余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。

「~~っ、勘弁してくださいよ」
「ほらっ! いいからっ!!」

ミラがユーリの手を取る。
無理矢理に花を握らせようとしているけれど、彼も頑として応じようとしない。

本当に大人になったのね。
あの頃の自分を恥じる……いえ、眩しいと感じる程度には。
折を見て聞いてみたい。
この十年の歩みを。
何を思い、何を感じてきたのか。

「もう! 男、見せなさいよ!!」
「アンタらのネタになる気はないんで!」
「ほらっ! エレノア様も、してほしいって!」
「えっ? ええ……。ええ、そうね」

あの日、わたくしは嘘をついた。
夢を見つつも諦めていたからだ。
でも、今ならちゃんと応えることが出来る。
本当の気持ちを伝えることが出来るから。

「お願い出来るかしら?」
「ぐっ……」

ユーリはまさに孤立無援の状態に。
観念したのか重たい溜息をついた。

「分かりました。ただ、花だけは別のものに――」
「いえ。どうかこのままで」
「……っ、お言葉ですが、これは雑草で――」
「「ユーリ」」

レイとミラが同時に圧をかけた。
程度は違えど共に笑顔だ。
ユーリは苛立たし気に牙を剥いたけど、劣勢であるためか迫力はいまいちだ。
例えるのなら犬……いえ、猫のようね。

「覚えてろよ」

ユーリはどんよりとした表情でハルジオンを受け取った。
そうしてそのまま片膝をついて礼をする。

これは戦士の職を奉じる方が、忠誠や愛を誓う際に取るポーズだ。
そう。貴方は夢を叶えたのね。
幼い頃から抱いてきた戦士になるという夢を。

栗色の瞳がわたくしを捉えた。
真剣だ。一切浮ついていない。
十年もの間ずっと抱き続けてきた思い。
武骨で、真っ直ぐで……それでいて必死で。

やはり、根っこの部分は変わっていないのね。
土塗れの手でプロポーズをしてきた、そんな幼い日のユーリの姿を思い返して、ふっと笑みを零す。

「愛しています」

そっと野花を差し出してきた。
白くて小さなその花は、変わらず甘く香ばしい香りを漂わせている。
わたくしにとっては、貴方を思わせる希望の香りだ。

「俺と結婚してください」
『オレと結婚してくれ!!!』

過去と現在のユーリの姿が重なり合う。
わたくしはこの光景を深く胸に刻んだ。
死した後も、決して忘れることのないように。

「ありがとう、ユーリ。とっても嬉しいわ」

あの日と同じ言葉、同じ気持ちだ。
本心だった。だけど、この後……わたくしは嘘をついた。
夢は夢のままで。そう自分に言い聞かせて。
でも、もう諦めなくていい。
叶えるのよ。ユーリと共に。

ユーリの手に自分の手を重ねる。
わたくしのものよりも一回り以上大きなその手は、さらりとしていて汗一つかいていなかった。
ふふっ、頼もしいわね。

「ユーリ。わたくしも、貴方を愛しています。どうか、わたくしの夫になってください」
「喜んで」

ユーリは即答した。
待ちきれないと言わんばかりに。

「未来永劫、貴方だけを愛します。絶対に、何があっても」

彼が笑う。
挑発的でもあり、悪戯っぽくもあるあの目で。

「……っ」

胸が熱くなって、思わずふいっと目を逸らしてしまった。
わたくしはどうにも彼のこの目に弱いらしい。
勘のいい彼のこと、きっと直ぐに気付く。
尻に敷かれる日もそう遠くはないでしょう。

「ふごっ!?」
「っ!?」

不意にユーリの手が離れた。
彼の手はそのままベッドの上へ。
顔も深く、それはもう深く埋まっている。

「ユーリ!! このっ!! かっこいいぞぉ!!!!!」

犯人はミラだった。
ユーリの背をバシバシと叩いている。まるで容赦がない。

「やれば出来るじゃん! もぉ~~!!!」
「痛゛っ!? ~~っ、止めろって!!!」

ミラはまるで聞く耳を持たない。
二人がじゃれ合う姿は、宛ら姉弟のようだった。
微笑ましい限りね。ずっと見ていられる。
心を和ませつつハルジオンに顔を寄せた。直後――。

「っ!」

不意に視界が揺れた。
それと同時に倦怠感が押し寄せてくる。
どうやらはしゃぎ過ぎてしまったようね。

わたくしは苦笑一つに、盛り上がる三人に目を向ける。
糧になりたい。
ユーリ、レイ、ミラ、他の皆にとって、何か前進に繋がるような別れにしなくては。
そのためにもまずは……と、大小様々な計画を立てていく。

「……っ」

終わりに向かいつつある命を、肌で感じながら。