「私だけ、ちょっと実家に寄ってくるから。3人で色々と回っててね」
バスの中で、お母さんは言った。別府で降りた後は、お母さんだけしばらくの間、別行動になるらしい。
(それより……当たる)
バスの中は狭い。横浜駅から羽田空港まで乗っていたリムジンバスより少し狭いくらい。翔太の腰が、少しだけ触れる。できるだけ身を縮めるように、どきどきしながら座っていた。
「本当はね、ホバークラフトに乗ってみたかったんだよね……」
バスの窓の外を見ながら、お母さんがぼそりと呟く。どうやら最近、大分空港と大分市を結ぶ乗り物が復活したらしい。
大分空港は交通の便が悪い。
海に突き出た、『国東半島』と呼ばれるエリアにあり、別府市や大分市から相当離れている。県庁所在地の大分市まで、バスで1時間もかかる。
ホバークラフトは、海の上を滑るように進む乗り物らしく、30分ほどで結ぶという。
「昔、普通にあったんだけどね。ずっと廃止されて……最近また復活したんだよ」
お母さんの顔は、少し寂しそうだった。「また今度……来た時は乗りたいな」と呟いた。
――
「暑っつ……」
30分ほどバスに揺られて、別府で降りる。横浜とは比べものにならない暑さ。ここからホテルまで徒歩で行くと聞いて、わたしは目まいを覚えた……。
「ま、熊本に比べれば、涼しいよな」
そう言うと、お父さんは涼しい顔で荷物を肩に担いで歩き始めた。
「ね、人が全然いないんだけど……」
大分県は大分市と別府市が大きいらしい。来る前に調べておいた。なのに……別府の駅前は全然人が歩いていない。
夜10時を過ぎた磯子駅の方が、まだ人がいる。
「俺も、それ思った。磯子の方がいるよな。人」
きょろきょろと周囲を見渡しながら、翔太もわたしと同じことを呟いていた。
大分はホームセンターやファミレスなど、色々なお店が大分発らしい。宿泊するホテルも、九州中にあるけれど、大分が発祥のホテル。
外観はそれほど立派では無かったけれど、団地のような大きさを誇っていた。思わず見上げて、感嘆の声を出してしまう。
「じゃ……鍵ね」
ホテルの部屋は、翔太とお父さんが同じ部屋。そしてわたしとお母さんが同じ部屋。お母さんは実家に向かって電車に乗ってしまったので……わたしだけとりあえず、部屋へと入る。
30分後に、フロントに集合。詳しくは聞いていないけれど『地獄』があるらしかった。
(地獄……? まあ、とりあえず荷物の整理しよう……)
初めての大分。いや、九州。別府は車社会らしく、歩いている人はほとんどいない。寂しさというよりも新鮮で、わたしは「癒されるな」と思い、好意的に受け入れた。
朝からすっかり汗をかいてしまったわたしは、先ずはシャワーを浴びて、新しいTシャツに着替える。ご飯も外で食べて、お風呂にも行く予定、って聞いていたので手提げ袋にタオルを詰め込んだ。
「さて、じゃ……行こうか」
本当に大きいホテル。タクシーもしっかりと停まっていて、わたし達は3人でタクシーへと乗り込んだ。
「地獄、行きたいんですけど……お勧めあります?」
運転手さんに向かって『地獄』と言っている。わたしと翔太は顔を見合わせて、首をかしげた。
「全部は行かれないんですか?」
優しそうな運転手さんの呼びかけに「ちょっとそこまで時間も無くて」と、お父さんは答えていた。
「そうですね……青と赤は見ておいた方が良いですかね」
「青と、赤か……」
「でも、ちょっと離れてるんですよ」
どうやら、全部で7つの『地獄』があるらしい。そのうち2つを回ることになった。ちょっと距離が離れているということで……タクシーが時間を決めて、待っていてくれることになった。
「最初は青から行きましょうか」
そう言ったタイミングで信号が青に変わる。わたし達を乗せたタクシーは『青の地獄』に向けて、スピードを上げて進んで行った――。
バスの中で、お母さんは言った。別府で降りた後は、お母さんだけしばらくの間、別行動になるらしい。
(それより……当たる)
バスの中は狭い。横浜駅から羽田空港まで乗っていたリムジンバスより少し狭いくらい。翔太の腰が、少しだけ触れる。できるだけ身を縮めるように、どきどきしながら座っていた。
「本当はね、ホバークラフトに乗ってみたかったんだよね……」
バスの窓の外を見ながら、お母さんがぼそりと呟く。どうやら最近、大分空港と大分市を結ぶ乗り物が復活したらしい。
大分空港は交通の便が悪い。
海に突き出た、『国東半島』と呼ばれるエリアにあり、別府市や大分市から相当離れている。県庁所在地の大分市まで、バスで1時間もかかる。
ホバークラフトは、海の上を滑るように進む乗り物らしく、30分ほどで結ぶという。
「昔、普通にあったんだけどね。ずっと廃止されて……最近また復活したんだよ」
お母さんの顔は、少し寂しそうだった。「また今度……来た時は乗りたいな」と呟いた。
――
「暑っつ……」
30分ほどバスに揺られて、別府で降りる。横浜とは比べものにならない暑さ。ここからホテルまで徒歩で行くと聞いて、わたしは目まいを覚えた……。
「ま、熊本に比べれば、涼しいよな」
そう言うと、お父さんは涼しい顔で荷物を肩に担いで歩き始めた。
「ね、人が全然いないんだけど……」
大分県は大分市と別府市が大きいらしい。来る前に調べておいた。なのに……別府の駅前は全然人が歩いていない。
夜10時を過ぎた磯子駅の方が、まだ人がいる。
「俺も、それ思った。磯子の方がいるよな。人」
きょろきょろと周囲を見渡しながら、翔太もわたしと同じことを呟いていた。
大分はホームセンターやファミレスなど、色々なお店が大分発らしい。宿泊するホテルも、九州中にあるけれど、大分が発祥のホテル。
外観はそれほど立派では無かったけれど、団地のような大きさを誇っていた。思わず見上げて、感嘆の声を出してしまう。
「じゃ……鍵ね」
ホテルの部屋は、翔太とお父さんが同じ部屋。そしてわたしとお母さんが同じ部屋。お母さんは実家に向かって電車に乗ってしまったので……わたしだけとりあえず、部屋へと入る。
30分後に、フロントに集合。詳しくは聞いていないけれど『地獄』があるらしかった。
(地獄……? まあ、とりあえず荷物の整理しよう……)
初めての大分。いや、九州。別府は車社会らしく、歩いている人はほとんどいない。寂しさというよりも新鮮で、わたしは「癒されるな」と思い、好意的に受け入れた。
朝からすっかり汗をかいてしまったわたしは、先ずはシャワーを浴びて、新しいTシャツに着替える。ご飯も外で食べて、お風呂にも行く予定、って聞いていたので手提げ袋にタオルを詰め込んだ。
「さて、じゃ……行こうか」
本当に大きいホテル。タクシーもしっかりと停まっていて、わたし達は3人でタクシーへと乗り込んだ。
「地獄、行きたいんですけど……お勧めあります?」
運転手さんに向かって『地獄』と言っている。わたしと翔太は顔を見合わせて、首をかしげた。
「全部は行かれないんですか?」
優しそうな運転手さんの呼びかけに「ちょっとそこまで時間も無くて」と、お父さんは答えていた。
「そうですね……青と赤は見ておいた方が良いですかね」
「青と、赤か……」
「でも、ちょっと離れてるんですよ」
どうやら、全部で7つの『地獄』があるらしい。そのうち2つを回ることになった。ちょっと距離が離れているということで……タクシーが時間を決めて、待っていてくれることになった。
「最初は青から行きましょうか」
そう言ったタイミングで信号が青に変わる。わたし達を乗せたタクシーは『青の地獄』に向けて、スピードを上げて進んで行った――。



