未来へ広がる、中九州の空

「真帆ちゃん、入口で会ったのよ」

止まった時間を再び動かしてくれたのは、お母さんの優しい声だった。

「あっ、そうなんだ」
「そう。だから無理言って、お店入ってもらったの」

相変わらず顔は向けずに、言葉だけを翔太に向けるお母さん。でも、この心の距離感が有難かった。まるで全てお見通しでもあるかのように。

「翔太も、座ったら?」

(えっ……? ちょっと……)

「本当に全部分かってるんじゃないの?」と、わたしは思った。お母さんの視線の先は、わたしの目の前。向かい側の座席……。

(そこ、……座るの?)

翔太が目の前に座るの……?

想像しただけなのに、顔が真っ赤になる。悟られないように、視線を壁に向けるけど……ダメだ。顔がもの凄く熱い。

翔太も躊躇しているように見えた。

(えっ……? どういう、こと……?)

スッと座らない翔太に、「何で」という想いが湧いた。

「……何よ、立ってても話が進まないでしょ? 座ったら」

手を止めて、お母さんが翔太にもう一度促すと、「あぁ」と小声で呟いて翔太が席に座った。

「小6の時、以来じゃない」

どういう意味でお母さんが言っているのか……わたしはもう、頭が真っ白になっていて、愛想笑いすらできず、固まっている。箸を置くことだけで、やっとだった。

「そう言えば、真帆ちゃんさ」

お母さんは濡れた手をタオルで拭きながら、わたしに話かけてくれた。「はい」と言うので精一杯。

「夏休み、何か大きな予定……あるの?」

予想だにしない質問。ますます混乱して、固まる。「あっ……えっ……」と、短い単語だけを意味も無く口から出す。

(え? ……夏休み?)

「真帆ちゃん。緊張しなくて良いよ」

心の中を察してくれるような、お母さんの声色。頭では理解できたけれど、心の中までは入ってこない。

「もしさ、大きな予定が入ってないなら……」
「一緒に家族旅行、しようよ」

わたしにできたのは……大きく目を見開いて、お母さんの顔をじっと見つめることだけだった――。