未来へ広がる、中九州の空

ペットボトルの表面が、みるみるうちに汗をかいていく。「あんまり冷たいと良く無いんじゃない?」と言うと、翔太はおでこにぴたりと当てた。

「……気持ち良いなー……生き返る」

やっぱり横浜とは違う暑さのせい。軽い熱中症だったのかも知れない。おでこの熱で、ペットボトルはあっという間に体温程度になっていた。

「……ありがと」
「えっ? いや……良いよ。だって、暑いじゃん……」

翔太の様子が違うな、と思ったら無我夢中で自動販売機に走っていた。

改まってお礼を言われて、何だか顔を見ることができない。

「でも、ちょっと良くなったみたいだから……安心した」

何とか口に出すことができた、一言だった。

「水飲んだら、元気になってきた気がする」
「……だから、熱中症気味だったんだってば」

「悪い。世話が焼けて……」

熊本で2人きり。学校じゃ聞くことができない言葉に、またわたしの胸は締め付けられる。

「……良いって。わたし、ソフトクリーム買って来ようかな……」
「あ、俺も食べたいな……」

「そう? じゃ、同じの買ってくるから。文句言わないでよ?」

恥ずかしさと気まずさで、そそくさとわたしは、店内へと入って行った。

――

(さて……)

両手には抹茶のソフトクリーム。横浜のお店より濃い緑色。じんわりと垂れ始めたのを見て、わたしは翔太の元に急いだ。

(……?)

ベンチに座っている翔太に向かって、誰かがしゃべりかけていた。……良く見てみると、どうやら外国の人らしい。ベンチに座ったまま顔を上げて、翔太は何やらしゃべっているように見えた。

「どうしたの?」

両手が塞がったまま、顔を上げている翔太に向かって話かけると、「あぁ、実は」と言って事情を教えてくれた。

「……そういうこと。わたし、やりますよ!」

抹茶のソフトを翔太に手渡して、外国人の女性からカメラを預かる。ズシリと重い、本格的なカメラ。写真を撮って欲しいらしく、翔太に声をかけた所だった。

「どこで撮りましょうか?」
「……あそこでお願いします」

流暢な日本語で、女性が答える。指さす方向に目を向けると、入口付近を指していた。わたし達は外国人の女性と一緒に、さっき歩いて来た入口へと戻って行った。

「あなた達は……恋人なの?」

歩きながら、女性がわたしに向かって言う。思わず顔が真っ赤に熱くなり、言葉が出てこない……。

「えっ……あの、えーっと……」
「あははっ! ОK!」

言葉が喉から出ないわたしの心を、察してくれたかのように、女性は大きな声で笑っていた。翔太は少し後ろを歩いていて、どうやら聞こえなかったらしい。

「じゃ、撮りますね……」
「はい、チーズ」

カシャリとシャッターを押すと、女性は「サンキュー」と言ってくれた。落としてしまわないように、丁寧にカメラを女性に手渡しする。

「次、あなた達を撮りますよ」
「えっ……?」

「撮ってもらったので。お返しです。スマホ、ありますか?」

勢いに負けて、女性にスマホを渡す。翔太の持っているソフトを、ごまかすように少しだけ食べた。

「ね、わたし達のこと……撮ってくれるみたい」
「そうなの? マジ?」

やっぱり。翔太もわたしと同じリアクション。「絶対、緊張してるんだ……」と思った。顔が真っ赤になった気がして、目が少し泳いでいる。

(せっかくだから……2人の写真、欲しいな)

「翔太、こっち!」

本当は恥ずかしい。顔が赤くなっているのも、自分で分かってる。でも……わたしは翔太と2人の写真が欲しい。横浜じゃなくて熊本の。

「お願いします!」
「……ダメよ。2人……もっと、近づいて?」

女性は手を振りながら、「お互いもっと寄って」と合図を出している。わたし達は……お互いの顔をちらりと見て、ちょっとだけ近づいた。

「じゃ、撮りますね!」

スマホを横に向けて、撮ってくれた。

きっとこの先も、大切にすると思う。

わたしと翔太の……2人だけの写真。