メイドや執事達の礼を合図に馬車が動き出す。
馬車の内装は深紅と金で統一されている。
板目は丁寧に磨かれ、所々に飾り鋲と繊細な彫刻が。
やわらかなシートと毛先の長い敷物のお陰で、揺れは最小限に抑えられている。
向かう先は王城。目的は陛下との謁見だ。
わたくしの帰還と、婚姻のご報告を予定している。
「晴れてきた」
「ええ。良かった」
陽の光がわたくしとユーリを照らしていく。
今日のわたくしもドレス姿だ。
浅緑色のローブに、クリーム色のペティコートを合わせている。
ミルキーブロンドの髪は編み込んでアップスタイルに。
後れ毛が軽やかなウェーブを描いている。
ユーリは馴染みの白い軍服姿だ。
詰襟タイプで、ブーツに至るまで白と金で統一されている。
掛かる重責を思えば忌避しても致し方のないこの制服を、ユーリはずっと着続けている。
一緒に過ごすようになって間もなく半月になるけれど、私服でいるところをただの一度も見たことがない。
それだけ、勇者である自分に誇りを持っているということなのかしら?
それとも一種の戒め?
公私ともに気を抜かないように、との。
「エラ、楽にしてください」
ユーリは手元に魔法陣を展開すると、わたくしの頭の上に向かってふわりと放った。
霧がかかった虹色の光が、わたくしの体を包み込んでいく。
「セオ兄様に師事して、習得なさったそうですね」
「ああ……」
ユーリは気まずそうに、それでいてどこか照れ臭そうに目を伏せた。
甘くやわらかなシフォンケーキのような予感が膨らんでいく。
「貴方と同じ景色を見てみたくて」
「それで習得を……?」
「……健気でしょ?」
『職を辞する必要はありません。俺は貴方の生き様も含めて愛する覚悟でいます。だから、遠慮はいりません』
あのお言葉はその上で……。
勇者の修行だけでも大変だったでしょうに。
わたくしは本当に果報者ね。
「セオドア様は勿論ですが、師匠にもとても感謝しています。師匠が魔力密度をコントロールする術式を開発してくれなかったら、俺はスタートラインにすら立つことが出来なかったので」
「っ! まさかそれって……」
「はい。『勇者の光』は魔力密度を落とすと、『聖光』になるんです」
あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。
『勇者の光』と『聖光』は、共に光属性ではあるものの性質がまるで異なることから、まったくの別物だと思っていた。
まさかその違いが密度だけだったなんて。
一方で、非常にわくわくもした。
期待を胸に嬉々として訊ねてみる。
「では、聖者は勇者に、勇者は聖者にもなり得るということね?」
「不可能ではないですが、あまり現実的ではないですね」
「あら? どうして?」
「端的に言えば燃費が悪いんです。密度を調整するのにも、別途魔力を要するので」
「それでも、勇者になりたいという夢は叶えられるわ」
「……嫌にこだわりますね?」
「貴方の子なら、勇者を志すこともあるんじゃないかと思って」
生まれてくる子が聖光を宿していたとしたら?
父ユーリに憧れて勇者になる夢を抱いたとしたら?
レイが編み出したその手法は、その子の希望になるかもしれない。
「させませんよ。そんなこと」
「あらどうして?」
「戦士に……したくありません」
「まぁ? 十年前の貴方を思うと、つい耳を疑ってしまうわね」
「あの時の両親の気持ちを、同じ立場になって漸く理解することが出来ました」
そう語るユーリの顔は、既に父親然としていた。
ふふっ、一体どちらの思いが勝つのかしらね。
もしかしたら、その子は勇者を夢見ないかも。
そもそも聖光を宿していないかもしれない。
考えるだけ無駄なのかもしれないけど、それでもつい思いを馳せてしまう。
わたくしがいなくなった後の貴方とその子の人生を。
貴方とまだ見ぬその子のことを、愛しているから。
馬車の内装は深紅と金で統一されている。
板目は丁寧に磨かれ、所々に飾り鋲と繊細な彫刻が。
やわらかなシートと毛先の長い敷物のお陰で、揺れは最小限に抑えられている。
向かう先は王城。目的は陛下との謁見だ。
わたくしの帰還と、婚姻のご報告を予定している。
「晴れてきた」
「ええ。良かった」
陽の光がわたくしとユーリを照らしていく。
今日のわたくしもドレス姿だ。
浅緑色のローブに、クリーム色のペティコートを合わせている。
ミルキーブロンドの髪は編み込んでアップスタイルに。
後れ毛が軽やかなウェーブを描いている。
ユーリは馴染みの白い軍服姿だ。
詰襟タイプで、ブーツに至るまで白と金で統一されている。
掛かる重責を思えば忌避しても致し方のないこの制服を、ユーリはずっと着続けている。
一緒に過ごすようになって間もなく半月になるけれど、私服でいるところをただの一度も見たことがない。
それだけ、勇者である自分に誇りを持っているということなのかしら?
それとも一種の戒め?
公私ともに気を抜かないように、との。
「エラ、楽にしてください」
ユーリは手元に魔法陣を展開すると、わたくしの頭の上に向かってふわりと放った。
霧がかかった虹色の光が、わたくしの体を包み込んでいく。
「セオ兄様に師事して、習得なさったそうですね」
「ああ……」
ユーリは気まずそうに、それでいてどこか照れ臭そうに目を伏せた。
甘くやわらかなシフォンケーキのような予感が膨らんでいく。
「貴方と同じ景色を見てみたくて」
「それで習得を……?」
「……健気でしょ?」
『職を辞する必要はありません。俺は貴方の生き様も含めて愛する覚悟でいます。だから、遠慮はいりません』
あのお言葉はその上で……。
勇者の修行だけでも大変だったでしょうに。
わたくしは本当に果報者ね。
「セオドア様は勿論ですが、師匠にもとても感謝しています。師匠が魔力密度をコントロールする術式を開発してくれなかったら、俺はスタートラインにすら立つことが出来なかったので」
「っ! まさかそれって……」
「はい。『勇者の光』は魔力密度を落とすと、『聖光』になるんです」
あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。
『勇者の光』と『聖光』は、共に光属性ではあるものの性質がまるで異なることから、まったくの別物だと思っていた。
まさかその違いが密度だけだったなんて。
一方で、非常にわくわくもした。
期待を胸に嬉々として訊ねてみる。
「では、聖者は勇者に、勇者は聖者にもなり得るということね?」
「不可能ではないですが、あまり現実的ではないですね」
「あら? どうして?」
「端的に言えば燃費が悪いんです。密度を調整するのにも、別途魔力を要するので」
「それでも、勇者になりたいという夢は叶えられるわ」
「……嫌にこだわりますね?」
「貴方の子なら、勇者を志すこともあるんじゃないかと思って」
生まれてくる子が聖光を宿していたとしたら?
父ユーリに憧れて勇者になる夢を抱いたとしたら?
レイが編み出したその手法は、その子の希望になるかもしれない。
「させませんよ。そんなこと」
「あらどうして?」
「戦士に……したくありません」
「まぁ? 十年前の貴方を思うと、つい耳を疑ってしまうわね」
「あの時の両親の気持ちを、同じ立場になって漸く理解することが出来ました」
そう語るユーリの顔は、既に父親然としていた。
ふふっ、一体どちらの思いが勝つのかしらね。
もしかしたら、その子は勇者を夢見ないかも。
そもそも聖光を宿していないかもしれない。
考えるだけ無駄なのかもしれないけど、それでもつい思いを馳せてしまう。
わたくしがいなくなった後の貴方とその子の人生を。
貴方とまだ見ぬその子のことを、愛しているから。
