目まぐるしい日々。講義と配信の両立は思ったより大変で、僕はあんまり返信も返せずにいるけれど、『返信できてないけど届いたコメントはできるだけ読んでるよ』と投稿すると、『忙しい中で配信してくれてるだけでも本当にありがたいよ』『気にしないで』と、優しいコメントで埋め尽くされる。
「陽はすごいよ。ほとんど全部のコメントに返信してない?」
「まあ、ね。講義中とかもスマホいじりっぱなしになったりしちゃうこともあるけど。俺からしたら毎回ちゃんとノートとってる優輝の方がすごい!」
僕のノートを写しながら、陽がさらりと褒めてくれる。自分のためにとっているノートが人の役に立って、しかもこんな風に言ってもらえるのは、悪くない気分だ。
つい最近まで、大学は退屈でいっぱいだったのに、最近は何かあればそのことをリスナーに共有したくなるおかげで、小さな幸せに気づけるようになった。先生がギャグを言ってクスリと笑えたとか、そういうことを、大切に心に留めるようになったのだ。
そしてもう一つ変わったことといえば、陽とたくさん話すようになった。それこそ、距離を感じていたのが嘘みたいに。
「そんなに褒めても、かぶってない講義のノートまではとってあげられないからね」
そこまで求めてねーよ、と笑いながらノートを返してくれる。
「てか今日、予定とかある?」
「陽と配信するかなって」
「お、もう予定にしてくれてるんだ」
昼までしか講義のない毎週水曜は、ヨウとユウキのコラボ配信をするようになった。陽のリスナーさんは優しく受け入れてくれるし、僕の個人配信に来るようになってくれたリスナーさん達も、結構見にきてくれる。僕たちの共通リスナーの中では、コラボ配信はちょっとした人気コンテンツになっていた。
陽と一緒にいるのが楽しいからね、なんて言うのは照れくさいので、「まあ、リスナーさんも喜んでくれるし」とかぶっきらぼうに言い放つ。けれどそんな照れ隠しを見透かすみたいに、陽はにこにこ笑うのだった。
「じゃ、そろそろ俺の家行こうぜ!」
「その前にスーパーね」
毎週水曜は陽の定時配信の代わりにコラボ配信をすることになったので、自然と、配信前に早めの夕ご飯を作って食べることになっていた。簡単な料理を毎週交代で作って、それを食べながら作戦会議をする。配信も楽しくて大好きだけど、その時間もとっても大好きだった。
今日は麻婆豆腐を作った。濃いめの味でご飯が進む中でも、陽は不思議なくらい口数が減らなかった。
「それでさ、今日はこのサイトで性格診断をやってみようかなって」
最近よくバズっている性格診断サイトだった。相性診断とかもあるので、二人でやるのにはぴったりだし、リスナーに同じ結果の人や相性いい結果の人がいたら盛り上がるだろう、なんて計画みたいだ。
「僕と陽、正反対だけど」
「そうか?……まぁ、だから面白いってとこもあるし!」
陽がそう言うなら、特にやりたいことがあるわけでもないし今日はそれでいいか、と頭では思うのだが、心では、相性最悪だったらどうしよう、とか考えてしまう。
「さ、先にやってみない?」
「なんでだよ!?配信で一緒にやろうぜ〜?」
言いくるめられる。なんだか胸とお腹がいっぱいな気がしながらも、どうにかご飯を口に押し込む。
「ごちそうさまでした!じゃ、俺マイクとかチェックしてくるから」
少し早く食べ終わって、あーあーとマイクに声をかける陽を見ながら、相性が悪くたって今仲良いのは事実なんだから!と自分に言い聞かせながら完食する。
「よし、マイクオッケー」
少し汗ばむ手をズボンに擦り付けながら、いつもの位置に座る。
「じゃ、配信開始!」
こっちの心境なんて知ったこっちゃないとばかりに、無機質なクリック音が鳴る。
「なんでそんな緊張してんの?」
「え、えっと、性格診断とか、初めてで」
「そんなことで……ははは!」
大笑いする陽に、『ヨウくんなにツボってんの?』みたいなコメントが届き始める。ひとしきり笑い終えて息を整え、陽は画面に向き直った。
「はい、えー、昼でも夜でもおっはヨウ!今日もユウキとコラボ配信していきま〜す!」
「ユウキです、おっはヨウ」
コラボの時は陽の挨拶を真似るのだが、たまにうっかり自分の配信でもおっはヨウって言ってしまってからかわれることがある。とても恥ずかしい。ちなみに、自分の配信の挨拶なんて全く考えていなかったので、リスナーさんに「こんユウキ」に決めてもらった。自分で考えている陽はすごいなと、その時改めて思ったのだった。
「いや聞いてよ、今日ね、この流行りの性格診断サイトをやっていこうと思ってるんだけど」
『あー、流行ってるよねそれ』
『私もやったことある!』
「そうそう。なんだけど、ユウキがこういうの初めてらしくて緊張してるらしいの!みんなお手柔らかにな〜」
『そうなの笑笑 ユウキくん可愛い笑笑』
『がんばれー!』
それだけじゃないんだけど、本当の理由を言えば余計にからかわれるどころか気持ち悪がられてしまうかもしれないので、「ありがとう、頑張るね」と笑って返した。
「それじゃ、早速やっていくよ!第一問!」
「第一問って!クイズじゃないんだから」
『ウケるw 今日も息ぴったりで最高』
じゃあなんて言うんだよー、と膨れる陽をよそに、コメント欄は盛り上がっていく。こういう二人の何気ない会話をなぜかいつも喜んでもらえる。仲がいい証明みたいで、悪い気はしない、んだけれど。……どうしよう、これで、相性悪かったら……。問を答えていくにつれ、だんだんと、陽ならこう答えるかなとか、自分のこういうところ良くないと思ってるからとか、そういう邪念が混ざり始める。いかんいかんと自分を律しながら、不安でいっぱいになりながら『結果を見る』ボタンを押した。
「えーと、ユウキは〜」
陽が覗き込んできて、咄嗟に画面を隠してしまう。なんだよ、と不満げな陽に、『ユウキくん初めてだから』『ゆっくりでいいからね〜』とリスナーさん達がフォローを入れてくれる。
「ご、ごめんね、みんな。ヨウも、ごめん」
「そんなに緊張することかぁ?じゃあ先に、俺はね、このタイプでした〜!」
リスナーに意気揚々と結果画面を見せる陽。その画面を必死に目で追う。相性のいいタイプに僕のタイプが入っていてくれ、と祈りながら。
「相性がいいのは、コレとコレだって。どう?リスナーのみんな、俺と相性良かった?」
『あんまり良くないかも』
『ヨウ君と同じタイプだったよ!』
『ヨウ〜!相性ぴったりだって〜!!』
……良かった、相性いいタイプには入ってなかったけど、調べたら悪くないみたい。
ほっとして少し気が緩んだ瞬間、陽に画面を覗かれてしまった。
「あれ、俺のタイプとユウキのタイプの相性検索してる?」
「え、あ、これは」
急いで自分の結果画面に戻したけど、もう遅い。
「もしかしてユウキ、それで緊張してたの!?」
『待って可愛すぎる』
『結局なにタイプだったの?』
陽にもリスナーさんにもバレてしまって、焦って言い訳をする。
「ち、違うよ!配信的に僕らの相性が気になるかなって思っただけ!あ、コレ、僕のタイプね!」
『ユウキくんと一緒だ〜』みたいなコメントに紛れて、『早口すぎw 絶対ヨウとの相性気にしてたじゃんw』みたいなコメントも来ている。
「なんだよ、可愛いやつ〜」
陽は僕の言い分を聞き入れてくれたのかくれていないのか、どちらとも言えないリアクションをしながらケラケラ笑った。
「みんなとの相性も分かって楽しいな!」
ほとんどのリスナーさんが陽に賛同している中で、一つ、『どうしよう、ヨウくんのこと大好きなのに、相性最悪だった』というコメントを見つけて、胸がキュッとなった。それは僕が恐れていたことであり、辛さも苦しさも多少想像がついてしまったから。
陽もそのコメントを見たのか、それともさっきの僕に用意した言葉だったのか、分からないけれど、
「でも、相性が良くても悪くても、お互いを思いやっていれば、絶対いい友達になれると思うんだよ」
と、真面目な顔で。そのまま、コメントを拾わずに続けた。
「俺とユウキもめっちゃ相性いいってわけじゃないけど、俺、ユウキのこと、なんつーか、一番の友達だと思ってるんだよね」
一番の友達。一緒にいる時間からしたら確かに最近は一番そばにいたとは思うけれど、いざ言葉にされるとなんとも恥ずかしい。
「だからさ、そんなに気にしないでってこと!逆にめっちゃ相性良くても、お互い自分勝手やってたら衝突しちゃうと思う」
『いいこと言う〜!』
『相性は最高だったけど、これからも気遣いを忘れずコメントします!』
『やっぱヨウくん推してて良かった』
なにやっても陽には敵わないなって、そんなことを思い知らされながら、僕も言葉を絞り出した。
「この診断、自分の得意なことと苦手なことも分かるから、苦手なところを努力でカバーできれば、いろんな人と友達になれるのかなって、思ったりもして。だから、その……み、みんな僕と一緒に頑張ろうね」
『友達百人目指します!』
『謙虚なユウキ君の友達は幸せだろうな』
と、なんとかいい雰囲気に持っていって、その後結果について色々話して、配信を終えた。「お疲れ〜」と言い合いながら、今日もありがとうございました、という旨の投稿をするべくSNSを開くと、通知がものすごく溜まっていた。
「あちゃー、今日そういえばご飯作る前からSNS見てなかったから通知が──」
「優輝!バズってる!」
大声で遮られて、再度通知欄に目を移すと、確かに、ご飯前ではなく配信中の通知がかなり多かった。フォロワーもすごく増えていた。
「これ見て!」
陽に見せられた投稿には、『神対応!不安なリスナーに励ましの言葉』という文言とともに、さっきの配信の切り抜きが載せられていた。『こんなこと言ってもらえたらもう相性なんて関係ない♡素敵!』『まだ学生らしいのに達観してるな』みたいなコメントがたくさん寄せられていた。投稿主が僕たちのアカウントをメンションしてくれて、そこから通知がたくさん来ていたみたいだった。
「やった、やった!優輝のおかげだよ!」
ポカンとしてしまった。だって、不安になってるリスナーさんに最初に即座に声をかけたのは陽で、僕は乗っかっただけだったから。
「陽がまっすぐリスナーさんに向き合った結果だよ。僕はただ……」
「いや、違くて!優輝が俺らの相性調べてる時に思ったことなんだ。相性なんて関係なくて、お互いリスペクトし合うことが一番大事なんだな、みたいな」
だから優輝のおかげ、と陽は続けた。なんとなく、一番の友達、という言葉が蘇ってきて頬が熱くなる。
「と、とにかく。たくさんの人に見てもらえて、嬉しいね」
なんて誤魔化すと、陽は本当にな!と言いながらスマホをすごい速さでフリックしていた。自分のところに来ているコメントへの返信だけじゃなくて、バズってる投稿にもコメントを残して、投稿主にお礼のDMを送っていた。
やっぱり、バズったのは僕のおかげなんかじゃなくて陽の実力だよ、と思った。陽がまっすぐ向き合うから、リスナーさんもまっすぐ応えたくなるんだ。それがあの発言になって、切り抜きをしようという気持ちに繋がったんだ。『この子もすごくいいこと言ってるね』と、僕の方にもたくさんコメントが来ていて、普段はあまりコメントを返せないけど、今日は気合を入れて一個一個返した。
陽の隣にいて、恥ずかしくない配信者にならなきゃ!そんな決意がみなぎって、明日はソロ配信、どんなことやろうかな、なんて考えて帰路についた。
「……き!優輝!終わったぞ!」
あのバズった配信の翌々日。気合を入れすぎて昨夜のソロ配信をかなり長時間やったせいで、僕はすっかり寝不足だった。僕のノートが陽の手元にあって、どうやら代わりに書いていてくれたみたいだ。
「ごめん、ありがとう」
「いいっていいって!いつも写させてもらってるし……でも、優輝みたいに上手くまとめられてるか分かんねえけど」
陽はそんな風に謙遜するけど、ぱっと目を通した感じ、しっかりまとまっているように見える。うたた寝をしていて講義を受けていなかった僕でも、なんとなく話の流れが分かるくらいだ。もう一度お礼を言うと、「それより学食行こうぜ、混むし」と流されてしまった。
日替わり定食を注文し、混み合う学食で空席を探す。カウンターのような机に二つ並んで席が空いていたので、隣に座って食べることにした。
「金曜午後は講義違うから、しっかり起きて聞けよな」
お昼ご飯後は特に眠くなることが予想できるので、気をつけなきゃなと思いながら頷く。
「優輝って、眠たい時の声可愛いよな」
「……は?」
口の中にものが入っていたら吹き出してしまったかもしれない。それくらい衝撃的な言葉を突然かけられた。
「マジで!俺キュンとしちゃったもん」
「なに、急に」
「だからさ、夜中の寝落ち推奨配信とかしたら伸びそう〜って思った。でも、優輝が寝不足になっちゃうよな〜」
な、なんだ、びっくりした、配信の話か。
「陽まで僕のこと可愛いって言い出すのかと思った」
「まで?」
「僕のリスナーさん。みんな僕のこと可愛い可愛いって言うから……」
「いや可愛いよ優輝は。気持ち分かるもん。からかいたくなっちゃうっていうかさ」
お前はからかいたいだけだろ!と心の中でツッコミを入れる。でも言ったところでいやいやマジだって、とか言われて堂々巡りになることが分かっているので、お茶と一緒に飲み込んだ。けれどそうして黙っていたら、「照れてんの?」とまたからかわれる。違うっつの。
「くだらないこと言ってないで、早く食べないと昼休み終わるよ」
「え、もうこんな時間!?やべ、急がないと!」
かくいう僕もまだ食べ終わっていないので、陽ほどではないが急いでご飯をかき込む。味噌汁を飲み干しても陽がまだ食べていたけれど、あんなことを言われた驚きで次の話題が思いつかなくて、「先行くね」と言い残して食器を片付け、講義室へと向かった。
大学が始まったばかりの頃は、一日の終わりの講義が一緒じゃなければわざわざ一緒に帰ることもなかったのだが、コラボ配信をするようになってからは、待ち合わせをして一緒に帰るようになった。
「優輝、見てこれ!」
帰り道、陽が見せてきたのは一通のDMだった。突然のDM失礼します、から始まる堅苦しいDM。
「なにこれ、知ってる人?」
「知ってるっていうか、有名配信者!」
言われてアカウント名を見る。けれど僕は配信者には詳しくないので、そのチヒロという名前を見ても特にピンとは来なかった。
DMを読んでいくと、内容はコラボをしないかという誘いだった。
「チヒロの方から声をかけてもらえるとか、アツくね〜!?」
いくら先日バズったからといって、僕たちのフォロワー数は、二人合わせてもチヒロに届かないくらいだった。そんな人からわざわざ誘いが来るなんて、おかしい。バズってるから一度だけコラボして売名する、みたいな目的とか?
「あんまりいい気はしないな」
僕の発言が本当に想定外だった様子で、陽は「え?」と目を見開いた。
「いや、フォロワー数が違いすぎて、何か裏があるんじゃないかって思っちゃって」
「ああ、そういうこと。大丈夫、チヒロはそんな人じゃねえって!」
話したこともないのにやけに信頼しているなと思ったら、どうやら受験期に見ていた配信者の一人だったらしい。
「それに裏があるとしても、チヒロとコラボしたらたくさんの人に見てもらえるし、伸びること間違いなし!」
「ふーん」
自分でもびっくりするくらい冷たい返事をしてしまった。理由の分からないモヤモヤが胸を支配していて、上手く笑えない。
「早速今日予定が合えばコラボしましょうってことだったから、俺今夜、チヒロと……!くぅ〜、緊張してきた〜っ!」
そんな僕の様子の変化にも気がつかないくらい、陽は浮かれていた。そのことにも、余計にモヤモヤが湧いてきて、「今日買い物してから帰りたいから」と言い訳をして、別々に帰ることにした。
家に帰り、なんとなくチヒロのアカウントを開いた。やっぱり僕たちとは桁の違うフォロワー数、何度見てもすごいなと思う。
最新の投稿で、僕たちのやっていた性格診断サイトの結果を投稿していた。『流行ってるやつ、やってみたよ!』と載せられた結果は、陽と最高の相性とされるタイプで、なんとなく不快感を覚える。
なんだよこいつ、あのバズった投稿を見て陽に声をかけたんじゃないの?相性がいいから陽に声かけたってわけ?陽の話なんにも聞いてないじゃん。大体、コラボでバズったのに僕に声をかけてこないのもいやな感じだし……
そうこう心の中で毒づいているうち、チヒロのSNSが更新された。……そういえば、今夜だって言ってたな。
配信を見に行くと、チヒロは「気になってる配信者クンに声をかけてみたよ〜!ゲリラで初コラボ!」とテンション高く語っていた。陽はいつもより緊張した様子で、「ど、どうも」とぎこちなく頭を下げていた。
なんだよ、絶対僕とやった方が楽しいのに。なんで……
「てかさ、チヒロ、あの性格診断やったよ〜!陽くんと相性最高だった!てことで、今日も盛り上げていこ〜!」
その発言でリスナーたちも『あ、あの性格診断でバズってた子!?』と気づいて、盛り上げ始める。
やっぱりこいつ陽の話全然聞いてない。相性なんて関係なく、お互いにリスペクトを……と、頭の中で陽の言葉を反芻していた。それなのに当の本人は「マジ!?相性最高とか光栄っす!」なんて嬉しそうにしていて、胸がちくりと痛んだ。なんだよ、なんで陽まで。
画面の向こうで陽が笑っているのを見て、どうしてモヤモヤしてしまうんだろう。
チヒロが何を話しているのかは、正直よく分からなかった。分からないから配信を閉じればいいのに、なぜかずっと配信を聞いていて、目は勝手にコメント欄を追ってしまって。
『あのサイトの言う通り相性最高だよ!』
『この二人のコラボ配信また見たいな』
僕とのコラボの時、こんなこと言われてたっけ?僕とのコラボの時、陽ってこんな風に笑ってたっけ?
そんな疑問がふつふつ湧いてきて、自分のこと最低だ、って思う。陽が楽しそうにしていて、それが一番いいことのはずなのに、どうしてこんなことばっかり考えてしまうんだろう。
そうしてもやもやしているうち、配信は終わってしまって、ろくに聞いていなかった。しかし案の定陽はコメントで『今日緊張してたね』とかたくさん言われていた。
突然スマホが震えた。陽からの着信だった。
「もしもし、どうしたの?あ、配信お疲れ様」
『ありがとう!いや、優輝、今日さっきちょっと、なんていうか……様子おかしかったから、心配で』
気づいてもいないと思っていた僕の様子の変化に、陽は気づいていた。とはいえ僕自身、どうしてこんなにもやもやするのか分からなくて、うまく答えられない。
「ごめん、実は、ちょっと体調悪くて」
『マジ!?土日でしっかり治せよ〜。今日も無理せず配信休むなら休むんだぞ!それじゃ、おやすみ』
ぷつんと電話が切れる。なんだよ、一方的に言いたいことばっか言って切りやがって。って思うのに、陽と話したら、なぜかもやもやが軽くなっているのを感じた。
陽が他の人とコラボするなんて言うからモヤモヤしたのか?でも、配信終わってすぐ陽が僕に電話かけてきてくれて、気遣ってくれたからマシになった?
そういえば、昔からいつもそうだった。帰り道、特に話すことがなくても、なんとなく一緒に歩いていた。
陽はスマホをいじっていて、僕はそれを横目で見てたり。それでも、同じ方向に歩いているだけで、僕は勝手に安心していた。「また明日な」の一言で、ちゃんと横にいられている気がしていたんだ。
そうか、僕は……自分が陽の相棒だって、そう思ってたんだ。
陽が僕をどう思っているかは分からない。もしかしたら、相棒だって思ってたのは僕だけだったのかもしれない。なのに勝手に期待して、勝手に嫉妬して、勝手に苦しくなってたんだ。
チヒロに心の中とはいえひどいことを言ってしまったことを反省する。陽もチヒロも何も悪くないのに、一人でこんなにぐるぐる考えて……もう、僕のバカ!
陽に気遣ってもらった手前少し気まずいけど、体調は別に悪くないので今夜も配信をつけることにした。それにその方が、余計なこと考えずに済むから。
配信をつけ、「みんなこんユウキ〜」と声をかけると、『こんユウキ〜』『今日も配信ありがとう』と返ってくる。
みんなのおかげで少しずつ気持ちが明るくなってきて、ぽろっと今日の昼のことを口にしてしまった。
「そういえば今日、昨日の配信長かったから寝不足で……それでさ、眠そうな時の声可愛いってヨウに言われたんだよね」
『え〜!?ラブラブじゃん〜!』
『私たちにもその声聞かせて♡』
陽の隣にふさわしくなるために、もっと配信頑張らなきゃ!僕は笑顔をつくって、リスナーさんに語りかける。
「じゃあ明日は土曜日だし、みんなで夜更かししちゃお。それで可愛いかみんなにジャッジしてもらう」
『す、既にその発言が可愛いんだが……!?』
そんなこんなで今日も夜更かしが確定した。その日の配信はすごく盛り上がって、気づいたら朝まで配信していた。
自分のもやもやの正体が分かってすっきりしたと思ったのに、結局まだ消えきらないもやもやがあった。でも、嫉妬だけじゃないのかな、なんて考える余裕もなくて、配信来てくれてありがとうのSNS投稿をする前に、寝落ちしてしまった。
それでまさか、あんなことになるなんて、思いもせずに。
「陽はすごいよ。ほとんど全部のコメントに返信してない?」
「まあ、ね。講義中とかもスマホいじりっぱなしになったりしちゃうこともあるけど。俺からしたら毎回ちゃんとノートとってる優輝の方がすごい!」
僕のノートを写しながら、陽がさらりと褒めてくれる。自分のためにとっているノートが人の役に立って、しかもこんな風に言ってもらえるのは、悪くない気分だ。
つい最近まで、大学は退屈でいっぱいだったのに、最近は何かあればそのことをリスナーに共有したくなるおかげで、小さな幸せに気づけるようになった。先生がギャグを言ってクスリと笑えたとか、そういうことを、大切に心に留めるようになったのだ。
そしてもう一つ変わったことといえば、陽とたくさん話すようになった。それこそ、距離を感じていたのが嘘みたいに。
「そんなに褒めても、かぶってない講義のノートまではとってあげられないからね」
そこまで求めてねーよ、と笑いながらノートを返してくれる。
「てか今日、予定とかある?」
「陽と配信するかなって」
「お、もう予定にしてくれてるんだ」
昼までしか講義のない毎週水曜は、ヨウとユウキのコラボ配信をするようになった。陽のリスナーさんは優しく受け入れてくれるし、僕の個人配信に来るようになってくれたリスナーさん達も、結構見にきてくれる。僕たちの共通リスナーの中では、コラボ配信はちょっとした人気コンテンツになっていた。
陽と一緒にいるのが楽しいからね、なんて言うのは照れくさいので、「まあ、リスナーさんも喜んでくれるし」とかぶっきらぼうに言い放つ。けれどそんな照れ隠しを見透かすみたいに、陽はにこにこ笑うのだった。
「じゃ、そろそろ俺の家行こうぜ!」
「その前にスーパーね」
毎週水曜は陽の定時配信の代わりにコラボ配信をすることになったので、自然と、配信前に早めの夕ご飯を作って食べることになっていた。簡単な料理を毎週交代で作って、それを食べながら作戦会議をする。配信も楽しくて大好きだけど、その時間もとっても大好きだった。
今日は麻婆豆腐を作った。濃いめの味でご飯が進む中でも、陽は不思議なくらい口数が減らなかった。
「それでさ、今日はこのサイトで性格診断をやってみようかなって」
最近よくバズっている性格診断サイトだった。相性診断とかもあるので、二人でやるのにはぴったりだし、リスナーに同じ結果の人や相性いい結果の人がいたら盛り上がるだろう、なんて計画みたいだ。
「僕と陽、正反対だけど」
「そうか?……まぁ、だから面白いってとこもあるし!」
陽がそう言うなら、特にやりたいことがあるわけでもないし今日はそれでいいか、と頭では思うのだが、心では、相性最悪だったらどうしよう、とか考えてしまう。
「さ、先にやってみない?」
「なんでだよ!?配信で一緒にやろうぜ〜?」
言いくるめられる。なんだか胸とお腹がいっぱいな気がしながらも、どうにかご飯を口に押し込む。
「ごちそうさまでした!じゃ、俺マイクとかチェックしてくるから」
少し早く食べ終わって、あーあーとマイクに声をかける陽を見ながら、相性が悪くたって今仲良いのは事実なんだから!と自分に言い聞かせながら完食する。
「よし、マイクオッケー」
少し汗ばむ手をズボンに擦り付けながら、いつもの位置に座る。
「じゃ、配信開始!」
こっちの心境なんて知ったこっちゃないとばかりに、無機質なクリック音が鳴る。
「なんでそんな緊張してんの?」
「え、えっと、性格診断とか、初めてで」
「そんなことで……ははは!」
大笑いする陽に、『ヨウくんなにツボってんの?』みたいなコメントが届き始める。ひとしきり笑い終えて息を整え、陽は画面に向き直った。
「はい、えー、昼でも夜でもおっはヨウ!今日もユウキとコラボ配信していきま〜す!」
「ユウキです、おっはヨウ」
コラボの時は陽の挨拶を真似るのだが、たまにうっかり自分の配信でもおっはヨウって言ってしまってからかわれることがある。とても恥ずかしい。ちなみに、自分の配信の挨拶なんて全く考えていなかったので、リスナーさんに「こんユウキ」に決めてもらった。自分で考えている陽はすごいなと、その時改めて思ったのだった。
「いや聞いてよ、今日ね、この流行りの性格診断サイトをやっていこうと思ってるんだけど」
『あー、流行ってるよねそれ』
『私もやったことある!』
「そうそう。なんだけど、ユウキがこういうの初めてらしくて緊張してるらしいの!みんなお手柔らかにな〜」
『そうなの笑笑 ユウキくん可愛い笑笑』
『がんばれー!』
それだけじゃないんだけど、本当の理由を言えば余計にからかわれるどころか気持ち悪がられてしまうかもしれないので、「ありがとう、頑張るね」と笑って返した。
「それじゃ、早速やっていくよ!第一問!」
「第一問って!クイズじゃないんだから」
『ウケるw 今日も息ぴったりで最高』
じゃあなんて言うんだよー、と膨れる陽をよそに、コメント欄は盛り上がっていく。こういう二人の何気ない会話をなぜかいつも喜んでもらえる。仲がいい証明みたいで、悪い気はしない、んだけれど。……どうしよう、これで、相性悪かったら……。問を答えていくにつれ、だんだんと、陽ならこう答えるかなとか、自分のこういうところ良くないと思ってるからとか、そういう邪念が混ざり始める。いかんいかんと自分を律しながら、不安でいっぱいになりながら『結果を見る』ボタンを押した。
「えーと、ユウキは〜」
陽が覗き込んできて、咄嗟に画面を隠してしまう。なんだよ、と不満げな陽に、『ユウキくん初めてだから』『ゆっくりでいいからね〜』とリスナーさん達がフォローを入れてくれる。
「ご、ごめんね、みんな。ヨウも、ごめん」
「そんなに緊張することかぁ?じゃあ先に、俺はね、このタイプでした〜!」
リスナーに意気揚々と結果画面を見せる陽。その画面を必死に目で追う。相性のいいタイプに僕のタイプが入っていてくれ、と祈りながら。
「相性がいいのは、コレとコレだって。どう?リスナーのみんな、俺と相性良かった?」
『あんまり良くないかも』
『ヨウ君と同じタイプだったよ!』
『ヨウ〜!相性ぴったりだって〜!!』
……良かった、相性いいタイプには入ってなかったけど、調べたら悪くないみたい。
ほっとして少し気が緩んだ瞬間、陽に画面を覗かれてしまった。
「あれ、俺のタイプとユウキのタイプの相性検索してる?」
「え、あ、これは」
急いで自分の結果画面に戻したけど、もう遅い。
「もしかしてユウキ、それで緊張してたの!?」
『待って可愛すぎる』
『結局なにタイプだったの?』
陽にもリスナーさんにもバレてしまって、焦って言い訳をする。
「ち、違うよ!配信的に僕らの相性が気になるかなって思っただけ!あ、コレ、僕のタイプね!」
『ユウキくんと一緒だ〜』みたいなコメントに紛れて、『早口すぎw 絶対ヨウとの相性気にしてたじゃんw』みたいなコメントも来ている。
「なんだよ、可愛いやつ〜」
陽は僕の言い分を聞き入れてくれたのかくれていないのか、どちらとも言えないリアクションをしながらケラケラ笑った。
「みんなとの相性も分かって楽しいな!」
ほとんどのリスナーさんが陽に賛同している中で、一つ、『どうしよう、ヨウくんのこと大好きなのに、相性最悪だった』というコメントを見つけて、胸がキュッとなった。それは僕が恐れていたことであり、辛さも苦しさも多少想像がついてしまったから。
陽もそのコメントを見たのか、それともさっきの僕に用意した言葉だったのか、分からないけれど、
「でも、相性が良くても悪くても、お互いを思いやっていれば、絶対いい友達になれると思うんだよ」
と、真面目な顔で。そのまま、コメントを拾わずに続けた。
「俺とユウキもめっちゃ相性いいってわけじゃないけど、俺、ユウキのこと、なんつーか、一番の友達だと思ってるんだよね」
一番の友達。一緒にいる時間からしたら確かに最近は一番そばにいたとは思うけれど、いざ言葉にされるとなんとも恥ずかしい。
「だからさ、そんなに気にしないでってこと!逆にめっちゃ相性良くても、お互い自分勝手やってたら衝突しちゃうと思う」
『いいこと言う〜!』
『相性は最高だったけど、これからも気遣いを忘れずコメントします!』
『やっぱヨウくん推してて良かった』
なにやっても陽には敵わないなって、そんなことを思い知らされながら、僕も言葉を絞り出した。
「この診断、自分の得意なことと苦手なことも分かるから、苦手なところを努力でカバーできれば、いろんな人と友達になれるのかなって、思ったりもして。だから、その……み、みんな僕と一緒に頑張ろうね」
『友達百人目指します!』
『謙虚なユウキ君の友達は幸せだろうな』
と、なんとかいい雰囲気に持っていって、その後結果について色々話して、配信を終えた。「お疲れ〜」と言い合いながら、今日もありがとうございました、という旨の投稿をするべくSNSを開くと、通知がものすごく溜まっていた。
「あちゃー、今日そういえばご飯作る前からSNS見てなかったから通知が──」
「優輝!バズってる!」
大声で遮られて、再度通知欄に目を移すと、確かに、ご飯前ではなく配信中の通知がかなり多かった。フォロワーもすごく増えていた。
「これ見て!」
陽に見せられた投稿には、『神対応!不安なリスナーに励ましの言葉』という文言とともに、さっきの配信の切り抜きが載せられていた。『こんなこと言ってもらえたらもう相性なんて関係ない♡素敵!』『まだ学生らしいのに達観してるな』みたいなコメントがたくさん寄せられていた。投稿主が僕たちのアカウントをメンションしてくれて、そこから通知がたくさん来ていたみたいだった。
「やった、やった!優輝のおかげだよ!」
ポカンとしてしまった。だって、不安になってるリスナーさんに最初に即座に声をかけたのは陽で、僕は乗っかっただけだったから。
「陽がまっすぐリスナーさんに向き合った結果だよ。僕はただ……」
「いや、違くて!優輝が俺らの相性調べてる時に思ったことなんだ。相性なんて関係なくて、お互いリスペクトし合うことが一番大事なんだな、みたいな」
だから優輝のおかげ、と陽は続けた。なんとなく、一番の友達、という言葉が蘇ってきて頬が熱くなる。
「と、とにかく。たくさんの人に見てもらえて、嬉しいね」
なんて誤魔化すと、陽は本当にな!と言いながらスマホをすごい速さでフリックしていた。自分のところに来ているコメントへの返信だけじゃなくて、バズってる投稿にもコメントを残して、投稿主にお礼のDMを送っていた。
やっぱり、バズったのは僕のおかげなんかじゃなくて陽の実力だよ、と思った。陽がまっすぐ向き合うから、リスナーさんもまっすぐ応えたくなるんだ。それがあの発言になって、切り抜きをしようという気持ちに繋がったんだ。『この子もすごくいいこと言ってるね』と、僕の方にもたくさんコメントが来ていて、普段はあまりコメントを返せないけど、今日は気合を入れて一個一個返した。
陽の隣にいて、恥ずかしくない配信者にならなきゃ!そんな決意がみなぎって、明日はソロ配信、どんなことやろうかな、なんて考えて帰路についた。
「……き!優輝!終わったぞ!」
あのバズった配信の翌々日。気合を入れすぎて昨夜のソロ配信をかなり長時間やったせいで、僕はすっかり寝不足だった。僕のノートが陽の手元にあって、どうやら代わりに書いていてくれたみたいだ。
「ごめん、ありがとう」
「いいっていいって!いつも写させてもらってるし……でも、優輝みたいに上手くまとめられてるか分かんねえけど」
陽はそんな風に謙遜するけど、ぱっと目を通した感じ、しっかりまとまっているように見える。うたた寝をしていて講義を受けていなかった僕でも、なんとなく話の流れが分かるくらいだ。もう一度お礼を言うと、「それより学食行こうぜ、混むし」と流されてしまった。
日替わり定食を注文し、混み合う学食で空席を探す。カウンターのような机に二つ並んで席が空いていたので、隣に座って食べることにした。
「金曜午後は講義違うから、しっかり起きて聞けよな」
お昼ご飯後は特に眠くなることが予想できるので、気をつけなきゃなと思いながら頷く。
「優輝って、眠たい時の声可愛いよな」
「……は?」
口の中にものが入っていたら吹き出してしまったかもしれない。それくらい衝撃的な言葉を突然かけられた。
「マジで!俺キュンとしちゃったもん」
「なに、急に」
「だからさ、夜中の寝落ち推奨配信とかしたら伸びそう〜って思った。でも、優輝が寝不足になっちゃうよな〜」
な、なんだ、びっくりした、配信の話か。
「陽まで僕のこと可愛いって言い出すのかと思った」
「まで?」
「僕のリスナーさん。みんな僕のこと可愛い可愛いって言うから……」
「いや可愛いよ優輝は。気持ち分かるもん。からかいたくなっちゃうっていうかさ」
お前はからかいたいだけだろ!と心の中でツッコミを入れる。でも言ったところでいやいやマジだって、とか言われて堂々巡りになることが分かっているので、お茶と一緒に飲み込んだ。けれどそうして黙っていたら、「照れてんの?」とまたからかわれる。違うっつの。
「くだらないこと言ってないで、早く食べないと昼休み終わるよ」
「え、もうこんな時間!?やべ、急がないと!」
かくいう僕もまだ食べ終わっていないので、陽ほどではないが急いでご飯をかき込む。味噌汁を飲み干しても陽がまだ食べていたけれど、あんなことを言われた驚きで次の話題が思いつかなくて、「先行くね」と言い残して食器を片付け、講義室へと向かった。
大学が始まったばかりの頃は、一日の終わりの講義が一緒じゃなければわざわざ一緒に帰ることもなかったのだが、コラボ配信をするようになってからは、待ち合わせをして一緒に帰るようになった。
「優輝、見てこれ!」
帰り道、陽が見せてきたのは一通のDMだった。突然のDM失礼します、から始まる堅苦しいDM。
「なにこれ、知ってる人?」
「知ってるっていうか、有名配信者!」
言われてアカウント名を見る。けれど僕は配信者には詳しくないので、そのチヒロという名前を見ても特にピンとは来なかった。
DMを読んでいくと、内容はコラボをしないかという誘いだった。
「チヒロの方から声をかけてもらえるとか、アツくね〜!?」
いくら先日バズったからといって、僕たちのフォロワー数は、二人合わせてもチヒロに届かないくらいだった。そんな人からわざわざ誘いが来るなんて、おかしい。バズってるから一度だけコラボして売名する、みたいな目的とか?
「あんまりいい気はしないな」
僕の発言が本当に想定外だった様子で、陽は「え?」と目を見開いた。
「いや、フォロワー数が違いすぎて、何か裏があるんじゃないかって思っちゃって」
「ああ、そういうこと。大丈夫、チヒロはそんな人じゃねえって!」
話したこともないのにやけに信頼しているなと思ったら、どうやら受験期に見ていた配信者の一人だったらしい。
「それに裏があるとしても、チヒロとコラボしたらたくさんの人に見てもらえるし、伸びること間違いなし!」
「ふーん」
自分でもびっくりするくらい冷たい返事をしてしまった。理由の分からないモヤモヤが胸を支配していて、上手く笑えない。
「早速今日予定が合えばコラボしましょうってことだったから、俺今夜、チヒロと……!くぅ〜、緊張してきた〜っ!」
そんな僕の様子の変化にも気がつかないくらい、陽は浮かれていた。そのことにも、余計にモヤモヤが湧いてきて、「今日買い物してから帰りたいから」と言い訳をして、別々に帰ることにした。
家に帰り、なんとなくチヒロのアカウントを開いた。やっぱり僕たちとは桁の違うフォロワー数、何度見てもすごいなと思う。
最新の投稿で、僕たちのやっていた性格診断サイトの結果を投稿していた。『流行ってるやつ、やってみたよ!』と載せられた結果は、陽と最高の相性とされるタイプで、なんとなく不快感を覚える。
なんだよこいつ、あのバズった投稿を見て陽に声をかけたんじゃないの?相性がいいから陽に声かけたってわけ?陽の話なんにも聞いてないじゃん。大体、コラボでバズったのに僕に声をかけてこないのもいやな感じだし……
そうこう心の中で毒づいているうち、チヒロのSNSが更新された。……そういえば、今夜だって言ってたな。
配信を見に行くと、チヒロは「気になってる配信者クンに声をかけてみたよ〜!ゲリラで初コラボ!」とテンション高く語っていた。陽はいつもより緊張した様子で、「ど、どうも」とぎこちなく頭を下げていた。
なんだよ、絶対僕とやった方が楽しいのに。なんで……
「てかさ、チヒロ、あの性格診断やったよ〜!陽くんと相性最高だった!てことで、今日も盛り上げていこ〜!」
その発言でリスナーたちも『あ、あの性格診断でバズってた子!?』と気づいて、盛り上げ始める。
やっぱりこいつ陽の話全然聞いてない。相性なんて関係なく、お互いにリスペクトを……と、頭の中で陽の言葉を反芻していた。それなのに当の本人は「マジ!?相性最高とか光栄っす!」なんて嬉しそうにしていて、胸がちくりと痛んだ。なんだよ、なんで陽まで。
画面の向こうで陽が笑っているのを見て、どうしてモヤモヤしてしまうんだろう。
チヒロが何を話しているのかは、正直よく分からなかった。分からないから配信を閉じればいいのに、なぜかずっと配信を聞いていて、目は勝手にコメント欄を追ってしまって。
『あのサイトの言う通り相性最高だよ!』
『この二人のコラボ配信また見たいな』
僕とのコラボの時、こんなこと言われてたっけ?僕とのコラボの時、陽ってこんな風に笑ってたっけ?
そんな疑問がふつふつ湧いてきて、自分のこと最低だ、って思う。陽が楽しそうにしていて、それが一番いいことのはずなのに、どうしてこんなことばっかり考えてしまうんだろう。
そうしてもやもやしているうち、配信は終わってしまって、ろくに聞いていなかった。しかし案の定陽はコメントで『今日緊張してたね』とかたくさん言われていた。
突然スマホが震えた。陽からの着信だった。
「もしもし、どうしたの?あ、配信お疲れ様」
『ありがとう!いや、優輝、今日さっきちょっと、なんていうか……様子おかしかったから、心配で』
気づいてもいないと思っていた僕の様子の変化に、陽は気づいていた。とはいえ僕自身、どうしてこんなにもやもやするのか分からなくて、うまく答えられない。
「ごめん、実は、ちょっと体調悪くて」
『マジ!?土日でしっかり治せよ〜。今日も無理せず配信休むなら休むんだぞ!それじゃ、おやすみ』
ぷつんと電話が切れる。なんだよ、一方的に言いたいことばっか言って切りやがって。って思うのに、陽と話したら、なぜかもやもやが軽くなっているのを感じた。
陽が他の人とコラボするなんて言うからモヤモヤしたのか?でも、配信終わってすぐ陽が僕に電話かけてきてくれて、気遣ってくれたからマシになった?
そういえば、昔からいつもそうだった。帰り道、特に話すことがなくても、なんとなく一緒に歩いていた。
陽はスマホをいじっていて、僕はそれを横目で見てたり。それでも、同じ方向に歩いているだけで、僕は勝手に安心していた。「また明日な」の一言で、ちゃんと横にいられている気がしていたんだ。
そうか、僕は……自分が陽の相棒だって、そう思ってたんだ。
陽が僕をどう思っているかは分からない。もしかしたら、相棒だって思ってたのは僕だけだったのかもしれない。なのに勝手に期待して、勝手に嫉妬して、勝手に苦しくなってたんだ。
チヒロに心の中とはいえひどいことを言ってしまったことを反省する。陽もチヒロも何も悪くないのに、一人でこんなにぐるぐる考えて……もう、僕のバカ!
陽に気遣ってもらった手前少し気まずいけど、体調は別に悪くないので今夜も配信をつけることにした。それにその方が、余計なこと考えずに済むから。
配信をつけ、「みんなこんユウキ〜」と声をかけると、『こんユウキ〜』『今日も配信ありがとう』と返ってくる。
みんなのおかげで少しずつ気持ちが明るくなってきて、ぽろっと今日の昼のことを口にしてしまった。
「そういえば今日、昨日の配信長かったから寝不足で……それでさ、眠そうな時の声可愛いってヨウに言われたんだよね」
『え〜!?ラブラブじゃん〜!』
『私たちにもその声聞かせて♡』
陽の隣にふさわしくなるために、もっと配信頑張らなきゃ!僕は笑顔をつくって、リスナーさんに語りかける。
「じゃあ明日は土曜日だし、みんなで夜更かししちゃお。それで可愛いかみんなにジャッジしてもらう」
『す、既にその発言が可愛いんだが……!?』
そんなこんなで今日も夜更かしが確定した。その日の配信はすごく盛り上がって、気づいたら朝まで配信していた。
自分のもやもやの正体が分かってすっきりしたと思ったのに、結局まだ消えきらないもやもやがあった。でも、嫉妬だけじゃないのかな、なんて考える余裕もなくて、配信来てくれてありがとうのSNS投稿をする前に、寝落ちしてしまった。
それでまさか、あんなことになるなんて、思いもせずに。
