百年以上続いた戦国時代が、豊臣 秀吉という英傑の登場により終焉に向かっている時、京都の町を中心に暴れ回る盗賊団がいた。豪商の蔵から大判小判を盗み出し、米蔵から数十の俵を盗み出す。その、悪逆非道を繰り返す盗賊団の首領は石川 五右衛門といった。
五右衛門は義賊などではない。
食うに困り盗人を働いた。
生きる術を教えてくれた恩人を裏切った。
郎党を率いて荒らしまわる。
逆らう者たちに容赦などしない。
強奪する。
蹂躙する。
暴走する。
ただ、非道を積み上げる。
今日も暗闇の中で高台から廃寺を見詰めている。
「間違いねえんだろうな?」
五右衛門が訊ねると、隣に控えている強面の男が口を開いた。
「へい、明智の残党が都で火の手を上げるために、せっせと黄金を運んでいるのを見やしたから間違ぇねぇです」
五右衛門は腕を組んで犬歯を剥き出しにして笑った。
「よし、明智の残党狩りだ。貯め込んだ黄金を丸ごと頂戴するといこうか!!」
五右衛門が決断を下すと同時に、暗闇から刀を持った男達が20名余りも現れた。
その全員が修羅場を潜った猛者揃いだ。各々の実力は、一般的な足軽大将を軽々と凌駕している。五右衛門率いる盗賊団が暴れ回っても捕縛されない最大の理由がこれなのだ。その全員が五右衛門の合図で廃寺を取り囲むように散開する。
「かーかっか、明智の財宝を頂戴しに参った!!」
高らかな笑い声とともに、五右衛門の声が丑三つ時の竹林に響き渡る。
その瞬間、廃寺の中に燈されていた灯りが消え、全方向の扉が開け放たれた。人数は分からない。しかし、飛び出してきた者たちは全て、抜刀して身構えている。当主を失って十年以上、時を待っていた強者のみである。最後の相手としては十分過ぎる。
暗闇の中で甲高い剣戟が響き渡る。
竹が切り裂かれる音が四方から聞こえる。
巻き上げられる笹の葉が朱に染まる。
地を蹴る音が地響きとなり周囲に伝播する。
一気に増幅した気配が徐々に減少していく。
趨勢が決するまでの時間は短い。
短い生においても刹那。
「貴殿は、もしや石川五右衛門殿か?」
腕を組んだまま戦況を眺めていた五右衛門の元に、異様な殺気を放つ浪人が現れた。他の面々とは明らかに一線を画す技量が窺える足さばきを目にしても、五右衛門は微塵も動揺を見せない。
「そうだが、アンタ誰だ?」
「そうか、我等も運がない。まさか、都で最強と謳われる盗賊に狙われるとは・・・」
浪人は腰に佩いた刀を抜くと中段に構え、鞘を投げ捨てる。もう刀を納めるつもりはない、という意味だ。
「我が名は並河 易家・・・光秀様の家臣である!!」
正々堂々、名乗りを上げて向かって来る相手に対し、五右衛門は手にしていた鉛球を親指で弾いた。
袂を分かった師匠から教わった技、指弾。弾き出された鉛球は闇に紛れ、音も無く並河の額を穿った。勢いが止まらない並河の身体は五右衛門の横をすり抜け、前のめりに倒れこんだ。
五右衛門はチラリとも振り返ることもなく、灯りが燈った廃寺に向かって歩き始める。
「悪りぃな、オレ様は武士じゃねえんだわ」
五右衛門は義賊などではない。
食うに困り盗人を働いた。
生きる術を教えてくれた恩人を裏切った。
郎党を率いて荒らしまわる。
逆らう者たちに容赦などしない。
強奪する。
蹂躙する。
暴走する。
ただ、非道を積み上げる。
今日も暗闇の中で高台から廃寺を見詰めている。
「間違いねえんだろうな?」
五右衛門が訊ねると、隣に控えている強面の男が口を開いた。
「へい、明智の残党が都で火の手を上げるために、せっせと黄金を運んでいるのを見やしたから間違ぇねぇです」
五右衛門は腕を組んで犬歯を剥き出しにして笑った。
「よし、明智の残党狩りだ。貯め込んだ黄金を丸ごと頂戴するといこうか!!」
五右衛門が決断を下すと同時に、暗闇から刀を持った男達が20名余りも現れた。
その全員が修羅場を潜った猛者揃いだ。各々の実力は、一般的な足軽大将を軽々と凌駕している。五右衛門率いる盗賊団が暴れ回っても捕縛されない最大の理由がこれなのだ。その全員が五右衛門の合図で廃寺を取り囲むように散開する。
「かーかっか、明智の財宝を頂戴しに参った!!」
高らかな笑い声とともに、五右衛門の声が丑三つ時の竹林に響き渡る。
その瞬間、廃寺の中に燈されていた灯りが消え、全方向の扉が開け放たれた。人数は分からない。しかし、飛び出してきた者たちは全て、抜刀して身構えている。当主を失って十年以上、時を待っていた強者のみである。最後の相手としては十分過ぎる。
暗闇の中で甲高い剣戟が響き渡る。
竹が切り裂かれる音が四方から聞こえる。
巻き上げられる笹の葉が朱に染まる。
地を蹴る音が地響きとなり周囲に伝播する。
一気に増幅した気配が徐々に減少していく。
趨勢が決するまでの時間は短い。
短い生においても刹那。
「貴殿は、もしや石川五右衛門殿か?」
腕を組んだまま戦況を眺めていた五右衛門の元に、異様な殺気を放つ浪人が現れた。他の面々とは明らかに一線を画す技量が窺える足さばきを目にしても、五右衛門は微塵も動揺を見せない。
「そうだが、アンタ誰だ?」
「そうか、我等も運がない。まさか、都で最強と謳われる盗賊に狙われるとは・・・」
浪人は腰に佩いた刀を抜くと中段に構え、鞘を投げ捨てる。もう刀を納めるつもりはない、という意味だ。
「我が名は並河 易家・・・光秀様の家臣である!!」
正々堂々、名乗りを上げて向かって来る相手に対し、五右衛門は手にしていた鉛球を親指で弾いた。
袂を分かった師匠から教わった技、指弾。弾き出された鉛球は闇に紛れ、音も無く並河の額を穿った。勢いが止まらない並河の身体は五右衛門の横をすり抜け、前のめりに倒れこんだ。
五右衛門はチラリとも振り返ることもなく、灯りが燈った廃寺に向かって歩き始める。
「悪りぃな、オレ様は武士じゃねえんだわ」



