「あ……確か、ここでしたよね」
入口を入って、左側の席。記憶が一気に蘇ってくる。たまに学校からの帰りに「真帆ちゃん!」と声をかけてもらって……この席に座っていた。
翔太と一緒に。
「そうそう。ここだったね。懐かしいね」
思い出に浸りながら、わたしはカバンを置いて、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
店内の様子は、ちょっと古くなった感じはするけど……メニュー表や、ビールの張り紙。前に来た時と、何一つ変わっていなかった。
「ちょっと待ってて」
そう言うと、お母さんは厨房の方に歩いて行った。お母さんの後ろ姿も、本当に懐かしい。
(色々……作ってもらったな)
毎日では無かったけれど、翔太とこの席に座って……お父さんが色々と作ってくれた。
(ラーメン、良く食べたな)
「晩ご飯食べれなくなるから」って言って、ミニサイズで出してくれて……「ほら、食べて帰りな」って、お父さんが。
いつの間にか、穏やかに微笑んでいる自分に驚いていると、奥の厨房からお父さんが出てきてくれた。
「おぉ! 真帆ちゃんかぁ! 懐かしい子が来たな!」
わたしはガタンと椅子をお尻で押し出すようにして、立ち上がり、頭を下げる。
「あっ! お久し振りです……」
「良いよ、良いよ。ほら、座って」
ちょっとシワのある白い服。わたしに向けてくれる笑顔……4年前のお父さん、そのもの。一気に小学生の頃の景色が蘇ってきて、お父さんの作った中華料理が食べたくなってきた。
「ちょっと、そこ、座ってな」
(そうだ……この感じだ……)
きっと次は、ニコリと笑いながら厨房に向かうはず。そう思っていると、わたしの予想通りお父さんはニコリと笑いながら、厨房へと姿を消した。
――
――
「はい、ラーメンね」
香ばしい醤油の匂い。何一つ変わっていない。お父さんは「熱いから気をつけな」と言いながら、白い湯気がもうもうと立ち上るどんぶりを、ゆっくりとわたしの目の前に置いてくれた。
「……ミニサイズ、ですよね。晩ご飯食べられなくなると、困るから」
そう言うと、わたしはお父さんを見上げた。一瞬きょとんとした表情をしていたお父さん。次の瞬間、大きく笑った。
「そうだったね! 真帆ちゃん、良く覚えてるなぁ。急に思い出したよ」
「きっとお父さんもわたしと同じ気持ちなんだな」と思って、わたしは一人、微笑んだ。「いただきます」と言って、割り箸を静かに折る。
「翔太は? 母さん」
お父さんは、冷蔵庫に野菜を入れているお母さんに向かってしゃべりかけた。どうやら夕方からの開店に間に合わせようと、準備をしているらしい。
「まだ帰ってないですけどね」
忙しそうに動いているお母さん。目は向けずに、言葉だけお父さんに返していた。
「たぶん、まだ学校ですよ。わたし出る時に見ましたもん」
優香ちゃんと教室を出る時に、確か男子と教室で話をしていたのを思い出す。
(あっ……)
「良く見てるね」とか「同じクラスか」とか……お父さん達から色々と言われてしまいそうで、思わず顔が熱くなった。気付かれないように、1人で下を向く。
(しまったな……)
(余計なこと、言っちゃったかな……)
気付かないで欲しいな……と思いながら、わたしは懐かしい味を楽しんでいた。
「……ただいまぁ」
ガララとドアを開ける音がして……翔太の声が聞こえた。
(……!)
何も考えることができず、ピタリと動きが止まる。心臓だけが、いつもより速く動き続けていた。
「あっ……」
わたしの顔を見て、翔太も動きが止まる。一瞬だけ驚いたような表情をした気がした。
「……翔太」
「真帆じゃんか……」
温かい思い出に浸っていた中、わたしと翔太の周りだけ……時間が止まったように、静まり返っていた――。
入口を入って、左側の席。記憶が一気に蘇ってくる。たまに学校からの帰りに「真帆ちゃん!」と声をかけてもらって……この席に座っていた。
翔太と一緒に。
「そうそう。ここだったね。懐かしいね」
思い出に浸りながら、わたしはカバンを置いて、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
店内の様子は、ちょっと古くなった感じはするけど……メニュー表や、ビールの張り紙。前に来た時と、何一つ変わっていなかった。
「ちょっと待ってて」
そう言うと、お母さんは厨房の方に歩いて行った。お母さんの後ろ姿も、本当に懐かしい。
(色々……作ってもらったな)
毎日では無かったけれど、翔太とこの席に座って……お父さんが色々と作ってくれた。
(ラーメン、良く食べたな)
「晩ご飯食べれなくなるから」って言って、ミニサイズで出してくれて……「ほら、食べて帰りな」って、お父さんが。
いつの間にか、穏やかに微笑んでいる自分に驚いていると、奥の厨房からお父さんが出てきてくれた。
「おぉ! 真帆ちゃんかぁ! 懐かしい子が来たな!」
わたしはガタンと椅子をお尻で押し出すようにして、立ち上がり、頭を下げる。
「あっ! お久し振りです……」
「良いよ、良いよ。ほら、座って」
ちょっとシワのある白い服。わたしに向けてくれる笑顔……4年前のお父さん、そのもの。一気に小学生の頃の景色が蘇ってきて、お父さんの作った中華料理が食べたくなってきた。
「ちょっと、そこ、座ってな」
(そうだ……この感じだ……)
きっと次は、ニコリと笑いながら厨房に向かうはず。そう思っていると、わたしの予想通りお父さんはニコリと笑いながら、厨房へと姿を消した。
――
――
「はい、ラーメンね」
香ばしい醤油の匂い。何一つ変わっていない。お父さんは「熱いから気をつけな」と言いながら、白い湯気がもうもうと立ち上るどんぶりを、ゆっくりとわたしの目の前に置いてくれた。
「……ミニサイズ、ですよね。晩ご飯食べられなくなると、困るから」
そう言うと、わたしはお父さんを見上げた。一瞬きょとんとした表情をしていたお父さん。次の瞬間、大きく笑った。
「そうだったね! 真帆ちゃん、良く覚えてるなぁ。急に思い出したよ」
「きっとお父さんもわたしと同じ気持ちなんだな」と思って、わたしは一人、微笑んだ。「いただきます」と言って、割り箸を静かに折る。
「翔太は? 母さん」
お父さんは、冷蔵庫に野菜を入れているお母さんに向かってしゃべりかけた。どうやら夕方からの開店に間に合わせようと、準備をしているらしい。
「まだ帰ってないですけどね」
忙しそうに動いているお母さん。目は向けずに、言葉だけお父さんに返していた。
「たぶん、まだ学校ですよ。わたし出る時に見ましたもん」
優香ちゃんと教室を出る時に、確か男子と教室で話をしていたのを思い出す。
(あっ……)
「良く見てるね」とか「同じクラスか」とか……お父さん達から色々と言われてしまいそうで、思わず顔が熱くなった。気付かれないように、1人で下を向く。
(しまったな……)
(余計なこと、言っちゃったかな……)
気付かないで欲しいな……と思いながら、わたしは懐かしい味を楽しんでいた。
「……ただいまぁ」
ガララとドアを開ける音がして……翔太の声が聞こえた。
(……!)
何も考えることができず、ピタリと動きが止まる。心臓だけが、いつもより速く動き続けていた。
「あっ……」
わたしの顔を見て、翔太も動きが止まる。一瞬だけ驚いたような表情をした気がした。
「……翔太」
「真帆じゃんか……」
温かい思い出に浸っていた中、わたしと翔太の周りだけ……時間が止まったように、静まり返っていた――。



