未来へ広がる、中九州の空

(……450円?)

温泉は夜10時近いのに、若い人や家族連れで賑わっていた。「もっと郊外に行けば、雰囲気良いけど……賑やかでごめんな」とお父さんが謝っていたけど。

そもそも磯子や横浜にいたら、こんなに手軽に温泉に来れない。沢山の人達をかき分けて、到着するだけで汗だくになりそう。

天然温泉だし……。

450円だし……。

(何なの? ここ……)

驚いてしまって言葉が出ないわたしの横で、「450円か……別府に比べれば高いよね」と、お母さんは1人、呟いていた。

「あまり硫黄の匂い、しないね……」

大浴場でお湯に漬かりながら、お母さんが言っていた。確かに、匂い自体は強烈な感じでは無いけれど……ほんのりと硫黄の香りがした。

わたしには、これだけでも驚き。

鼻の奥に、かすかに香ってくる……優しい硫黄の香り。入浴剤では出すことのできない、自然な香りだった。

「いや……わたしはこれでも驚いてますけど……」
「えっ? そしたら大分に来たら、もっと驚くよ」

「このお湯じゃあね」と言っているお母さん。「絶対に大分で温泉に入りたい」と、わたしは強く想うようになっていた。

お風呂から出て、何より驚いたのは……疲れが凄いことだった。

脱衣所で着替えていると、倒れるまではいかないけれど……物凄く、体が重い。普段家のお風呂に入っていたら、こんなことは絶対に無かった。

「天然温泉だからだと思うよ」

待合所で翔太たちを待っている間に、お母さんが教えてくれた。

「天然だからね。お湯のパワーが凄いのよ」
「疲れが一気に出て来たんだよ」

もうすでに頭がぽわっとして、「今すぐにでも寝てしまいたい」、そんな感覚だった。意識が遠のいて行くのを、わたしは必死に耐える。

「お湯あたり」っていうのもあるらしいけど、「たぶん違うと思う」ってお母さんは言った。

タクシーに乗って、ホテルの自動ドアをくぐった所までは覚えているけど……どれも断片的で、正直あまり覚えていない。

帰り道。疲れがどっと出ていて、体験したことの無い感覚。体育の授業で運動していても、小学生の頃に外で遊び過ぎても……ここまでダルくなることは無かった。

体は重たいのに……あまりにもほわっとして、気持ち良くて……部屋に入ると、そのままベッドで意識を失うように、眠ってしまったらしい。