走り出す車内で、憩は窓の外を眺めていた。
「んで、一体どこに向かえばいいんだ?」
漣は眠りにつきつつある街へと車を走らせる。
「別に、決めてねぇよ」
「お前、決まってねぇのに呼び出したのか!?」
「仕方ねぇだろ。外出るにしても、この時間帯にいこ連れて歩けねぇし」
「まぁな。吸血鬼にとって、憩ぐらいの女の子はご馳走だからな」
それまで静かに外を眺めてた憩が、漣のご馳走という言葉を聞いて、朔夜の隊服の袖を引っ張る。
「うん? どうした?」
「私、お腹減った……」
「はぁ? お前、飯食ってないのか?」
「うん、夕ごはんの時なら窓から出やすいから……」
「ったく……。おい細小波、今から走らせて間に合うか?」
朔夜は、胸ポケットから銀製の懐中時計を取り出し、確認する。
「あぁ、あそこな。まぁ、間に合うだろ」
漣はそう答えると、少し速度を上げる。
「ねぇ、どこに行くの?」
「特務部隊の行きつけだ」
と朔夜は答えた。
暫くして車が停まったのは、煉瓦造りで趣のある小さなお店の前だった。
「よし! 間に合った!
俺、先行って伝えてくるから2人は降りてろよー」
そう言うと、漣はお店の中へと姿を消す。
「すごくお洒落なお店だね!」
「洋食が楽しめる店だからな」
朔夜は話しながらも先に車を降りる。
憩もそれに続いて降りようと立ち上がった。
「ほら、危ねぇから。手」
朔夜はぶっきらぼうに言いつつも、手を差し出す。
「大丈夫! これぐらい平気!」
憩は朔夜の差し出した手を取ることなく、車から降りる。
「……そうかよ」
行き場を失った手を朔夜は軽く握りしめると、力なく下ろした。
店内はアンティークの家具で統一されており、高級感がある。
まもなく閉める予定だったのだろう、掃除用具が角に寄せられていた。
3人は奥のテーブル席へと通され、憩と朔夜が並んで座る。
「ねぇ、もう終わりだったんじゃない?」
「大丈夫だ、ここは特務部隊行きつけだからな。時間は融通してくれる」
「そういう問題じゃなくて」
「憩、大丈夫だぞ。こういう場合は多めに支払うからな」
そう言うと、漣は慣れた手つきで給仕にお金を渡す。
「そんなの、こいつにやらせとけばいいんだよ。
ほら、腹減ったんだろ? 好きなの選べ」
朔夜は憩にメニュー表を渡す。
「朔夜はいつも何を食べてるの?」
「俺? 俺はコロッケとかライスカレーとかだな」
「漣様は?」
「俺はカツレツとかビフテキが多いな」
「さすが特務部隊、お肉ばっかり」
「んで、何にすんだよ」
「オムライスとコロッケとライスカレーにする!」
「お前は炭水化物ばっかりじゃねぇか」
「いや、つっこむところそこじゃねぇだろ!」
「あぁ? いこが食うのは今に始まったことじゃねえだろが」
「すみません! 注文してもよろしいですか?」
憩は2人が言い合っているのも構わず、注文を済ませた。
暫くすると、テーブルは料理でいっぱいになる。
朔夜と漣の2人は、コーヒーを飲んでいた。
「2人はいらないの?」
「もう飯食ったからな」
「そっか、じゃあいただきます!」
憩は嬉しそうにニコニコしながら食事に手を伸ばす。
小柄で華奢な少女とは思えない食べっぷりだ。
「そういえば杣、随分急な帰還だったよな」
「あぁ、爺さんに呼ばれてよ」
「ふーん、そうか。それって旭もいる件か?」
「……もしかしてお前もかよ」
「あー、やっぱりな! 相楽の爺さんのことだから、絶対お前もだと思ったわー!!」
朔夜は漣も白銀に配属されたのだと、今の会話で察した。
「クソだな。最悪だ」
「ひでぇ言われよう。俺はお前と組めるのなかなか楽しみなんだぜ?」
「そうかよ。俺は組みたくねぇ」
朔夜は漣にそう告げると、食事に夢中になっている憩を見る。
美味しそうに食べるその姿が、4年前と同じで思わず顔がほころんだ。
そんな朔夜の顔を見て
「俺は憩のこと、妹ぐらいにしか思ってねぇから安心しろ」
と、漣がニヤニヤしながら耳打ちする。
「はぁ!? テメェ、ふざけたこと言ってんじゃねぇよ!!」
朔夜は顔を真っ赤にしながら立ち上がる。
「どうしたの? 顔赤いけど、大丈夫?」
心配そうに自分を見上げる憩を見て、朔夜は再び座る。
「なんでもねぇよ、それより美味いか?」
「うん! もうすぐなくなっちゃうの、残念」
「食ったらなくなんだよ、また来ればいいだろ?」
「いいの!? 今度はビーフシチュー食べたい!」
憩は金色の目をキラキラさせながら朔夜に伝えた。
支払いを済ませている漣を置いて、2人は先に外に出ていた。
「とっても美味しかった! ありがとう朔夜」
「美味かったならよかった。次は昼に来ような」
「うん! 次はビーフシチューとオムライスと……」
憩は楽しそうにメニュー看板を見ていた。
『こんばんは、かわいいお嬢さん』
身なりの整った男が憩に声をかける。
朔夜は即座に憩を背に隠した。
「朔夜? どうしたの?」
「いこ、こいつと絶対話すな!」
『なんだ、護衛付きかぁ』
男はめんどくさそうにつぶやく。
「残念だったなぁ。これに気づかねぇとは」
朔夜は袖口に付いている純銀製のカフスボタンを見せる。
吸血鬼にとって純銀は最大の毒であり、唯一の弱点だ。
「テメェ、眷属だな」
眷属。吸血鬼に吸血された人間の中で生命力が強いものがなる。
自我はあるが自由意志はないため、心を持った吸血鬼の操り人形である。
『そこまで見抜いてるとは。キミ、優秀なんだろうね』
「テメェに褒められたって、嬉しかねぇんだよ」
朔夜は腰に差していたレイピアを抜き、構える。
『やれやれ、面倒だなぁ』
男はそうつぶやくと、見る見るうちに見た目が醜く変わっていく。
「あの人、眷属だったの?」
憩は朔夜の背に隠れながら、隊服の裾をギュッと握る。
「あぁ。いこは俺の後ろに隠れてろ、いいな?」
「うん……」
『へぇ、護りながら戦えるのかなー?』
「テメェみたいな雑魚、余裕だっての」
朔夜はニヤッと笑いながら、男を挑発する。
「悪い悪い! 支払いに手間取っちまってよー」
戦闘が始まっていることに気付かぬ漣は、いつもの調子で話す。
「漣様!!」
「うん? ……なんだ、敵か」
「ったく、遅ぇんだよ!」
「悪い悪い。まさかこんなことになってるとはな」
漣は楽しそうに笑うと朔夜の隣に並び、ハンドガンを構えた。
『これは……分が悪いなぁ』
「今更後悔しても遅ぇんだよ!!」
朔夜はグッと踏み込むと、男に向かっていく。
『ちくしょう!!』
男は漆黒の夜空に逃げようと、羽を広げた。
パン!!
空気を裂くような音が響くと、男の脳天が撃ち抜かれていた。
「杣、トドメを頼む」
「チッ、いいとこ持っていきやがって」
朔夜は不満そうにつぶやくと、男の胸にレイピアを突き刺した。
「いこ、怪我とかしてねぇか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
「いや、悪かったな。怖い思いさせて……」
「ううん、朔夜が戦ってるところ見られて嬉しかった!」
憩の予想外の反応に、朔夜は思わず頭を抱える。
「後処理は俺がやっとくから、お前らはもう帰れ」
漣は2人に声をかける。さすがに黄山も心配するだろうという時間だ。
「悪い、頼んだ。ほら、いこ帰るぞ」
「でも、あの人どうするの?」
憩は絶命している男の方を見ながら問う。
「おい、あんなの見んじゃねぇよ」
「だって、気になっちゃって……」
こうなった憩は納得するまで動かない。
「……特務部隊が回収に来んだよ。んで、色々調べて今後の戦闘に役立てんだ」
朔夜は諦めて説明する。
「そうなんだ、じゃああの人にもお役目があるんだね」
「お役目?」
「うん。だって、好きで眷属になったわけじゃないでしょ?
きっと、苦しかったんじゃないかな。特務部隊のお役に立って、少しでも救われるといいな……」
憩は金色の瞳を揺らしながら伝える。
朔夜はその言葉に何も返せなかった。
「んで、一体どこに向かえばいいんだ?」
漣は眠りにつきつつある街へと車を走らせる。
「別に、決めてねぇよ」
「お前、決まってねぇのに呼び出したのか!?」
「仕方ねぇだろ。外出るにしても、この時間帯にいこ連れて歩けねぇし」
「まぁな。吸血鬼にとって、憩ぐらいの女の子はご馳走だからな」
それまで静かに外を眺めてた憩が、漣のご馳走という言葉を聞いて、朔夜の隊服の袖を引っ張る。
「うん? どうした?」
「私、お腹減った……」
「はぁ? お前、飯食ってないのか?」
「うん、夕ごはんの時なら窓から出やすいから……」
「ったく……。おい細小波、今から走らせて間に合うか?」
朔夜は、胸ポケットから銀製の懐中時計を取り出し、確認する。
「あぁ、あそこな。まぁ、間に合うだろ」
漣はそう答えると、少し速度を上げる。
「ねぇ、どこに行くの?」
「特務部隊の行きつけだ」
と朔夜は答えた。
暫くして車が停まったのは、煉瓦造りで趣のある小さなお店の前だった。
「よし! 間に合った!
俺、先行って伝えてくるから2人は降りてろよー」
そう言うと、漣はお店の中へと姿を消す。
「すごくお洒落なお店だね!」
「洋食が楽しめる店だからな」
朔夜は話しながらも先に車を降りる。
憩もそれに続いて降りようと立ち上がった。
「ほら、危ねぇから。手」
朔夜はぶっきらぼうに言いつつも、手を差し出す。
「大丈夫! これぐらい平気!」
憩は朔夜の差し出した手を取ることなく、車から降りる。
「……そうかよ」
行き場を失った手を朔夜は軽く握りしめると、力なく下ろした。
店内はアンティークの家具で統一されており、高級感がある。
まもなく閉める予定だったのだろう、掃除用具が角に寄せられていた。
3人は奥のテーブル席へと通され、憩と朔夜が並んで座る。
「ねぇ、もう終わりだったんじゃない?」
「大丈夫だ、ここは特務部隊行きつけだからな。時間は融通してくれる」
「そういう問題じゃなくて」
「憩、大丈夫だぞ。こういう場合は多めに支払うからな」
そう言うと、漣は慣れた手つきで給仕にお金を渡す。
「そんなの、こいつにやらせとけばいいんだよ。
ほら、腹減ったんだろ? 好きなの選べ」
朔夜は憩にメニュー表を渡す。
「朔夜はいつも何を食べてるの?」
「俺? 俺はコロッケとかライスカレーとかだな」
「漣様は?」
「俺はカツレツとかビフテキが多いな」
「さすが特務部隊、お肉ばっかり」
「んで、何にすんだよ」
「オムライスとコロッケとライスカレーにする!」
「お前は炭水化物ばっかりじゃねぇか」
「いや、つっこむところそこじゃねぇだろ!」
「あぁ? いこが食うのは今に始まったことじゃねえだろが」
「すみません! 注文してもよろしいですか?」
憩は2人が言い合っているのも構わず、注文を済ませた。
暫くすると、テーブルは料理でいっぱいになる。
朔夜と漣の2人は、コーヒーを飲んでいた。
「2人はいらないの?」
「もう飯食ったからな」
「そっか、じゃあいただきます!」
憩は嬉しそうにニコニコしながら食事に手を伸ばす。
小柄で華奢な少女とは思えない食べっぷりだ。
「そういえば杣、随分急な帰還だったよな」
「あぁ、爺さんに呼ばれてよ」
「ふーん、そうか。それって旭もいる件か?」
「……もしかしてお前もかよ」
「あー、やっぱりな! 相楽の爺さんのことだから、絶対お前もだと思ったわー!!」
朔夜は漣も白銀に配属されたのだと、今の会話で察した。
「クソだな。最悪だ」
「ひでぇ言われよう。俺はお前と組めるのなかなか楽しみなんだぜ?」
「そうかよ。俺は組みたくねぇ」
朔夜は漣にそう告げると、食事に夢中になっている憩を見る。
美味しそうに食べるその姿が、4年前と同じで思わず顔がほころんだ。
そんな朔夜の顔を見て
「俺は憩のこと、妹ぐらいにしか思ってねぇから安心しろ」
と、漣がニヤニヤしながら耳打ちする。
「はぁ!? テメェ、ふざけたこと言ってんじゃねぇよ!!」
朔夜は顔を真っ赤にしながら立ち上がる。
「どうしたの? 顔赤いけど、大丈夫?」
心配そうに自分を見上げる憩を見て、朔夜は再び座る。
「なんでもねぇよ、それより美味いか?」
「うん! もうすぐなくなっちゃうの、残念」
「食ったらなくなんだよ、また来ればいいだろ?」
「いいの!? 今度はビーフシチュー食べたい!」
憩は金色の目をキラキラさせながら朔夜に伝えた。
支払いを済ませている漣を置いて、2人は先に外に出ていた。
「とっても美味しかった! ありがとう朔夜」
「美味かったならよかった。次は昼に来ような」
「うん! 次はビーフシチューとオムライスと……」
憩は楽しそうにメニュー看板を見ていた。
『こんばんは、かわいいお嬢さん』
身なりの整った男が憩に声をかける。
朔夜は即座に憩を背に隠した。
「朔夜? どうしたの?」
「いこ、こいつと絶対話すな!」
『なんだ、護衛付きかぁ』
男はめんどくさそうにつぶやく。
「残念だったなぁ。これに気づかねぇとは」
朔夜は袖口に付いている純銀製のカフスボタンを見せる。
吸血鬼にとって純銀は最大の毒であり、唯一の弱点だ。
「テメェ、眷属だな」
眷属。吸血鬼に吸血された人間の中で生命力が強いものがなる。
自我はあるが自由意志はないため、心を持った吸血鬼の操り人形である。
『そこまで見抜いてるとは。キミ、優秀なんだろうね』
「テメェに褒められたって、嬉しかねぇんだよ」
朔夜は腰に差していたレイピアを抜き、構える。
『やれやれ、面倒だなぁ』
男はそうつぶやくと、見る見るうちに見た目が醜く変わっていく。
「あの人、眷属だったの?」
憩は朔夜の背に隠れながら、隊服の裾をギュッと握る。
「あぁ。いこは俺の後ろに隠れてろ、いいな?」
「うん……」
『へぇ、護りながら戦えるのかなー?』
「テメェみたいな雑魚、余裕だっての」
朔夜はニヤッと笑いながら、男を挑発する。
「悪い悪い! 支払いに手間取っちまってよー」
戦闘が始まっていることに気付かぬ漣は、いつもの調子で話す。
「漣様!!」
「うん? ……なんだ、敵か」
「ったく、遅ぇんだよ!」
「悪い悪い。まさかこんなことになってるとはな」
漣は楽しそうに笑うと朔夜の隣に並び、ハンドガンを構えた。
『これは……分が悪いなぁ』
「今更後悔しても遅ぇんだよ!!」
朔夜はグッと踏み込むと、男に向かっていく。
『ちくしょう!!』
男は漆黒の夜空に逃げようと、羽を広げた。
パン!!
空気を裂くような音が響くと、男の脳天が撃ち抜かれていた。
「杣、トドメを頼む」
「チッ、いいとこ持っていきやがって」
朔夜は不満そうにつぶやくと、男の胸にレイピアを突き刺した。
「いこ、怪我とかしてねぇか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
「いや、悪かったな。怖い思いさせて……」
「ううん、朔夜が戦ってるところ見られて嬉しかった!」
憩の予想外の反応に、朔夜は思わず頭を抱える。
「後処理は俺がやっとくから、お前らはもう帰れ」
漣は2人に声をかける。さすがに黄山も心配するだろうという時間だ。
「悪い、頼んだ。ほら、いこ帰るぞ」
「でも、あの人どうするの?」
憩は絶命している男の方を見ながら問う。
「おい、あんなの見んじゃねぇよ」
「だって、気になっちゃって……」
こうなった憩は納得するまで動かない。
「……特務部隊が回収に来んだよ。んで、色々調べて今後の戦闘に役立てんだ」
朔夜は諦めて説明する。
「そうなんだ、じゃああの人にもお役目があるんだね」
「お役目?」
「うん。だって、好きで眷属になったわけじゃないでしょ?
きっと、苦しかったんじゃないかな。特務部隊のお役に立って、少しでも救われるといいな……」
憩は金色の瞳を揺らしながら伝える。
朔夜はその言葉に何も返せなかった。
