五右衛門の武器は特殊な短刀である忍者刀。対する百地の武器は仕込み錫杖。双方ともに伊賀忍術の使い手である。五右衛門は本格的な忍者戦からは遠ざかっているものの、その戦闘力は落ちていない。一方、伊賀忍者の代表的な立場である百地は歴戦の猛者であるが、年齢的な衰えは隠せない。百地が全盛期であれば、圧倒的に有利であったろう。しかし、現状ということであれば、結果は分からない。
百地の指弾から戦闘は開始された。
放たれた鉛玉を刀の柄で軽々と払った五右衛門は、百地の錫杖を刀の鞘で弾き、懐に入り込むと至近距離から指弾を叩き込む。ほんの一尺余りの距離から狙われたにも関わらず、百地は身体を捻ってそれを躱し、そのまま錫杖ごと回転させる。五右衛門は地に伏せるようにしてそれを避け、今度は足を払うように蹴りを繰り出した。百地はそれを予見していたかのように跳んで躱すと、五右衛門の頭上から鋼鉄製の錫杖を振り下ろした。重厚な金属音が響き、錫杖を刀で受け止めた五右衛門の姿が現れる。受け切ってはいるものの、頭部から額にかけて一筋の血が流れる。
「やるようになったではないか」
「アンタが年を食っただけだろ」
後方に回転して錫杖を蹴り飛ばし、五右衛門は後方に跳んだ。
五右衛門と百地の攻防はやや百地が有利だった。五右衛門は腹部を刺されていることもあるが、ほぼ全力で戦っている。しかし、まだ百地は本気を出していなかった。しかし、長丁場になれば体力的に百地も厳しくなる。五右衛門も腹部の出血を考えれば、望むべきは短期決戦である。
百地が錫杖を捻ると、その先端から一尺ほどの刃が飛び出した。殺傷能力を高めるための操作である。五右衛門は右手に忍者刀を構えち、左手に短刀を持つ。二刀流の構えだった。
今度は五右衛門が仕掛ける。
都で仕入れた火薬球を投げ付けて撹乱し、その隙を突いて距離を詰める。足裁きで左側に残像を残し、右側から襲い掛かる。しかし、それを読んでいた百地は念のため左側の残像を石突で叩き、刃が露出した先端で右側の薙いだ。しかし、その場にも五右衛門の姿は無く、本体は頭上から忍者刀を振り下ろしていた。必殺の間合い。そのまま決着する―――かに思われたが、その五右衛門目掛けて、複数の棒手裏剣が第三者によって投げ込まれた。完全に不意を突かれた五右衛門は全てを捌き切れず、左腕と右肩に深々と手裏剣を貰ってしまう。さらに追い討ちを掛けるように、腹部の傷を目掛けて百地の錫杖が突き刺さった。
後方に吹き飛ばされる形になった五右衛門は、地面に叩き付けられた反動で何度も回転して転がった。
「ぐ・・・」
うつ伏せ状態の五右衛門が手を突いて立ちあがり、血の塊を吐き出す。
「よもや卑怯とは言うまいな」
「へっ、忍者に卑怯な行為など存在しねえよ。油断したオレが悪いな」
未だに無傷の百地に対し、今の攻防で五右衛門は血塗れになっている。くノ一によって裂かれた腹部は錫杖の一撃にで更に傷口が深くなり、流血は足下を朱に染めている。棒手裏剣が刺さった両腕は、毒でも塗られていたのか痺れて震えている。この状態では、腕は振れない。もし振ることができたとしても、斬る動作は不可能だろう。もっと問題なことは、誰が、どこから助力しているかが分からないことだ。
「さあ、妻の仇討ちをさせてもらうとしようか」
「オレじゃねえって言ってんだろうが!!」
初めて自ら距離を詰めてくる百地。五右衛門は両手に刀を持ってそれを迎え撃つ。その時、五右衛門の背後で微かに葉が摺れる音がした。五右衛門がその音から位置を距離を把握する。
錫杖を受け止めるために左手を突き出す。しかし、当然のようにそれで防ぐことなどできず、短刀が錫杖によって弾き飛ばされる。猛烈な力によって弾かれた短刀は、五右衛門の調整によって後方に飛び去る。その先は、くノ一が潜んでいるであろう場所だった。完全な不意討ちを躱すことなどできるはずがない。背後の茂みで悲鳴が響き、狙った者が倒れる音がした。最初のくノ一以外に百地の味方がいれば五右衛門の完全に負けである。しかし、いない、と決め付ける以外に勝ち筋は見出せなかった。
味方を失った一瞬の空白。
僅かな同様。
微かな焦燥。
それは見逃さない。
最初で最後の好機かも知れない。
もう右手には力が入らない。
右手の忍者刀縦にし思い切り蹴り上げる。
それを間一髪で百地が身体を逸らして避ける。
それを見越していた五右衛門は蹴ると同時に跳躍していた。
空中で刀を受け止める。
伸びてくる錫杖を足の裏で受け止める。
再び舞う血飛沫。
空中で一回転して力を分散。
忍者刀の真っ直ぐな剣身が突き刺さった。
地面に伏す五右衛門。
その背後で百地が静かに倒れた。
五右衛門に感動はない。
生き残った。
ただそれだけだった。
持っていた忍者特有の薬草を腹部に塗りこみ、無理矢理止血する。重傷の部類かも知れないが、死に至ることはないと五右衛門は自身で判断する。痺れ毒は半刻もすれば弱まってくるはずだ。応急処置を済ませると、大きく息を吐いて五右衛門は大の字に倒れ込んだ。
「さすがに疲れたぜ」
短期決戦だったとはいえ、本当にギリギリの戦いだった。
安堵した五右衛門の脳裏に一人の女性が浮かぶ。その女性は口を尖らせてご立腹の様子だ。
「はいはい、無理はしねえから、大丈夫だ」
その日、秀吉を散々苦しめてきた伊賀忍者の幹部である百地三太夫は、摩亜姫の手の者によって討ち取られ、その首が番所に届けられた。これにより、摩亜姫の名声は都一となる。当然、秀吉からの評価も天井知らずとなった。
百地の指弾から戦闘は開始された。
放たれた鉛玉を刀の柄で軽々と払った五右衛門は、百地の錫杖を刀の鞘で弾き、懐に入り込むと至近距離から指弾を叩き込む。ほんの一尺余りの距離から狙われたにも関わらず、百地は身体を捻ってそれを躱し、そのまま錫杖ごと回転させる。五右衛門は地に伏せるようにしてそれを避け、今度は足を払うように蹴りを繰り出した。百地はそれを予見していたかのように跳んで躱すと、五右衛門の頭上から鋼鉄製の錫杖を振り下ろした。重厚な金属音が響き、錫杖を刀で受け止めた五右衛門の姿が現れる。受け切ってはいるものの、頭部から額にかけて一筋の血が流れる。
「やるようになったではないか」
「アンタが年を食っただけだろ」
後方に回転して錫杖を蹴り飛ばし、五右衛門は後方に跳んだ。
五右衛門と百地の攻防はやや百地が有利だった。五右衛門は腹部を刺されていることもあるが、ほぼ全力で戦っている。しかし、まだ百地は本気を出していなかった。しかし、長丁場になれば体力的に百地も厳しくなる。五右衛門も腹部の出血を考えれば、望むべきは短期決戦である。
百地が錫杖を捻ると、その先端から一尺ほどの刃が飛び出した。殺傷能力を高めるための操作である。五右衛門は右手に忍者刀を構えち、左手に短刀を持つ。二刀流の構えだった。
今度は五右衛門が仕掛ける。
都で仕入れた火薬球を投げ付けて撹乱し、その隙を突いて距離を詰める。足裁きで左側に残像を残し、右側から襲い掛かる。しかし、それを読んでいた百地は念のため左側の残像を石突で叩き、刃が露出した先端で右側の薙いだ。しかし、その場にも五右衛門の姿は無く、本体は頭上から忍者刀を振り下ろしていた。必殺の間合い。そのまま決着する―――かに思われたが、その五右衛門目掛けて、複数の棒手裏剣が第三者によって投げ込まれた。完全に不意を突かれた五右衛門は全てを捌き切れず、左腕と右肩に深々と手裏剣を貰ってしまう。さらに追い討ちを掛けるように、腹部の傷を目掛けて百地の錫杖が突き刺さった。
後方に吹き飛ばされる形になった五右衛門は、地面に叩き付けられた反動で何度も回転して転がった。
「ぐ・・・」
うつ伏せ状態の五右衛門が手を突いて立ちあがり、血の塊を吐き出す。
「よもや卑怯とは言うまいな」
「へっ、忍者に卑怯な行為など存在しねえよ。油断したオレが悪いな」
未だに無傷の百地に対し、今の攻防で五右衛門は血塗れになっている。くノ一によって裂かれた腹部は錫杖の一撃にで更に傷口が深くなり、流血は足下を朱に染めている。棒手裏剣が刺さった両腕は、毒でも塗られていたのか痺れて震えている。この状態では、腕は振れない。もし振ることができたとしても、斬る動作は不可能だろう。もっと問題なことは、誰が、どこから助力しているかが分からないことだ。
「さあ、妻の仇討ちをさせてもらうとしようか」
「オレじゃねえって言ってんだろうが!!」
初めて自ら距離を詰めてくる百地。五右衛門は両手に刀を持ってそれを迎え撃つ。その時、五右衛門の背後で微かに葉が摺れる音がした。五右衛門がその音から位置を距離を把握する。
錫杖を受け止めるために左手を突き出す。しかし、当然のようにそれで防ぐことなどできず、短刀が錫杖によって弾き飛ばされる。猛烈な力によって弾かれた短刀は、五右衛門の調整によって後方に飛び去る。その先は、くノ一が潜んでいるであろう場所だった。完全な不意討ちを躱すことなどできるはずがない。背後の茂みで悲鳴が響き、狙った者が倒れる音がした。最初のくノ一以外に百地の味方がいれば五右衛門の完全に負けである。しかし、いない、と決め付ける以外に勝ち筋は見出せなかった。
味方を失った一瞬の空白。
僅かな同様。
微かな焦燥。
それは見逃さない。
最初で最後の好機かも知れない。
もう右手には力が入らない。
右手の忍者刀縦にし思い切り蹴り上げる。
それを間一髪で百地が身体を逸らして避ける。
それを見越していた五右衛門は蹴ると同時に跳躍していた。
空中で刀を受け止める。
伸びてくる錫杖を足の裏で受け止める。
再び舞う血飛沫。
空中で一回転して力を分散。
忍者刀の真っ直ぐな剣身が突き刺さった。
地面に伏す五右衛門。
その背後で百地が静かに倒れた。
五右衛門に感動はない。
生き残った。
ただそれだけだった。
持っていた忍者特有の薬草を腹部に塗りこみ、無理矢理止血する。重傷の部類かも知れないが、死に至ることはないと五右衛門は自身で判断する。痺れ毒は半刻もすれば弱まってくるはずだ。応急処置を済ませると、大きく息を吐いて五右衛門は大の字に倒れ込んだ。
「さすがに疲れたぜ」
短期決戦だったとはいえ、本当にギリギリの戦いだった。
安堵した五右衛門の脳裏に一人の女性が浮かぶ。その女性は口を尖らせてご立腹の様子だ。
「はいはい、無理はしねえから、大丈夫だ」
その日、秀吉を散々苦しめてきた伊賀忍者の幹部である百地三太夫は、摩亜姫の手の者によって討ち取られ、その首が番所に届けられた。これにより、摩亜姫の名声は都一となる。当然、秀吉からの評価も天井知らずとなった。



