放課後、図書室で君に出会った

 遅めの昼食を終えて、レストランを出ると、時刻はすでに夕方に差し掛かっていた。

 空はまだ明るいものの、建物の隙間を抜けてくる風はひんやりとしている。

 昼と夜の境目。そんな時間帯だった。

「このあと、どうする?」
「んー……少し歩くか」

 特に目的地を決めることもなく、自然と並んで歩き出す。

 ガラス張りのショーウィンドウに映る自分たちの姿が、やけに違和感なく重なっていた。

「彰くんさ」
「ん?」
「今日、思ってたより喋ってる」

「……うるさい」
「否定しないんだ」

 からかうような声に、俺は肩をすくめるだけで返す。

 でも、言われてみれば確かにそうかもしれない。
 居心地がいい、というのもある。

 それ以上に、学校の外で二人きりという状況が新鮮だった。

 クラスメイトの視線も、余計な噂もない。
 俺たちの関係を知っている人間が、ここにはいない。

(だから、こんなに気楽なんだろうな)

 そんなことを考えながら、通り沿いの店に寄り道したりしながら、駅方面に向かって歩く。

(俺たちの学校での関係を知っている人がいないから、気楽に話せてるのかもしれないな)

 しばらく通りのお店に寄り道しながら歩き、気づけば、視界の先に駅前のロータリーが見えてきていた。

「あ」
「もうこんな時間か」

 スマホの時計を確認すると、17時を少し回っている。

 解散するには、ちょうどいい頃合いだった。

(夕飯……は無理だな。さっき食べたばかりだし)

 人の流れが増え、現実に引き戻される。

「じゃあ……今日はここまでだね」
「……ああ」

 言葉にすると、少しだけ名残惜しい。

「今日は来てくれてありがとう」
「こっちこそ。……楽しかった」

 一瞬、視線がぶつかる。
 それだけで、胸の奥が小さく鳴った。

「彰くん」
「なんだよ」
「今度は、もっとちゃんと計画立てよう」

「……今日も十分だろ。それに、次は俺が立てる番だ」

「立ててくれるんだ! 嬉しい。じゃあ楽しみにしてるね」

 そう言って笑う高瀬は、やっぱりずるい。

 無意識に人の期待を掬い上げるところも含めて。

「じゃあ……」
「改札まで一緒に行くよ。この間のお返し」

 前は俺が高瀬を駅まで送った。
 今日は、その逆だ。

 改札までのほんの短い距離を並んで歩く。
 それだけのことなのに、やけに意識してしまう。

「彰くん」
「ん?」
「また、遊ぼうね」

 確認するみたいな言い方だった。

「……予定が合えばな」
「それ、合う前提ってことでいい?」
「……勝手に拡大解釈するな」

 でも、否定はしなかった。
 改札の前で立ち止まる。

「じゃあ、ここまで」
「気をつけて帰れよ」
「彰くんこそ」

 どちらからともなく手を振る。
 高瀬が人の流れに紛れていくのを、俺は改札の向こうから見ていた。

 姿が見えなくなるまで、なぜか目を逸らせなかった。


——ただ一緒に遊んだだけ。


 それだけのはずなのに。
 胸の奥に残ったのは、静かな満足感と、次を期待してしまう自分自信だった。

 家路につきながら、ふと思う。勉強のためでも、テストのためでもない。

 理由がなくても、会いたいと思う相手がいる。

 その事実を、まだどう扱えばいいのか分からない。

 けれど。

 今日という一日が、確かに楽しかったことだけは、はっきりしていた。

◇◆◇◆◇

「おい。あれって颯真じゃね? 隣にいるのは、確か同じクラスの斎藤だろ」

「え、何言ってるんだよ。だってあいつは今日用事があるって……マジじゃん! 宮城、間宮も見てみろよ」

「颯真くん……なんで……私の誘いは断ったのに」

「咲希、大丈夫? ちょっと久世くん、森田くん。少しは咲希の事も考えてよ」
「わりぃ。間宮」

「でも、ちょうど解散っぽくね?」
「だな。……話しかけるか」
「どっちに?」
「決まってるだろ。颯真だよ」