「ねぇ、朔夜でしょ?」
憩はさらに近づくと、4年前よりもさらに背が伸びた朔夜を見上げながら問う。
「……いえ、どなたと勘違いされているのでしょう」
朔夜と呼ばれた青年は憩から目を逸らし、答える。
「……そう。朔夜でないとするならば、あなたとても無礼な方ね。
総司令の孫娘である私の発言を否定した挙句、目を逸らすなんて」
憩は金色の瞳で青年をじっと見つめた。
青年は、ふっ、と笑う。
「相変わらず口が達者だなぁ、いこは」
「その呼び方、やっぱり朔夜じゃない!!」
いこという呼び方は、朔夜がつけた憩の愛称だ。
久々の再会に、憩の金色の瞳が揺れる。
「朔夜、おかえり。ずっと、ずっと会いたかった……」
そうつぶやくと、憩は朔夜の胸に顔を埋める。
「ただいま。遅くなって悪かったな」
朔夜は昔と変わらぬ憩の距離感に戸惑いながらも、憩の頭を優しく撫でた。
杣 朔夜、21歳。帝国陸軍特務部隊所属。
相楽家に来た15歳の時から厳しい修練を積み、16歳で特務部隊へ入隊。
17歳を迎えた日に南方の調査へと派遣されており、再会は4年ぶりだった。
「ううん。無事に帰ってきてくれてよかった」
憩はにっこりと笑いながら朔夜を見上げる。
「つーかお前、こんなとこで何してんだよ」
笑顔になった憩に朔夜は問う。
憩は幼い頃から許可が下りない限り、外出ができなかった。
こんな時間帯、おまけに護衛もなしで許可が下りるはずがない。
「えっと、花火を見に行ってて」
「1人で?」
「うん……」
「護衛も付けずに?」
「うん……」
「爺さんの許可は得たのか?」
「……お祖父様が許可してくれないから、窓から降りて来た……」
憩は全てを正直に朔夜に伝えた。
「お前、まだ窓から脱走してんのかよ」
朔夜は呆れた声を出す。
「だって、今日はどうしても外に出たくて……」
憩は俯きながら答える。
花火大会。それは憩にとって、とても大切な日だった。
「まぁ、爺さんもお前が脱走することは分かってたってことだ。
そうじゃなければ、俺だってわざわざこんなところ通らねぇし」
「どういうこと?」
「俺は爺さんに言われて、この通りを巡回してたんだ。
それが終わったら帰ってこい、って言われてよ」
憩は、自分の行動が全て黄山に見抜かれていたことを知り、頬を膨らませる。
「……だったら、許可してくれればいいのに」
「そうもいかねぇだろ。
お前を外出させるとなると、特務部隊出さなきゃなんねぇし」
「お祖父様が過保護すぎるの! お兄様もお姉様も自由なのに」
「はいはい。いいからさっさと帰んぞ」
朔夜はコツコツと靴音を立てながら先を歩いていく。
「ちょっと待って!」
憩は小走りでそれを追いかけた。
屋敷へと着くと、それはそれは大騒ぎだった。
「憩様!! 心配していたのですよ!!」
憩の専属である矢桐が憩の両肩を掴み揺らす。
「矢桐さん、申し訳ありませんでした」
「全く、何度言えば窓からの脱走を止めていただけるのですか!?
次は本当に閂を掛けますからね!!」
「ごめんなさい……」
憩は謝りつつも朔夜の方にちらりと目線を送るが
「それはいこが悪いんだろ」
と、呆気なく見放されてしまった。
矢桐はひとしきり言いたいことを伝えると、
「朔夜様もご立派になられまして。
黄山様が中でお待ちですよ、こちらでございます」
と、2人を書斎へと案内する。
コンコンコン
「失礼いたします、矢桐でございます。憩様と朔夜様がお戻りになりました」
「……うむ、入りなさい」
憩が書斎の扉を開け、中へと入る。朔夜はそれに続いた。
「失礼いたします、お祖父様」
「失礼いたします。杣朔夜、ただいま戻りました」
「うむ、朔夜よ久しいな。元気そうで安心したわい。
遠征先での話は聞いておる。大活躍だったようじゃな」
黄山は誇らしげに、そして嬉しそうに笑う。
「いえ、爺さんが育ててくれたおかげです。」
と朔夜は少し照れたように返した。
「そして、憩よ……。
お前という娘は!! どうしてこうもおてんばなのじゃ!!」
朔夜と話していた時の穏やかさはなく、黄山は大声で憩を叱る。
「……申し訳ございませんでした」
「全く、16にもなって窓から抜け出すなど、女子として品にかけるわい」
黄山は呆れた様子でため息を吐く。
「……お祖父様が許可を出してくだされば、私も窓から外に出ません」
「いこ、爺さんはお前を心配して言ってんだぞ?」
「何? 帰ってきた途端に、朔夜はお祖父様の味方をするの!?」
「いや、そういうわけじゃねえけどさ」
「味方してるじゃん!! もういい!!」
「おい、いこ!!」
朔夜は名前を呼んだが、書斎を飛び出していった憩に、その声が届くことはなかった。
「本当に世話の焼ける孫じゃ……」
黄山は白髪混じりの頭を掻きながらつぶやく。
「爺さん、いこはまだ知らないんですか?自分の血のこと」
「あぁ、まだ知らんよ。伝えるつもりもない。」
「でも、それじゃあいこは、今後もこの生活を送るんですか?」
「……言いたいことは分かっておる。
だからこそ朔夜、お主を呼び戻したんじゃからな」
コンコンコン、と2人が話していると扉を叩く音がした。
「失礼いたします、旭です。」
「うむ、入りなさい」
相楽 旭、23歳。相楽家の長男で憩の兄。
祖父である黄山が総司令官を務める帝国陸軍特務部隊に所属している。
身体能力はあまり高くないが、それを補う頭脳を持っている。
「失礼いたします、総司令」
「うむ。旭よ、市井の様子はどうじゃった」
「はい。昼間は変わらず吸血鬼は上手く紛れているようです。
こちらの動きを察しているのか、夜間に活動することもありませんでした。
あと数日見張れば、痺れを切らして人々を襲うかもしれません。」
「やはりな……。あの地域での行方不明者が増えておる、引き続き監視を頼む」
「かしこまりました」
旭は黄山への報告を終えると、朔夜へと向き合う。
「久しぶりだね、朔夜。元気そうで安心したよ」
「お久しぶりです。旭も元気そうで何よりです」
2人は言葉を交わすと、互いの右手で相手の右手首を交差させ、十字を作る。
これこそ、帝国陸軍特務部隊の挨拶である。
帝国陸軍特務部隊。別名、対吸血鬼討伐部隊。
文明開化とともに紛れ込んだ吸血鬼を、秘密裏に討伐する専門部隊である。
「ところで、旭と朔夜。2人を呼んだのは、新設部隊について話したかったからじゃ」
「新設部隊? 僕も初耳ですが」
旭も知らされていなかったようで食い気味に話を聞いている。
「うむ。今日まで極秘に動いていたからな」
「なるほど。俺たちに話したってことは、構成員はもしかして……」
「その通りじゃ。帝国陸軍特務部隊・白銀、2人にはそこに所属してもらう。
対吸血鬼部隊として、これほどまでに似合う隊名はないじゃろう」
「まさか僕と朔夜の2人だけ、なんてことはないですよね」
「あぁ、もちろんじゃ。あと3人ほど優秀な人物を入れる」
「てことは、5人か……。爺さん、他は誰を入れるつもりなんですか?」
「それは、入ってからのお楽しみじゃ」
カカッ、と黄山は楽しそうに笑う。
「とりあえず構成員はいいとして、白銀を作った目的はなんでしょう」
「やはりそこが気になるか、旭よ。白銀を作った目的はな、神子である憩を護るためじゃ」
黄山は旭と朔夜の2人に真剣な眼差しで伝えた。
「それって、つまりは爺さんの私的な部隊ってことですか?」
「そうじゃな、そういうことになる。だからこそ、信用できる者だけで構成する」
「お祖父様、憩を護るためとはいえ、そのようなことをしてはお立場が」
「……儂の地位など、あの子の苦しみに比べたらどうってことはない。
いいか、白銀の隊士たちよ。吸血鬼に楔を打ち、その穢れを祓うのじゃ」
黄山の言葉に、2人は大きく頷いた。
憩はさらに近づくと、4年前よりもさらに背が伸びた朔夜を見上げながら問う。
「……いえ、どなたと勘違いされているのでしょう」
朔夜と呼ばれた青年は憩から目を逸らし、答える。
「……そう。朔夜でないとするならば、あなたとても無礼な方ね。
総司令の孫娘である私の発言を否定した挙句、目を逸らすなんて」
憩は金色の瞳で青年をじっと見つめた。
青年は、ふっ、と笑う。
「相変わらず口が達者だなぁ、いこは」
「その呼び方、やっぱり朔夜じゃない!!」
いこという呼び方は、朔夜がつけた憩の愛称だ。
久々の再会に、憩の金色の瞳が揺れる。
「朔夜、おかえり。ずっと、ずっと会いたかった……」
そうつぶやくと、憩は朔夜の胸に顔を埋める。
「ただいま。遅くなって悪かったな」
朔夜は昔と変わらぬ憩の距離感に戸惑いながらも、憩の頭を優しく撫でた。
杣 朔夜、21歳。帝国陸軍特務部隊所属。
相楽家に来た15歳の時から厳しい修練を積み、16歳で特務部隊へ入隊。
17歳を迎えた日に南方の調査へと派遣されており、再会は4年ぶりだった。
「ううん。無事に帰ってきてくれてよかった」
憩はにっこりと笑いながら朔夜を見上げる。
「つーかお前、こんなとこで何してんだよ」
笑顔になった憩に朔夜は問う。
憩は幼い頃から許可が下りない限り、外出ができなかった。
こんな時間帯、おまけに護衛もなしで許可が下りるはずがない。
「えっと、花火を見に行ってて」
「1人で?」
「うん……」
「護衛も付けずに?」
「うん……」
「爺さんの許可は得たのか?」
「……お祖父様が許可してくれないから、窓から降りて来た……」
憩は全てを正直に朔夜に伝えた。
「お前、まだ窓から脱走してんのかよ」
朔夜は呆れた声を出す。
「だって、今日はどうしても外に出たくて……」
憩は俯きながら答える。
花火大会。それは憩にとって、とても大切な日だった。
「まぁ、爺さんもお前が脱走することは分かってたってことだ。
そうじゃなければ、俺だってわざわざこんなところ通らねぇし」
「どういうこと?」
「俺は爺さんに言われて、この通りを巡回してたんだ。
それが終わったら帰ってこい、って言われてよ」
憩は、自分の行動が全て黄山に見抜かれていたことを知り、頬を膨らませる。
「……だったら、許可してくれればいいのに」
「そうもいかねぇだろ。
お前を外出させるとなると、特務部隊出さなきゃなんねぇし」
「お祖父様が過保護すぎるの! お兄様もお姉様も自由なのに」
「はいはい。いいからさっさと帰んぞ」
朔夜はコツコツと靴音を立てながら先を歩いていく。
「ちょっと待って!」
憩は小走りでそれを追いかけた。
屋敷へと着くと、それはそれは大騒ぎだった。
「憩様!! 心配していたのですよ!!」
憩の専属である矢桐が憩の両肩を掴み揺らす。
「矢桐さん、申し訳ありませんでした」
「全く、何度言えば窓からの脱走を止めていただけるのですか!?
次は本当に閂を掛けますからね!!」
「ごめんなさい……」
憩は謝りつつも朔夜の方にちらりと目線を送るが
「それはいこが悪いんだろ」
と、呆気なく見放されてしまった。
矢桐はひとしきり言いたいことを伝えると、
「朔夜様もご立派になられまして。
黄山様が中でお待ちですよ、こちらでございます」
と、2人を書斎へと案内する。
コンコンコン
「失礼いたします、矢桐でございます。憩様と朔夜様がお戻りになりました」
「……うむ、入りなさい」
憩が書斎の扉を開け、中へと入る。朔夜はそれに続いた。
「失礼いたします、お祖父様」
「失礼いたします。杣朔夜、ただいま戻りました」
「うむ、朔夜よ久しいな。元気そうで安心したわい。
遠征先での話は聞いておる。大活躍だったようじゃな」
黄山は誇らしげに、そして嬉しそうに笑う。
「いえ、爺さんが育ててくれたおかげです。」
と朔夜は少し照れたように返した。
「そして、憩よ……。
お前という娘は!! どうしてこうもおてんばなのじゃ!!」
朔夜と話していた時の穏やかさはなく、黄山は大声で憩を叱る。
「……申し訳ございませんでした」
「全く、16にもなって窓から抜け出すなど、女子として品にかけるわい」
黄山は呆れた様子でため息を吐く。
「……お祖父様が許可を出してくだされば、私も窓から外に出ません」
「いこ、爺さんはお前を心配して言ってんだぞ?」
「何? 帰ってきた途端に、朔夜はお祖父様の味方をするの!?」
「いや、そういうわけじゃねえけどさ」
「味方してるじゃん!! もういい!!」
「おい、いこ!!」
朔夜は名前を呼んだが、書斎を飛び出していった憩に、その声が届くことはなかった。
「本当に世話の焼ける孫じゃ……」
黄山は白髪混じりの頭を掻きながらつぶやく。
「爺さん、いこはまだ知らないんですか?自分の血のこと」
「あぁ、まだ知らんよ。伝えるつもりもない。」
「でも、それじゃあいこは、今後もこの生活を送るんですか?」
「……言いたいことは分かっておる。
だからこそ朔夜、お主を呼び戻したんじゃからな」
コンコンコン、と2人が話していると扉を叩く音がした。
「失礼いたします、旭です。」
「うむ、入りなさい」
相楽 旭、23歳。相楽家の長男で憩の兄。
祖父である黄山が総司令官を務める帝国陸軍特務部隊に所属している。
身体能力はあまり高くないが、それを補う頭脳を持っている。
「失礼いたします、総司令」
「うむ。旭よ、市井の様子はどうじゃった」
「はい。昼間は変わらず吸血鬼は上手く紛れているようです。
こちらの動きを察しているのか、夜間に活動することもありませんでした。
あと数日見張れば、痺れを切らして人々を襲うかもしれません。」
「やはりな……。あの地域での行方不明者が増えておる、引き続き監視を頼む」
「かしこまりました」
旭は黄山への報告を終えると、朔夜へと向き合う。
「久しぶりだね、朔夜。元気そうで安心したよ」
「お久しぶりです。旭も元気そうで何よりです」
2人は言葉を交わすと、互いの右手で相手の右手首を交差させ、十字を作る。
これこそ、帝国陸軍特務部隊の挨拶である。
帝国陸軍特務部隊。別名、対吸血鬼討伐部隊。
文明開化とともに紛れ込んだ吸血鬼を、秘密裏に討伐する専門部隊である。
「ところで、旭と朔夜。2人を呼んだのは、新設部隊について話したかったからじゃ」
「新設部隊? 僕も初耳ですが」
旭も知らされていなかったようで食い気味に話を聞いている。
「うむ。今日まで極秘に動いていたからな」
「なるほど。俺たちに話したってことは、構成員はもしかして……」
「その通りじゃ。帝国陸軍特務部隊・白銀、2人にはそこに所属してもらう。
対吸血鬼部隊として、これほどまでに似合う隊名はないじゃろう」
「まさか僕と朔夜の2人だけ、なんてことはないですよね」
「あぁ、もちろんじゃ。あと3人ほど優秀な人物を入れる」
「てことは、5人か……。爺さん、他は誰を入れるつもりなんですか?」
「それは、入ってからのお楽しみじゃ」
カカッ、と黄山は楽しそうに笑う。
「とりあえず構成員はいいとして、白銀を作った目的はなんでしょう」
「やはりそこが気になるか、旭よ。白銀を作った目的はな、神子である憩を護るためじゃ」
黄山は旭と朔夜の2人に真剣な眼差しで伝えた。
「それって、つまりは爺さんの私的な部隊ってことですか?」
「そうじゃな、そういうことになる。だからこそ、信用できる者だけで構成する」
「お祖父様、憩を護るためとはいえ、そのようなことをしてはお立場が」
「……儂の地位など、あの子の苦しみに比べたらどうってことはない。
いいか、白銀の隊士たちよ。吸血鬼に楔を打ち、その穢れを祓うのじゃ」
黄山の言葉に、2人は大きく頷いた。
