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まばゆい光はいつの間にか収まり、草木のにおいが鼻腔をくすぐる。ちゅんちゅん、という小鳥の鳴き声に起こされるようにして、ひかるはやっと瞼を開いた。
開いた視界の先には、壮大な森林が広がっていた。木の葉の隙間からは、太陽と青空が顔を覗かせている。自然に濾過された空気は、都会の濁った空気と違って、澄んでいておいしい。
大きく吸い込んで、吐く。繰り返し、体内に溜まっている空気と入れ替えていく。そんなことをしていれば、自分自身も洗浄されていく気がした。
自然の恩恵を心身に目いっぱい受けると、ひかるはやっと視線を前へと移す。
先ほどから、ちらりと視界に入っていたものだ。
「小屋……?」
そこには、絵本の中に出てくるようなログハウス風の平家があった。瀟洒に佇むその平屋には赤色の屋根が被されるように乗っかっており、軒先にはアンティーク調のランタンが対称の位置に二つ吊り下げられている。
人の手が入っていないようなこの場所には少々不釣り合いな気もしたが、ひかるの体は吸い寄せられるように平屋に向かっていた。
アプローチの階段前にはブラックボードが立てられている。そこには【遠山珈琲店 OPEN】と記されており、その下にはコーヒーカップのイラストが描かれていた。
「サンゴさんが用意してくれたのかな……?」
おそるおそる入口扉のノブに手をかける。それを捻り引いて開けると、中から木材とコーヒーが混ざった香りが漂った。
入って左手にカウンター席が五席あり、右手には二人掛けのテーブル席が二組。店内にはやはり小さなランタンがいくつもぶら下がっており、そのひとつひとつが健気に光を放っている。
「うわぁ、すごい」
ひかるはカウンターの中に入ると、調度されたマシンに触れていった。趣のある内装から勝手に手動のものだと思っていたのだが、ここにあるものはすべて電動式のようだ。よく見てみれば、ひかるがカフェ併設の飲食店で働いていたときに使っていたものが揃えられている。
電気が通っているとは思えなかったけれど、電源を入れるとマシンは何の問題もなく動き出した。まさか動くとは思っていなかったため、ひかるは驚いて周囲を見渡した。やはり、コンセントらしきものは見当たらない。
では、なぜ――と考え始めたところで、はたと気づく。
「……そっか。関係ないか」
ひかるはすでに、死んでいるのだ。
そしてここは、サンゴが提供した未練解消の場。現実世界の理屈や仕組みは、ここでは意味を持たないのだろう。
状況を理解したところで、開け放たれていた窓から一羽の黒い鳥が顔を覗かせた。
「時間がなかったんだ。細かいところは気にするな」
「サンゴさん!」
「もう時間がない。早速、一人目の来客が来る」
「えっ」
ぶっきらぼうな声でそう言われ、ひかるは狼狽える。
「ここで守ってほしいのはただひとつ。客人に自分が死んだことを話してはならない。ここに来る人には初めて会ったように接し、あくまであんたはここの喫茶店で働くひとりの店員として振る舞う。――いいな?」
矢継ぎ早に説明され、とりあえず「はい」としか答えられなかった。
サンゴが横を向き、何かに反応したように翼をばたつかせた。
「噂をすれば、ってやつだ」
「えっと、あの――」
「質問は後回しだ。うまくやれよ」
そう言い残し、サンゴは窓から飛び去っていく。ひかるは窓に駆け寄り、上空に視線を向けた。しかしそこには青い空が広がるだけで、あの禍々しい黒はどこにも見当たらない。
はぁ、と一息つく。
とりあえず、サンゴに言われた通りにやるしかない。
そう心に決めたその瞬間、背後の扉がギィ、と音を立てて開いた。



