未来へ広がる、中九州の空

「あっ、真帆ちゃん。おはよう」
「優香ちゃん、おはよ!」

8時20分。何とかぎりぎり教室に滑り込むと、隣の席から優香ちゃんが声をかけてくれる。

「珍しいじゃん。いつもはもう少し早くない?」
「いや……希ちゃんが色々話かけてくるから……」

ちらっと希ちゃんの方に視線を向けると、バツが悪そうに背中を丸めながら席に着こうとしていた。

(……まったく)

翔太と健人くんの会話は、まだ希ちゃんしか知らない。クラスの誰にも言ってなかった。栄高祭から2週間ほどしか経っていないけど……翔太の様子はいつもと変わらないように見えた。

「よーし、ホームルーム始めるぞ」

ガラリとドアを開けて先生が入ってくると、学級委員の声に従ってみんな席を立った。挨拶が終わってガララと椅子を引きながら座る時、後ろを向くフリをしながら、翔太に視線を向ける。

(……何よ)

特に私に視線を向ける訳でも無く、下を見ながら座る翔太。「こっち見てもくれない……」少しだけもやっとした気持ちになった。

翔太とはお互い家が近かったし、うちの親と翔太のお父さん、お母さん同士も仲が良い。小学生の頃までは、お互いの家に行って遊んだりしてたけど……中学生になってからは、クラスも変わったし、ほとんど顔を合わせた時に挨拶する程度になっていた。

(まさか……高校まで同じになるんてね……)

1時間目の現代文。教科書を開いても文字が頭に入ってこない。

どうやら昭和の物語文らしかった。

(……クラスまで一緒だしさ)

栄高祭の健人くん達の会話。

「きっと聞き間違いだ」と思うようにしていた。でも希ちゃんにああやって言われると、心の奥底がきゅっと痛む。

「あれって本当なの?」
「聞こえちゃったんだけど。どういうこと?」

翔太に直接確認できたら、どんなに楽か。

……だって翔太は、わたしの初恋の人だから。

別に告白された訳じゃ無い。でも小学生の頃、二人でいつも一緒にいた。「付き合えたら良いな」って、ずっと思っていた。「わたしのこと、ひょっとして好きなのかな?」っていつも考えていた。

「中学生になったら、告白してくれるのかな」と思いながら過ごしていたけど、3年間の妄想で終わってしまった。バレンタインデーは何もしていない。

……「好きじゃない」って言われるのが、怖かったから。

だから、高校に入学した時にビックリして心臓が止まるかと思った。合格者招集日に体育館に集まった時、同じC組の列の中に翔太を見かけたから。

わたしのことなんて、ただの幼馴染としか考えていないのか……。

誰か好きな人がいるのか……。

それはわたしには分からない。

わたしにできることは、何気ない会話をたまにして、いつも遠くから見ることだけだ――。