未来へ広がる、中九州の空

夏休み前の横浜は、湿気はそこまでじゃ無いけれど、やっぱり少し蒸し暑い。スーパーの前を歩く人達も、手をうちわのように形を変えながら歩いている。

「嬉しいです……。翔太のお母さんにも全然会ってないし」
「今日の話、翔太には内緒にしといてもらって良いかな? もし真帆ちゃんが大丈夫そうなら、家で翔太には、話をしておくから」

お父さんはそう言うと、パチンと左目を瞑って口元に指を当てた。

「いつ何ですか? 予定」
「あっ、ええとね……7月の、25日だね」

「25日……」

わたしは小さい声で復唱した。予定を思い出すかのように。……もちろんわたしには何も予定は無い。優香ちゃん達と出かける予定も無いし、家族でどこかに行く予定も入ってはいなかった。

(翔太のお母さん達と、旅行かあ……)

家に帰る途中、優しかったお母さんに笑顔を思い出す。それと同時に「翔太と飛行機乗るんだな……」と、わたしはちょっと複雑だった。

――

「行ってきたら良いんじゃない?」
「さっき電話が来たよ。翔太くんのお母さんから」

晩ご飯の唐揚げに箸を入れながら、お母さんは懐かしそうに答えた。すでにお父さんも話を聞いているらしく、特に何も言ってくることは無い。

「翔太くん、懐かしいよね。行って来たら良いじゃない」

「そうだけど……急だから……」

わたしも翔太の家に良く遊びに行っていたけど、翔太もうちに良く来ていた。翔太だけの時もあったし、他に2~3人集まっていた時もあったけど……特に翔太のことを、お母さんは気に入ってるような気もしていた。

「明るくて、良い子じゃない」

みんなが帰った後に、良く言っていたのを急に思い出した。

この4年間くらいは付き合いは無くなったみたいだけど、お母さん同士もクラスの保護者会で良く顔を合わせていたらしかった。

「翔太くん家だったら、安心だからね。お母さん達は別に構わないよ」

そう言うとお母さんは、ちらりとお父さんに視線を向けた。きっと「良いんじゃないか?」って言うんだろうな……と思いながら、わたしもお父さんに視線を向ける。

「ん? あぁ。良いんじゃないか? 行ってきたら」

(ほらね……)

予想通りの答えだった。お父さんに「駄目」と言われたことは、まず無い。ちゃんと理由があれば、いつもお父さんは賛成してくれた。

お父さんとお母さんに「えぇ……」と答えてはみるけれど、わたしの心の中は踊っていた。

もちろん気まずい気持ちもあるし……どきどきして、いつも以上に鼓動を強く感じてはいる。

でも……翔太とどこかに行ける。ちゃんとお父さんやお母さんもついて来てくれる。

恥ずかしさよりも、嬉しさが勝っていた。両方の気持ちが心の中でぐるぐると回り……目まいがして、少し気分が悪くなるくらいだった。

「大分だろ? 良いじゃないか。真帆は九州、初めてだからな」

お父さんはお茶をずずっと飲みながら、ぼそりと言った。確かに、修学旅行はもちろん、家族旅行でも九州に行ったことは、これまでに無い。

「そうだね……緊張するな……」

内心嬉しくて、「翔太と行けるよ!」と言いたい気分だったけれど、わたしは不安な表情で悩むように声を絞り出す。

こうしてわたしの夏休みの予定が、決定した――。