のどかな田舎町で世間を震撼させる事件が起こった。
発覚から三日が過ぎたが、まだその騒ぎは落ち着かない。
列をなしてフェリーに乗り込むと、メディア関係者とおぼしき人たちで埋め尽くされていた。スマホ片手に実況している配信者もそれなりにいて、地元住民が平穏な日常を取り戻すにはそれなりの時間がかかりそうだった。
フェリーを下りてバスで5分。島の中心地からは少し離れるが、道なりにぽつりぽつりと家が建ち、それほど寂しい場所でもなく、毎日誰かが行き交うような場所柄であった。
築3~40年ほどの二階建て。母と息子で住むには少々広いが、離婚した夫と巣立った兄がいたときはちょうど良かったのかもしれない。
その空いた部屋で何が起こったのか、実際に中を見ることはかなわなかった。
事件が明るみに出るきっかけとなったのが近所からの通報であったということなのだが――
隣人に話を聞いてみると、息子は引きこもりで家庭内暴力が絶えなかったという。怒鳴りつける息子の声や、物を投げつけたような大きな音が隣人の家の中にまで聞こえ、母親はしょっちゅう青あざをつくっていた。
「2,3ヶ月くらい前だったと思うんだけど、階段から何かが転がり落ちるようなものすごい音がしたの。でもそれっきり、うんともすんともいわなくなって。逆に怖くなったのよ。奥さん、大丈夫かしらって」
隣人は警察に通報して様子を見てもらったという。すると母親が玄関に出てきて応対し、押し入れから出した物が転がり落ちただけだと説明した。そして玄関の隙間から中をうかがう隣人と目が合うとにらみつけた。
隣人が通報したとバレたらしい。警察が帰った後、母親は隣人宅に乗り込んできた。
「恥をかかせるつもりなの? 大事にしないでちょうだい、もう通報しないでって、すごい剣幕で怒られて。なんで私が怒られなきゃならないのか、腹が立ったからもう関わらないことにしたんです」
あなたが今回通報した住民ではないのかと聞けば隣人は大ぶりで手を振った。
「違いますよ。私じゃないです。だから家の前にパトカーが何台も集まってきてるから何事かと出て行ったんです。もしかして母親が自ら通報したのかもって思ったんだけど、違うんですか」
結局、誰が通報したのかはわからなかった。
今回は警察が家の中まで踏み込み、リビングで昏睡状態の母親を発見し、二階の自室でゲームをしていた息子を確保した。
そして10分後、たまたま別室から少女が発見されたのである。
窓がふさがれた暗い部屋で、怯えたようにうずくまっていた。肌は青白く、痩せこけ、一目で健康ではないとしれた。
当初はネグレクトが疑われた。しかし、母親の回復を待って事情を聞くと、子供は男ふたりのみで、女の子はいない。それどころか母親はその少女の存在すら知らなかったのである。
次男がどこかから少女を拉致し、監禁していたのだった。
少女が監禁されていた奥の部屋はもともとは兄が使っていた。兄が出て行って以降、二階は次男のテリトリー。母親は息子の暴力に怯え、すべてがいいなりだった。二階への侵入を許さず、たまたま二階廊下の納戸から布団乾燥機を取り出そうとしたところ、見つかって突き落とされたこともあると、ようやく真実を口にした。
問題は少女は誰かということだ。
少女は3年くらい前、近所の神社にいるところを次男が誘拐したという。しかし、近辺では少女がいなくなったという騒ぎは起きておらず、実際、島で行方不明になった者はここ数年ではいない。
ならば、島の外からやってきたのか。まさか神社に捨てられたのか。少女はなにも覚えていない。
全国から情報が寄せられ、我が娘ではないかとの問い合わせもあったが、少女の身元は未だ特定されていない。
発覚から三日が過ぎたが、まだその騒ぎは落ち着かない。
列をなしてフェリーに乗り込むと、メディア関係者とおぼしき人たちで埋め尽くされていた。スマホ片手に実況している配信者もそれなりにいて、地元住民が平穏な日常を取り戻すにはそれなりの時間がかかりそうだった。
フェリーを下りてバスで5分。島の中心地からは少し離れるが、道なりにぽつりぽつりと家が建ち、それほど寂しい場所でもなく、毎日誰かが行き交うような場所柄であった。
築3~40年ほどの二階建て。母と息子で住むには少々広いが、離婚した夫と巣立った兄がいたときはちょうど良かったのかもしれない。
その空いた部屋で何が起こったのか、実際に中を見ることはかなわなかった。
事件が明るみに出るきっかけとなったのが近所からの通報であったということなのだが――
隣人に話を聞いてみると、息子は引きこもりで家庭内暴力が絶えなかったという。怒鳴りつける息子の声や、物を投げつけたような大きな音が隣人の家の中にまで聞こえ、母親はしょっちゅう青あざをつくっていた。
「2,3ヶ月くらい前だったと思うんだけど、階段から何かが転がり落ちるようなものすごい音がしたの。でもそれっきり、うんともすんともいわなくなって。逆に怖くなったのよ。奥さん、大丈夫かしらって」
隣人は警察に通報して様子を見てもらったという。すると母親が玄関に出てきて応対し、押し入れから出した物が転がり落ちただけだと説明した。そして玄関の隙間から中をうかがう隣人と目が合うとにらみつけた。
隣人が通報したとバレたらしい。警察が帰った後、母親は隣人宅に乗り込んできた。
「恥をかかせるつもりなの? 大事にしないでちょうだい、もう通報しないでって、すごい剣幕で怒られて。なんで私が怒られなきゃならないのか、腹が立ったからもう関わらないことにしたんです」
あなたが今回通報した住民ではないのかと聞けば隣人は大ぶりで手を振った。
「違いますよ。私じゃないです。だから家の前にパトカーが何台も集まってきてるから何事かと出て行ったんです。もしかして母親が自ら通報したのかもって思ったんだけど、違うんですか」
結局、誰が通報したのかはわからなかった。
今回は警察が家の中まで踏み込み、リビングで昏睡状態の母親を発見し、二階の自室でゲームをしていた息子を確保した。
そして10分後、たまたま別室から少女が発見されたのである。
窓がふさがれた暗い部屋で、怯えたようにうずくまっていた。肌は青白く、痩せこけ、一目で健康ではないとしれた。
当初はネグレクトが疑われた。しかし、母親の回復を待って事情を聞くと、子供は男ふたりのみで、女の子はいない。それどころか母親はその少女の存在すら知らなかったのである。
次男がどこかから少女を拉致し、監禁していたのだった。
少女が監禁されていた奥の部屋はもともとは兄が使っていた。兄が出て行って以降、二階は次男のテリトリー。母親は息子の暴力に怯え、すべてがいいなりだった。二階への侵入を許さず、たまたま二階廊下の納戸から布団乾燥機を取り出そうとしたところ、見つかって突き落とされたこともあると、ようやく真実を口にした。
問題は少女は誰かということだ。
少女は3年くらい前、近所の神社にいるところを次男が誘拐したという。しかし、近辺では少女がいなくなったという騒ぎは起きておらず、実際、島で行方不明になった者はここ数年ではいない。
ならば、島の外からやってきたのか。まさか神社に捨てられたのか。少女はなにも覚えていない。
全国から情報が寄せられ、我が娘ではないかとの問い合わせもあったが、少女の身元は未だ特定されていない。



