未来へ広がる、中九州の空

「どうしたの? 帰らないの?」

授業が終わる、午後3時。優香ちゃんはいつもすんなり帰るはずのわたしに、声をかけてくれた。

「……あっ、うん。帰ろうかな」
「どうしたの……? 何かある?」

いぶかし気な表情を浮かべる優香ちゃん。愛想笑いを浮かべながら、楽しそうに健人くんと話をする翔太にちらりと視線を送った。

「あぁ、そういうこと」
「えっ……?」

「なるほど、そういうことか。だから待ってるんだ」

わたしの目線を追った優香ちゃんは、察してくれたような声で頷いた。

「何かさ、私までどきどきするんだけど……」

昇降口で靴を履き替えて、校門までの道を歩く。全てを分かってくれたかのように、優香ちゃんは呟いた。緊張しているのか、わたしは言葉があまり出てこない。

「そういう訳じゃ……無いんだけどな」
「何よ。じゃ、どういう訳なのよ」

50メートルくらい前を楽しそうに歩く、翔太と健人くん。何となく後ろを歩くわたし達に気付いてはいると思うけど……何を思っているんだろう。

別に立ち止まって話かけられる訳でも無い。

「ま、良いよ。何も言わなくて。……分かるからさ」
「……ありがと」

上手くしゃべることができないわたしを気遣ってくれているのか、優香ちゃんは優しく一言だけ言った。

「どの辺にするの」

山手駅の改札口を通って、ホームに出る。翔太達は中央部分を通り過ぎて、先頭車両の方まで歩いていた。

「……どうしよう」
「あんまり近いと、変じゃない? 真ん中ら辺にしとこうか?」

立ち止まる位置で悩むわたしと違って、優香ちゃんはあれこれ考えてくれているらしかった。人気の少ない、山手駅下りホーム。真ん中より少しだけ先頭よりで電車を待つことに決めた。

「優香ちゃん、頼もしいな……わたし1人だったら、どうしてたんだろ」
「何言ってんのよ。そんなんで九州行って、どうするのよ」

お昼休みに九州への旅行のことを伝えた時の……優香ちゃんの瞳。たぶん忘れることは無いと思う。一瞬大きく見開いたかと思えば……すぐに「おめでとう!」と大きな声を上げた。お陰で、お昼休み教室中の視線を、一点に浴びることになってしまい、わたしは背中を丸めた。

「何とかなるかなって……翔太のお母さん達もいるから」
「そうだけどさ。でも翔太くんとしゃべる時だって、あるでしょうよ」

根岸駅を出発した電車は、徐々に速度を上げて……ホームを通り過ぎる。

「あっ……健人くん……」

もの凄い勢いで、電車は根岸駅のホームを歩く健人くんを置き去りにした。

(健人くん、根岸で降りるんだ……)

先頭車両の方には、翔太が1人で乗っている。「磯子駅で降りたら、どうしよう」優香ちゃんと別れた後の、磯子駅での行動を、1人頭の中でぼんやりと考えた。