都の治安が悪い一画にある安い飯屋で、昼間から安酒を飲んでいる男がいた。明らかに不機嫌そうな様子で、薄い酒を口に流し込んでいる。居合わせた者が面白半分に揶揄ったが、瞬く間に叩き伏せられた。その現場を目撃した者達は、視線を逸らして壁際に移動した。その危険な男は五右衛門である。
あの日から二日。今日は摩亜が伏見城に入る日である。
現在進行形で、摩亜の行列が人々に見守られながら伏見城に向かっている
伏見城に入城してしまうと、もう二度と会うことはできないだろう。
時間の経過とともに、五右衛門の機嫌は悪くなっていく。
そんな時、明らかに裏野家業といった雰囲気の男が飯屋に入って来た。その男は奥に座っていた仲間の下に歩いて行くと腰を下ろした。
「何っ、摩亜姫が攫われた!?」
「シッ、声がでけえよ」
漏れ聞こえてきた声に五右衛門が反応する。瞬時に二人の元に移動すると、冷え切った目で見下ろした。
「その話、詳しく聞かせてくれねえか?」
「あ?テメエ何を―――――」
立ち上がろうとした男の喉元にいつの間にか短刀が添えられていた。
「今のオレ様は何するか分からねえぞ?」
男の首から血が垂れる。元から座っていた男は腰を抜かし、土間にへたり込んでいる。
「もう一回聞くぞ。詳しく聞かせてくれねえか?」
男は目線だけで頷くと、解放されて力無く椅子に座った。
「オレの仲間が高額で仕事の依頼を受けたんだよ。
依頼主も目的の人物も分からなかったが、人を攫う依頼だった。移動の時刻と襲撃する場所、その後の引き渡しまでの指示が与えられた。余りにもヤバそうな雰囲気だったんで一度は断ったんだが、報酬が一人小判十枚だったもんで心変わりをして依頼を受けた。相場の十倍以上の額だ。その気になるのも分かる。で、昨夜、指示された時刻に指定されていた場所で、八人の仲間と襲撃して攫うことに成功した。その後、そのまま駕籠を奪いって都外の指定されていた場所に運んだ。これで仕事が完了だと思っていたら、引き渡しをした瞬間に襲われたらしい。口封じだったんだと思う。やっぱり、ヤバい仕事だったんだよ。結局、八人の中で唯一オレの仲間だけが逃げ切り、そいつがレの所に転がり込んできたって訳だ。
そいつが言うんだよ。攫った人間が乗っていた駕籠には「梅鉢紋」が入っていたって。梅鉢紋は加賀前田家の家紋だそれに、駕籠が移動する経路は前田屋敷から伏見城の裏門に通じる道だったそうだ。そう考えると、摩亜姫の身の安全を守るために秘密裏に移動させたが、それが裏目に出たんじゃないかって仲間が―――――ヒッ」
その話しを聞いてた五右衛門の身体から殺気が迸る。
目の前で話しをしていた男は殺気に当てられて震え上がった。
五右衛門は沸騰する頭を無理矢理沈め、思考を加速させる。
状況や秀吉の思考を考慮すると、今、この男が説明したことは本当のことだろう。問題は、摩亜を誰が攫ったかということだ。可能性として考えられる筆頭候補の明智党は、数ヶ月前に五右衛門自身が踏み潰した。そもそも、豊臣と前田が不仲になって最も得をするのは徳川家康だ。しかし、絶対に失敗しない状況にならなければ家康は動かない。秀吉に比べ家康にはまだまだ時間が残されている。急ぐ必要が無いのだ。
では、誰か。
「最終的に引き渡した場所はどこだったか言ってたか?」
「あ、ああ、北門から出たところだったとか」
「・・・ああ、養子殿か」
都から北に進んで行くと辿り着くのは、豊臣秀次の隠棲先である八幡山城だ。秀頼が誕生したことによって冷遇されいることは、市井の者達の間にも広まっている。それを考えれば、秀吉と利家を仲違いさせて力を削ぎ、反旗を翻して秀吉を討つ。などという夢を見る可能性もある。もし秀次が犯人だとすれば、摩亜が前日の夜に移動することも、経路等の情報を調べることも可能だっただろう。そして、仮に犯人だと疑われても、簡単に手出しができないことも織り込み済みと考えるべきだ。
だが、それは武士の話だ。
盗賊である五右衛門には関係がない。
話しを聞き終えた五右衛門は、彼らの机に有り金を乗せて立ち上がった。
「あ、あんた、もしかして、石川五右衛門か?」
その問いに応えることはなく、五右衛門はその場から立ち去った。
あの日から二日。今日は摩亜が伏見城に入る日である。
現在進行形で、摩亜の行列が人々に見守られながら伏見城に向かっている
伏見城に入城してしまうと、もう二度と会うことはできないだろう。
時間の経過とともに、五右衛門の機嫌は悪くなっていく。
そんな時、明らかに裏野家業といった雰囲気の男が飯屋に入って来た。その男は奥に座っていた仲間の下に歩いて行くと腰を下ろした。
「何っ、摩亜姫が攫われた!?」
「シッ、声がでけえよ」
漏れ聞こえてきた声に五右衛門が反応する。瞬時に二人の元に移動すると、冷え切った目で見下ろした。
「その話、詳しく聞かせてくれねえか?」
「あ?テメエ何を―――――」
立ち上がろうとした男の喉元にいつの間にか短刀が添えられていた。
「今のオレ様は何するか分からねえぞ?」
男の首から血が垂れる。元から座っていた男は腰を抜かし、土間にへたり込んでいる。
「もう一回聞くぞ。詳しく聞かせてくれねえか?」
男は目線だけで頷くと、解放されて力無く椅子に座った。
「オレの仲間が高額で仕事の依頼を受けたんだよ。
依頼主も目的の人物も分からなかったが、人を攫う依頼だった。移動の時刻と襲撃する場所、その後の引き渡しまでの指示が与えられた。余りにもヤバそうな雰囲気だったんで一度は断ったんだが、報酬が一人小判十枚だったもんで心変わりをして依頼を受けた。相場の十倍以上の額だ。その気になるのも分かる。で、昨夜、指示された時刻に指定されていた場所で、八人の仲間と襲撃して攫うことに成功した。その後、そのまま駕籠を奪いって都外の指定されていた場所に運んだ。これで仕事が完了だと思っていたら、引き渡しをした瞬間に襲われたらしい。口封じだったんだと思う。やっぱり、ヤバい仕事だったんだよ。結局、八人の中で唯一オレの仲間だけが逃げ切り、そいつがレの所に転がり込んできたって訳だ。
そいつが言うんだよ。攫った人間が乗っていた駕籠には「梅鉢紋」が入っていたって。梅鉢紋は加賀前田家の家紋だそれに、駕籠が移動する経路は前田屋敷から伏見城の裏門に通じる道だったそうだ。そう考えると、摩亜姫の身の安全を守るために秘密裏に移動させたが、それが裏目に出たんじゃないかって仲間が―――――ヒッ」
その話しを聞いてた五右衛門の身体から殺気が迸る。
目の前で話しをしていた男は殺気に当てられて震え上がった。
五右衛門は沸騰する頭を無理矢理沈め、思考を加速させる。
状況や秀吉の思考を考慮すると、今、この男が説明したことは本当のことだろう。問題は、摩亜を誰が攫ったかということだ。可能性として考えられる筆頭候補の明智党は、数ヶ月前に五右衛門自身が踏み潰した。そもそも、豊臣と前田が不仲になって最も得をするのは徳川家康だ。しかし、絶対に失敗しない状況にならなければ家康は動かない。秀吉に比べ家康にはまだまだ時間が残されている。急ぐ必要が無いのだ。
では、誰か。
「最終的に引き渡した場所はどこだったか言ってたか?」
「あ、ああ、北門から出たところだったとか」
「・・・ああ、養子殿か」
都から北に進んで行くと辿り着くのは、豊臣秀次の隠棲先である八幡山城だ。秀頼が誕生したことによって冷遇されいることは、市井の者達の間にも広まっている。それを考えれば、秀吉と利家を仲違いさせて力を削ぎ、反旗を翻して秀吉を討つ。などという夢を見る可能性もある。もし秀次が犯人だとすれば、摩亜が前日の夜に移動することも、経路等の情報を調べることも可能だっただろう。そして、仮に犯人だと疑われても、簡単に手出しができないことも織り込み済みと考えるべきだ。
だが、それは武士の話だ。
盗賊である五右衛門には関係がない。
話しを聞き終えた五右衛門は、彼らの机に有り金を乗せて立ち上がった。
「あ、あんた、もしかして、石川五右衛門か?」
その問いに応えることはなく、五右衛門はその場から立ち去った。



