「別府の地獄」
遥か1000年以上も前から、色々な色や状態で湧き出ているお湯のことらしい。何でも風土記にも書いてあると言っていた。歴史の授業で教わった『風土記』。まさかこんな場所で耳にするなんて、夢にも思わず、ぼんやりと説明を聞いていた。
「お湯って……入れるの」
「いや、入ることはできないよ」
翔太とお父さんが話をしている。お父さんはタクシーの助手席に座り、後ろを振り返りながら、翔太に説明していた。
「何、そしたら見るだけ?」
「まあ、そうだね。でも凄いよ。一度は見ておいた方が良い」
「ふぅん」
後部座席で、翔太は気の抜けたような返事をした。
「20分で戻って来ます」
お父さんは運転手さんにそう告げて、わたし達は入口へと向かう。至る所から湯気というか……もうもうと白い蒸気が立ち上る。
「ここは『海地獄』って言うんだ」
入口で女性にお金を払いながら、お父さんは言った。「コバルトブルー」の地獄らしい。やっぱりわたしも翔太も良く分かっていない。チケットを受け取り、中へと進んで行った。
7月25日。平日ではあるけれど、夏休みということもあってか……場内は多くの人で賑わっている。わたしと同じくらいの年齢の人も多いけれど、おじいちゃんくらいの年齢層まで、幅広い。良く見てみると、外国の人もいる。
「何ですか? 海地獄って」
「まあ、行けば分かるよ。時間もそんなに無いしね……行こうか」
場内で一際白い噴煙を上げている場所。お父さんは一直線に歩いて行く。わたしと翔太はお父さんの背中を追った。
「あれだよ」そう言って指さした場所は、多くの人で賑わっていた。それほど大量では無いけれど、白い湯気が出ている。
「あっ……青い」
「だろう? これが『海地獄』だよ」
幅は100メートル以上はある、青い湖のような場所。耳を澄ませば、「ゴポッ、ゴポッ」っと音がするけれど、けたたましい蝉の鳴き声にかき消されている。
「凄い……真っ青じゃないですか」
「これは、1000年以上前の噴火でできたんだよ」
さっきもタクシーの中で聞いたけれど、7つの『地獄』は、どれも特徴的な色をしているらしい。わたし達が訪れた海地獄は、コバルト色をした地獄。
もっと早い時間にくれば、太陽の光を今以上に反射して……もっと神秘的な輝きを放つらしい。
「これ……熱いんですよね?」
「ああ。確か100度くらいあるぞ。だから触れない」
柵の外側から、エメラルド色が混じったような深い青を覗く。「地獄って言うから……」と、ちょっとテンションが低い翔太をよそに、わたしは心を奪われていた。
……十分、神秘的に感じていたから。
「硫黄の香り、ほんのりしますね……」
小さい頃、家族で伊豆に旅行に行ったことがある。その時に大涌谷で硫黄の匂いを嗅いだ。「懐かしいな……」海地獄の硫黄の香りは、一気に記憶を呼び戻してくれた。
「たぶんあれ、蓮ですよね? 何かエキゾチックな感じがして……横浜じゃ見れないですね、これ」
しばらくわたしは、ゴポゴポと静かに音を上げながら、白い湯気を吐き続ける地獄を、無心で眺め続けていた。
遥か1000年以上も前から、色々な色や状態で湧き出ているお湯のことらしい。何でも風土記にも書いてあると言っていた。歴史の授業で教わった『風土記』。まさかこんな場所で耳にするなんて、夢にも思わず、ぼんやりと説明を聞いていた。
「お湯って……入れるの」
「いや、入ることはできないよ」
翔太とお父さんが話をしている。お父さんはタクシーの助手席に座り、後ろを振り返りながら、翔太に説明していた。
「何、そしたら見るだけ?」
「まあ、そうだね。でも凄いよ。一度は見ておいた方が良い」
「ふぅん」
後部座席で、翔太は気の抜けたような返事をした。
「20分で戻って来ます」
お父さんは運転手さんにそう告げて、わたし達は入口へと向かう。至る所から湯気というか……もうもうと白い蒸気が立ち上る。
「ここは『海地獄』って言うんだ」
入口で女性にお金を払いながら、お父さんは言った。「コバルトブルー」の地獄らしい。やっぱりわたしも翔太も良く分かっていない。チケットを受け取り、中へと進んで行った。
7月25日。平日ではあるけれど、夏休みということもあってか……場内は多くの人で賑わっている。わたしと同じくらいの年齢の人も多いけれど、おじいちゃんくらいの年齢層まで、幅広い。良く見てみると、外国の人もいる。
「何ですか? 海地獄って」
「まあ、行けば分かるよ。時間もそんなに無いしね……行こうか」
場内で一際白い噴煙を上げている場所。お父さんは一直線に歩いて行く。わたしと翔太はお父さんの背中を追った。
「あれだよ」そう言って指さした場所は、多くの人で賑わっていた。それほど大量では無いけれど、白い湯気が出ている。
「あっ……青い」
「だろう? これが『海地獄』だよ」
幅は100メートル以上はある、青い湖のような場所。耳を澄ませば、「ゴポッ、ゴポッ」っと音がするけれど、けたたましい蝉の鳴き声にかき消されている。
「凄い……真っ青じゃないですか」
「これは、1000年以上前の噴火でできたんだよ」
さっきもタクシーの中で聞いたけれど、7つの『地獄』は、どれも特徴的な色をしているらしい。わたし達が訪れた海地獄は、コバルト色をした地獄。
もっと早い時間にくれば、太陽の光を今以上に反射して……もっと神秘的な輝きを放つらしい。
「これ……熱いんですよね?」
「ああ。確か100度くらいあるぞ。だから触れない」
柵の外側から、エメラルド色が混じったような深い青を覗く。「地獄って言うから……」と、ちょっとテンションが低い翔太をよそに、わたしは心を奪われていた。
……十分、神秘的に感じていたから。
「硫黄の香り、ほんのりしますね……」
小さい頃、家族で伊豆に旅行に行ったことがある。その時に大涌谷で硫黄の匂いを嗅いだ。「懐かしいな……」海地獄の硫黄の香りは、一気に記憶を呼び戻してくれた。
「たぶんあれ、蓮ですよね? 何かエキゾチックな感じがして……横浜じゃ見れないですね、これ」
しばらくわたしは、ゴポゴポと静かに音を上げながら、白い湯気を吐き続ける地獄を、無心で眺め続けていた。



