罪な僕は君と幸せになっていいだろうか

***

僕は家に帰って、すぐにネクタイを緩めた。
こういうしっかりした格好をするのはよくあることだけど、やっぱり苦しさはいつも変わらない。
失敗してはいけない緊張感。
あの人からの威圧的な視線。


やはり嫌いだ。


一息つくと、すぐに部屋のドアがノックされた。
コンコン。

「蒼唯様。旦那様がお呼びです」

「…わかった。少し待っててと伝えておいて」

「承知しました」

あの人はいつもこういう会食後には呼び出してくるんだ。
行くのはいつでも億劫(おっくう)だ。
あの人だけならまだいい方だけど、どうせ弟もいる。
面倒なことを言われないようさっさとしよう。

僕はもう一度ネクタイを締めて、部屋を出た。
自分の足であの人の部屋に向かっていく。
そして、部屋についた。
深呼吸をした後、僕はそのドアをノックした。
コンコン。

「蒼唯です。入ってもいいでしょうか大和(やまと)さん」

鷹栖大和(たかすやまと)は、僕の父親の名前だ。
“お父さん”などと呼ぶと手をあげられるもので、僕は大和さんと呼ぶようにしている。
そして、低く威厳のある声が響いた。

「ああ。入れ」

僕はゆっくりとドアを開けた。
奥のデスクのところに座る大和さん、そしてその横に立つ弟の大輝(だいき)
僕は緊張を押し殺して、ゆっくりと前へ進んだ。
そして、ふたりから約1メートルほど離れたところで止まった。

「なにか用でしょうか」

「報告をしろ」

威圧的な態度が、僕は嫌いだ。
けれど、そんなことは感じさえせないように報告をした。

「全ていつも通りです。学力面も問題なし。仕事面でも特に困ったことはありません」

「そうか、ご苦労。それと蒼唯、お前最近気が緩んでいるんじゃないか?」

そう指摘されて、わずかに動揺してしまった。
気が緩んでいるという自覚があったからだ。

「お前の母親も離れで生かしているが、それはまだ利用価値があるからだ。お前も自分が生かされている理由がわかるはずだ。用無しになった瞬間、それは死と同義だ。それを十分に理解しろ」

わかってるよ、そんなこと。
僕が生きているのはこの人が僕を産むことを許可したから。
そうでなきゃ、僕は生きていないはずだ。

役に立たなければ殺されてしまう。

それを、再確認しなければ。

「はい。申し訳ありませんでした」

「わかればいい。下がれ」

「はい」

僕は礼をした後、ゆっくりとドアを閉めた。
それから、回れ右をして廊下を進んでいく。

まだ気は抜けない。
なぜなら、後ろから大輝がついてきているから。
あの人の部屋から十分に離れた時、僕は足を止めて振り返った。

「僕になんの用?」

「んー?ちょっとね」

そう言って近づいてきて、僕の目の前で止まった。
それから、いつもの笑顔で言った。

「蒼唯は最近ちょっと楽しそうにしてない?おかしいよね。わかってるよね、自分が幸せになっちゃいけない罪の存在だって」

あの人と同じ威圧感を感じて、僕は一歩下がった。

「わかってんなら不幸になれよ。これは俺からの忠告だから」

そう言って僕の返事は聞かず、大輝は去っていった。
僕は右手で(ひたい)を抑えた。

「はぁ…。わかってるってば、そんなこと」


月海くん。


彼と出会って僕は変わった。
どうしてかわからないけれど、それは事実だ。
彼を遠ざけなければとそう再確認した。
僕はゆっくりと自分の部屋に戻っていった。