未来へ広がる、中九州の空

「あ、真帆」
「……翔太」

磯子駅で偶然会うことも増えた。本当は一緒に帰ったりしたいけれど、自分から切り出すほどの勇気は、まだ持ち合わせていない。

「何、どっか行ってたの?」
「うん。希ちゃん達と図書館で勉強してた」

どこかぎこちない、わたし達の会話。翔太も言葉を選んでいるように見える。

改札口を右に曲がって、歩道橋を真っすぐ進む。

「あのさ……昨日くれたDMなんだけど……」
「あっ、うん。予定、ある?」

歩道橋の突き当り。わたし達は左に進んだ。しばらくお互いに黙り込んでしまう。何から話せば良いか、頭の中は真っ白……。

「いや、行けるよ……花火」
「本当?」

翔太が思わず大声を出す。「行けるよ」。この言葉を口にしただけなのに……もの凄く恥ずかしい。思わずわたしは下を向いてしまった。

「良かった……無視されたかと思った」

安堵のため息をつきながら、穏やかな顔で翔太が笑う。……わたしも安心した。

「そんなこと無いよ。何か……緊張して返せなかった。ごめんね」
「いや……俺も急に、誘ったからさ……」

ぎこちない会話は続いて、たまにお互い無言。国道に沿って、いつもよりゆっくりと歩いた。……少しでも翔太と話をしていたいから。ジワジワと鳴いている蝉の声だけが、わたし達の間でこだましていた。

(でも……前じゃ考えられないな)

胸がどきどきしながら、翔太の隣を歩く。緊張していて、上手く言葉が出ないけれど……別にわたしは、それで良い。

来月、翔太と2人で花火に行けるから。

夏休み前までは、考えられない。これだけでも、わたしはとっても幸せ。

(花火か……何を着て行こうかな)

薄っすらと暗くなっていく夜空に、色彩豊かな、花火が広がる――。

そんな景色を想像して、わたしは1人、穏やかに笑う。

「ん? どうした? 何かあった?」

一瞬ぎくりとした。どうやら1人で笑っているのが、翔太にばれたらしい。

「えっ……? いや、別に?」
「そう? 1人でにやにやして……変なヤツだ」

この時間が……翔太と2人の時間が、ずっと続きますように。

そう願いながら、わたしは翔太の隣を静かに歩いた。

九州の夏を、思い出しながら。


【完】