタンドにかけられている。
「くっくっくっ……」
ご機嫌に笑う魔王の顔を紫色の炎が照らしている。
十年前から何一つ変わっていない。
魔王は変わらず若い青年の姿のままだ。
たぶんそれは……わたくしも同じ。
ユーリから貰ったハルジオンの花は、十年経った今も枯れずに残っている。
この空間は、鮮度を保つ特性を持っているのだろう。
心は三十歳、体は二十歳。
見た目だけでいえば、ミラよりも七つ年下になってしまった。
奇妙ね。何だか化け物になってしまったみたい。
ショックだけど、残された時間を思えば些末な問題ね。
『……お前の目的は何なの?』
朧気な意識の中で問いかける。
この十年ずっと問い続けてきた。
でも、その度にはぐらかされて。
きっと今日も……と、半ば諦めながら投げかけた。
だけど――。
「真の魔王を討ち取ってもらいたい」
今日は違った。
魔王のその表情は神妙で。
本心だと、直感的にそう思えた。
『真の魔王? それは……どこにいるの?』
「魔界だ。お前達では行けぬ。故に、エサを撒く」
それってまさか……。
「半魔なれど、魔界で四番目の実力者が破れるのだ。無視は出来んだろう」
『仇なの? 貴方はその真の魔王に何か恨みが……』
そうとしか思えなかった。
彼は明らかに自分の身を犠牲にしようとしている。
そうまでして成し遂げたい何かがあるとすれば、それは復讐以外には考えられなくて。
「さぁ? どうかな」
魔王は小さく笑った。
自嘲気味に。哀愁を湛えて。
魔王は憎むべき存在だ。
何の罪もない護衛隊の皆を、ユーリの村の人々を殺めたのだから。
なのに……どうにも慮ってしまう。
彼は選べなかった。
闇に堕ちざるを得なかったのではないかと。
「来たな」
魔王がそう呟くのと同時に、石の扉に亀裂が走った。
崩れ行く扉。その先には、大斧を持った重騎士の姿がある。
瓦礫が床に落ちる――前に、一人……誰かが先頭に立った。
紅髪の青年だ。サーベルを構えている。
彼は白い軍服を着ていた。
神聖でありながら、煌びやかで。
平和を願うすべての人々の思いが込められているようだった。
その重責は想像に難くない。
けれど、彼は呑み込まれることなく、見事なまでに着こなしていた。
その眩いばかりの精神力で以て。
『……ユーリ……っ』
涙で前が見えない。
わたくしは片手で涙を拭いながら、ハルジオンを一層強く抱いた。
「勇者ユーリ。よくぞ参った。褒めて遣わそう」
「エレノアを返せ」
「……無粋な奴だな。まぁ良い」
魔王が指を鳴らすと、暗闇から無数の音が迫ってきた。
城を揺らす重い音、床を這う不気味な音、そして――空気を切り裂く鋭利な音。
ユーリを始めとした戦士達に緊張が走る。
魔王はそんな彼らの反応を一頻り愛でると、勢いよく両手を広げた。
「さぁ、始めようか。闇と光の輪舞を」
ガラスの檻の中から魔王に目を向ける。
この檻はペンダントのような形状をしているらしく、今は玉座横のミニテーブルに置かれた、十字のジュエリースタンドにかけられている。
「くっくっくっ……」
ご機嫌に笑う魔王の顔を紫色の炎が照らしている。
十年前から何一つ変わっていない。
魔王は変わらず若い青年の姿のままだ。
たぶんそれは……わたくしも同じ。
ユーリから貰ったハルジオンの花は、十年経った今も枯れずに残っている。
この空間は、鮮度を保つ特性を持っているのだろう。
心は三十歳、体は二十歳。
見た目だけでいえば、ミラよりも七つ年下になってしまった。
奇妙ね。何だか化け物になってしまったみたい。
ショックだけど、残された時間を思えば些末な問題ね。
『……お前の目的は何なの?』
朧気な意識の中で問いかける。
この十年ずっと問い続けてきた。
でも、その度にはぐらかされて。
きっと今日も……と、半ば諦めながら投げかけた。
だけど――。
「真の魔王を討ち取ってもらいたい」
今日は違った。
魔王のその表情は神妙で。
本心だと、直感的にそう思えた。
『真の魔王? それは……どこにいるの?』
「魔界だ。お前達では行けぬ。故に、エサを撒く」
それってまさか……。
「半魔なれど、魔界で四番目の実力者が破れるのだ。無視は出来んだろう」
『仇なの? 貴方はその真の魔王に何か恨みが……』
そうとしか思えなかった。
彼は明らかに自分の身を犠牲にしようとしている。
そうまでして成し遂げたい何かがあるとすれば、それは復讐以外には考えられなくて。
「さぁ? どうかな」
魔王は小さく笑った。
自嘲気味に。哀愁を湛えて。
魔王は憎むべき存在だ。
何の罪もない護衛隊の皆を、ユーリの村の人々を殺めたのだから。
なのに……どうにも慮ってしまう。
彼は選べなかった。
闇に堕ちざるを得なかったのではないかと。
「来たな」
魔王がそう呟くのと同時に、石の扉に亀裂が走った。
崩れ行く扉。その先には、大斧を持った重騎士の姿がある。
瓦礫が床に落ちる――前に、一人……誰かが先頭に立った。
紅髪の青年だ。サーベルを構えている。
彼は白い軍服を着ていた。
神聖でありながら、煌びやかで。
平和を願うすべての人々の思いが込められているようだった。
その重責は想像に難くない。
けれど、彼は呑み込まれることなく、見事なまでに着こなしていた。
その眩いばかりの精神力で以て。
『……ユーリ……っ』
涙で前が見えない。
わたくしは片手で涙を拭いながら、ハルジオンを一層強く抱いた。
「勇者ユーリ。よくぞ参った。褒めて遣わそう」
「エレノアを返せ」
「……無粋な奴だな。まぁ良い」
魔王が指を鳴らすと、暗闇から無数の音が迫ってきた。
城を揺らす重い音、床を這う不気味な音、そして――空気を切り裂く鋭利な音。
ユーリを始めとした戦士達に緊張が走る。
魔王はそんな彼らの反応を一頻り愛でると、勢いよく両手を広げた。
「さぁ、始めようか。闇と光の輪舞を」
