あーちゃんとおかあさん

テーブルから滴るジュース。
側にはジュースが付いたうさぎのぬいぐるみと、子ども。

「誰がジュースをこぼしたのかな?」

「うさちゃんがこぼしたの」

「そう? でも、お母さんはうさちゃんにジュースあげてないなぁ」

「うさちゃん、勝手にジュース持ってったの?じゃあ、うさちゃんは悪い子だから、家には置いておけないね。バイバイしなきゃね」

そう言うと、子どもの表情が曇る。

「うさちゃん、かわいそうだよ」

「でも、うさちゃん、悪いことしたのに『ごめんなさい』しないんだもの。悪い子は家に住めないわ」

子どもが泣きだした。

「ごめんなさい。ほんとは、あーちゃん溢しちゃったの。
 うさちゃん、悪くないの。だから、バイバイしないの」

大泣きしてしまい、収拾がつかなくなる。

最近、知恵がついてきて、嘘をつくようになってきた。
どうしたものか。

「そっか。あーちゃん、溢しちゃったね。ちゃんと、本当のこと言えたのね」

怒られるのが怖いのか、子どもはぎゅっとうさぎのぬいぐるみを抱きしめて、動かない。

「大丈夫だよ。うさちゃん、ジュースで濡れて寒そうだね。きれいきれいしなくちゃね」

そう言いながら、子どもの頭を撫でる。

「ごめんなさい。うさちゃん、一緒にいられる?」

上目遣いで聞く仕草が、愛おしい。

「大丈夫だよ。一緒にきれいにしてあげようね」

「うん。あーちゃん、うさちゃんきれいきれいする!」

さっきまで苦しそうに泣いていた子は、どこへ行ったのか。
今は元気にお風呂場へ走っていく、子どもしかいなかった。