未来へ広がる、中九州の空

「あ、着替えたんだ」

フロントに下りていくと、白いTシャツの翔太が待っていた。わたしもシャワーを浴びて、午後の熊本の街に備えている。……汗がにじんでも大丈夫なように、軽いカーディガンも持った。

お母さんはちょっと前に出ていったから、もう……翔太と2人。

何をしゃべって良いか、わたしには分からない。

「そうだね……暑いから」
「じゃ、行こうか」

翔太もぎこちない表情を浮かべている。まさか、いきなり2人になるなんて……「移動してる時に、教えてくれれば良いのに」と思いながら、フロントを後にした。

「うわぁ……」

横浜にいる時よりも、太陽が近い気がする。良く「じりじりと照り付ける太陽が」というような表現を見るけれど、「じりじり」どころか太陽に包み込まれるような気すら、していた。

「暑っついね……」

まとわりつくような暑さ。シャワーを浴びたばかりなのに、もう背中にうっすらと汗を書き始める。

「ね、どうする?」

緊張もしているけど、暑さで目まいもする。何も考えることができないわたしは、とりあえず翔太に言葉を投げた。

「ご飯、食べようよ。もう……2時だから」

(……そっか。忘れてた)

朝から色々あって……胸がいっぱいになっていた。お陰で空腹を感じること無く、もう午後2時を過ぎようとしていた。

「そうだね。……何食べようか」
「まぁ、歩いてみるか」

ホテルはアーケードの端にある。ちょっと歩けば屋根付きのアーケードに入るから、とりあえずアーケードまで行ってみることにした。

夏休み中の街中。来た時とは違い、ちょっと落ち着いた目で見てみると……たくさんのカップルも歩いていることに気付く。

「わたし達も……そうやって見られてるのかな……」と、急に思ってしまって、思わず顔が熱くなった。

「何かさ、横浜と似てるな」

アーケードをしばらく歩くと、磯子や横浜で良く見かけるようなチェーン店も目立つ。「熊本と言えば、ラーメンじゃないか?」という翔太を説得して、ハンバーガーを食べることにした。

「……何だよ。せっかく豚骨ラーメンあるのにさ。熊本、有名なんだぜ?」
「どれだけ汗かくのよ……もう十分、汗かいたよ」

冷房の効いた店内で、まだぶつぶつと文句を言う翔太。ハンバーガーを食べながら「可愛いな」と思った。

(小学生の時も……お店には来たこと、無かったな……)

学校から一緒に帰ったり、お互いの家で遊んだり……小学生らしいことはたくさんしてきた。でも、デートのようにお店に2人で行ったりすることは、今回が初めて。

(どう、思ってるんだろ?)

お母さんに声をかけてもらって実現した、熊本旅行。気付けば2人きりでハンバーガーを食べている。翔太は……どう、思っているんだろう?

「熊本城、行ってみようか」
「……熊本城? 近いの?」

「うん。さっき調べてたら、この近くにあるっぽい」
「へぇ。お城か……行ったこと無いよ。横浜には無いもんね」

小学生の頃や中学生の頃の修学旅行でも、お城を見たことは無い。「暑いけどな……」と思いながら、わたしは頷いた。

「でもさ……真帆とこうやってしゃべるの、久し振りだよな」

急に真顔になる翔太。さっきまでお城の話をしていたのに……急にどきっとしてしまった。

「なっ……何よ、いきなり……」
「えっ? そう、思ったから……」

中学生や高校生の笑い声が響く店内。時間が止まったような気がした。音が耳に入ってこない。

(もう……本当、タイミング悪いんだから……)

食べていたハンバーガー。思わず喉に詰まりそうになってしまった。

紙コップに入っている水を、わたしは一気に飲み干した――。