「ユーリ! 頑張れ~!」
「は? ……っ!!!」
ユーリの顔がこちらに向いた。
目が合うなり白い頬がぶわっと紅潮して、瞳もキラキラと輝き出す。
「いでっ!?」
直後、彼の表情がぐにゃりと歪んだ。
まぁ、何ってこと!? 彼の頭に剣が刺さっている。
「きゃあッ!? ユーリ!!?」
駆け寄って患部を確認する。
……良かった。たんこぶにはなっているけど、出血はしていない。
「ケッ……このエロガキが」
「はぁ!? 何言っ――~~っ、てぇ……」
お相手の騎士……ドワーフのような立派な髭を蓄えた男性が、呆れ顔を浮かべている。
四十歳ぐらいかしら?
熟練騎士を相手にするなんて、それだけ期待されているのね。
「治療をします。じっとしていてください」
「わっ!? ちょっ……!!!」
半ば強引にユーリを寝かせる。
白いカソックの上にやわらかな紅髪が広がった。
「やっ! やめろよ! みんな見て――」
「しぃ~、いい子だから」
鳴り響く口笛や、ひやかしに眉を下げつつ緑の魔法陣――治癒術を展開させていく。
ユーリは気恥ずかしさからか、ぎゅっと目を閉じてしまった。
大人しくしてくれるのはありがたいけど、何だか寂しくて。
少しだけ、あとほんの少しだけでいいから彼と話したいと思った。
「貴方、とっても素敵ね」
彼の耳元でそっと囁く。すると――。
「っ!!??」
案の定、ユーリの目が見開いた。
栗色の瞳とバチリと目が合った――かと思えば、直ぐに逸らす。
素直ね。ふふっ、可愛い。
「なっ、……何なんだよ、ったく……」
「ごめんなさいね。でも、貴方を素敵だと思ったのは本当よ」
「……マジ?」
「貴方はそのガッツで、団長様の心を動かされたそうですね」
「ああ……入団の話……」
ユーリは少し残念そうに呟いた。
『思わせぶりなことを言ってごめんなさい』、『悪い大人ね』と内心で詫びながら核心に入る。
「わたくしは、貴方のその強い意思に感銘を受けました」
「かんめい?」
「すごいな、かっこいいなって思った、ということよ」
「……ふーん?」
ユーリはどこか居心地の悪そうな顔をしている。
褒められ慣れてない。率直にそう思った。
特にこの件に関しては、非難されることの方が多いのかもしれない。
「貴方はきっとこれから先も、その剣と勇気で道を切り開いていくのでしょうね。ご活躍を耳にする日を、楽しみにしていますよ」
緑の魔法陣をふっと消した。
治療完了の合図だ。
ユーリを座らせて、すっと立ち上がる。
「……アンタ、名前は?」
「あら! これは大変失礼を致しました」
カーテシーをして、地面に座るユーリと目を合わせる。
「エレノア・カーライル。ご覧の通り、『聖女』の職を奉じております」
「エレ……ノア……?」
「ええ。以後お見知りおきを」
「……ん……」
「それではね。どうぞお元気で」
ユーリは何か言いたげだったけど、それには気付かないフリをしてその場を後にした。
離れ難くなってしまう。そんな予感がしたから。
残念だけど、ユーリとはもう二度と会うことはないだろうと思っていた。
けれど――彼は再びわたくしの前に現れた。
一輪の野花と、真っ直ぐな愛の言葉を携えて。
本音を言えば嬉しかった。
自分と重ねてしまったから?
彼となら夢を諦めずに済むと思えたから?
それとも、単に彼が……途方もないぐらい真っ直ぐだったから?
魅かれた理由は分からなかった。
ただ、取るべき行動には見当がついた。
これは叶わぬ恋。
いずれは忘れ去られる。
だけど、今はまだ大切にしないといけない。
だから、条件を付けるの。とっても意地悪な条件を。
「ただし、十年後……貴方が立派な戦士になっていたらね」
「はぁッ!? なっ、何だよそれ……。十年って言ったらオレは二十歳で、エレノアは三十のおば――」
「ユーリ?」
「うぐっ!? ……だぁ~~!!! もう!! 分かったよ!! でも絶対、ぜ~ったい約束守れよ!!!」
「心得ました」
これでいい。こうするしかないのよ。
駄々を捏ねるもう一人の自分を宥めていく。
だけど、どうにも上手くいかない。おかしいわね。
聞き分けのいい子になったはずなのに。
「おい! どうした!? 何があった!!?」
不意に周囲がざわめき出す。
村の方々の視線を追うと、十メートルほど先に馬に騎乗した青年の姿が。
その腕からは夥しい量の血が流れ出ていた。
「は? ……っ!!!」
ユーリの顔がこちらに向いた。
目が合うなり白い頬がぶわっと紅潮して、瞳もキラキラと輝き出す。
「いでっ!?」
直後、彼の表情がぐにゃりと歪んだ。
まぁ、何ってこと!? 彼の頭に剣が刺さっている。
「きゃあッ!? ユーリ!!?」
駆け寄って患部を確認する。
……良かった。たんこぶにはなっているけど、出血はしていない。
「ケッ……このエロガキが」
「はぁ!? 何言っ――~~っ、てぇ……」
お相手の騎士……ドワーフのような立派な髭を蓄えた男性が、呆れ顔を浮かべている。
四十歳ぐらいかしら?
熟練騎士を相手にするなんて、それだけ期待されているのね。
「治療をします。じっとしていてください」
「わっ!? ちょっ……!!!」
半ば強引にユーリを寝かせる。
白いカソックの上にやわらかな紅髪が広がった。
「やっ! やめろよ! みんな見て――」
「しぃ~、いい子だから」
鳴り響く口笛や、ひやかしに眉を下げつつ緑の魔法陣――治癒術を展開させていく。
ユーリは気恥ずかしさからか、ぎゅっと目を閉じてしまった。
大人しくしてくれるのはありがたいけど、何だか寂しくて。
少しだけ、あとほんの少しだけでいいから彼と話したいと思った。
「貴方、とっても素敵ね」
彼の耳元でそっと囁く。すると――。
「っ!!??」
案の定、ユーリの目が見開いた。
栗色の瞳とバチリと目が合った――かと思えば、直ぐに逸らす。
素直ね。ふふっ、可愛い。
「なっ、……何なんだよ、ったく……」
「ごめんなさいね。でも、貴方を素敵だと思ったのは本当よ」
「……マジ?」
「貴方はそのガッツで、団長様の心を動かされたそうですね」
「ああ……入団の話……」
ユーリは少し残念そうに呟いた。
『思わせぶりなことを言ってごめんなさい』、『悪い大人ね』と内心で詫びながら核心に入る。
「わたくしは、貴方のその強い意思に感銘を受けました」
「かんめい?」
「すごいな、かっこいいなって思った、ということよ」
「……ふーん?」
ユーリはどこか居心地の悪そうな顔をしている。
褒められ慣れてない。率直にそう思った。
特にこの件に関しては、非難されることの方が多いのかもしれない。
「貴方はきっとこれから先も、その剣と勇気で道を切り開いていくのでしょうね。ご活躍を耳にする日を、楽しみにしていますよ」
緑の魔法陣をふっと消した。
治療完了の合図だ。
ユーリを座らせて、すっと立ち上がる。
「……アンタ、名前は?」
「あら! これは大変失礼を致しました」
カーテシーをして、地面に座るユーリと目を合わせる。
「エレノア・カーライル。ご覧の通り、『聖女』の職を奉じております」
「エレ……ノア……?」
「ええ。以後お見知りおきを」
「……ん……」
「それではね。どうぞお元気で」
ユーリは何か言いたげだったけど、それには気付かないフリをしてその場を後にした。
離れ難くなってしまう。そんな予感がしたから。
残念だけど、ユーリとはもう二度と会うことはないだろうと思っていた。
けれど――彼は再びわたくしの前に現れた。
一輪の野花と、真っ直ぐな愛の言葉を携えて。
本音を言えば嬉しかった。
自分と重ねてしまったから?
彼となら夢を諦めずに済むと思えたから?
それとも、単に彼が……途方もないぐらい真っ直ぐだったから?
魅かれた理由は分からなかった。
ただ、取るべき行動には見当がついた。
これは叶わぬ恋。
いずれは忘れ去られる。
だけど、今はまだ大切にしないといけない。
だから、条件を付けるの。とっても意地悪な条件を。
「ただし、十年後……貴方が立派な戦士になっていたらね」
「はぁッ!? なっ、何だよそれ……。十年って言ったらオレは二十歳で、エレノアは三十のおば――」
「ユーリ?」
「うぐっ!? ……だぁ~~!!! もう!! 分かったよ!! でも絶対、ぜ~ったい約束守れよ!!!」
「心得ました」
これでいい。こうするしかないのよ。
駄々を捏ねるもう一人の自分を宥めていく。
だけど、どうにも上手くいかない。おかしいわね。
聞き分けのいい子になったはずなのに。
「おい! どうした!? 何があった!!?」
不意に周囲がざわめき出す。
村の方々の視線を追うと、十メートルほど先に馬に騎乗した青年の姿が。
その腕からは夥しい量の血が流れ出ていた。
