未来へ広がる、中九州の空

ドン、という音。そして激しい揺れで目が覚める。寝ていたことにも気が付かないうちに、阿蘇熊本空港に着陸していた。強烈なブレーキ音と共に、シートベルトに体を預ける。

(ちょっと……)

はっとして、思わず向く。……自然なフリをしながら。

座席は翔太の隣だった。離陸の時は上空に飛び立つ緊張。そして隣にいる翔太。「絶対寝れる訳無い」と思っていたけど……1時間ちょっと、ずっと眠っていたらしい。

「寝顔、見られた……」と思うと、恥ずかしくて翔太に話かけられなかった。

目線だけ翔太に向けてみると、どうやら窓の外をずっと見ている。もしかすると、気を遣ってくれているのかな……と思ったりもする。一言も話かけてくれない。

朝8時に磯子駅を出発して、すでにお昼前になろうとしていた。

速度を落としながら、飛行機はゆっくりと停止した――

――

「暑さ、ヤバいと思うよ」

座席の上から荷物を取り出して、ドアが開くのを待つ間、翔太が眠そうな声でぼそりと言った。

(……寝てた? 翔太も)

話の内容が、全く頭に入ってこない。「もしかして……見られて無かったかも」と、安堵のため息をついた。気付かれないように。

「あっ……だよね、きっと暑いよね」

作ったような笑みを浮かべて、翔太に返す。一人で慌ててしまって、脇の下に少し汗をかいているような気がした。

「きっと、凄いよ。覚悟しといてね」

ドアが開き、前方の人からゆっくりと歩き始めた時に、お母さんが笑いながら言った。

「うわぁ……」

想像以上だった。

まるでサウナにでも入っているかのような……

顔から背中、そして腰回り。体中にまとわりつくような、べとりとした湿気。

まだ飛行機から空港内に向かう通路を歩いているだけなのに……すぐにでもシャワーを浴びたくなった。

「ね、何これ……横浜と全然違くない!?」

前を歩く翔太に声をかけると、歩いているだけなのに、はぁはぁと息をしているのが分かった。

「……うん。これはヤバい」

同じ日本とは思えない。あまりにも湿度が違い過ぎる……今日から2泊。「大丈夫なのかな……」と思いながら、空港からのバスに乗り込んだ――。

――

バスに乗り込んで、後ろの方に座る。翔太の隣に座ろうと腰を下ろすと、ほんのちょっとだけ、腰の部分が翔太に触れる……。ほんの、ちょっとだけ。

呼吸でさえ聞こえてしまいそうな距離。エンジン音がかき消してくれた。

「……懐かしいな」
「そうね。この景色も、暑さもね」

真後ろから、お父さんとお母さんが窓の外を見ながら、懐かしむような声を出した。「磯子に来て、長いから」と言っていた、お母さんの言葉を思い出す。

「暑さ、凄いですよね……」
「でしょ? 8月はもうちょっと暑いんじゃないかな」

後ろを振り向いて、お母さんに話かけると、笑いながら言った。確かに、まだ下旬とはいえ7月。8月の熊本を、想像もしたく無かった。

「この後、どこに行くんですか?」
「中心部にホテルを取ってあるから。『街』って呼んでるよ。みんな」

「『街』、ですか?」
「そうそう。横浜と違ってね、遊ぶ場所が中心部に固まってるから。そう呼ぶんだよ」

懐かしそうにお父さんが教えてくれた。わたしのお母さん達も安心しきっていて、チケットの手配しかしてくれていない。

今日からの予定も何も知らないまま、とりあえず翔太のお母さん達についてきた。

(街か……)

横浜では聞かない響き。

バスを降りた時の暑さを考えると……ちょっとげんなりするけど、熊本で翔太達と色々な所に行ける!と思い、わたしの心は踊っていた。