罪な僕は君と幸せになっていいだろうか

「お〜い、鷹栖〜!起きろ〜!」

そんな声が聞こえて、僕は重たいまぶたを開けた。
目の前には月海くんの顔があって、眠気なんて一瞬で吹き飛んだ。

「へ…あ、なんで月海くんが…?」

「おいおい、忘れたのかよ…」

たしか温泉に行って、その後は琉偉に会ってふたりがどこかに行っちゃったんだ。
その後部屋に戻ってなんだか眠くて。

「思い出した…。ごねん、寝ちゃってたね」

「全然いいよ。それよりさ、この後散歩行くんだろ?はやくいこーぜ!」

にこっと笑ってくれて、僕の心臓がドクンッと大きくはねた。
僕はゆっくりと頷いた。

***

僕達は旅館を出て、紅葉の道をゆっくりと歩いて進んでいく。
ライトアップもされていてとてもきれいだった。
思わず見惚れてしまうほどに。

ずいぶんと歩いたところで、月海くんが動きを止めた。
不思議に思って僕も立ち止まる。

「月海くん、どうし——」

「鷹栖は今何を考えてるの?」

僕が言い終わる前に、月海くんがそう聞いた。
どうして、そんなことを聞くの?
その時、あることが思い当たった。
——琉偉だ。

「なにって…いきなりどうしたの?もしかして…琉偉になにか言われた?」

「いやまあ、ずっと気になってたからさ」

気まずそうに目をそらした彼を見て、きっと琉偉に言われたのだろうと察しがついた。
でも、どうして隠すのだろう。

「君に言うようなことじゃないよ」

僕がそう言うと、月海くんはひどく悲しそうにした。
それから僕の肩を強引につかんで言った。

「隠すなよ…!もっと頼れって言ったじゃん…!!俺はっ、あの時頼ってくれたんだって思って嬉しかった。でも、もう頼ってくれないのか…?」

「それは…」

なにも言えなくなった。
彼に何も告げずに距離をとっては不自然だ。
こうなるのもわかっていた。
でも、どこかで線引きをしなきゃ。

「なあ、俺はどうやったら鷹栖の特別になれる?俺は、鷹栖のこともっと知りたいんだ」

僕は服のすそをギュッとにぎった。
こんな言葉聞いたら、期待しちゃうじゃないか。
期待してもいいのか。
さっき悩んでいたのが嘘みたいに、どうしてかすらすらと言葉が口から出ていた。

「本当に申し訳ないと思ってるんだ。君に頼りっぱなしで僕はなにもできていないし。琉偉ともめてるのも僕のせいだろ?僕は、誰にも傷ついてほしくないんだ…」

僕に関わらなければ、こんなことにならなかったはずなんだ。
それは月海くんだってわかっているはず。
なら離れてほしい。
とり返しがつかなくなる前に。

「鷹栖」

月海くんの落ち着いた声が響いた。
それから、パッと顔をあげる。

「鷹栖は勘違いをしてるよ。本気で全部自分のせいだと思ってる?俺が傷ついてるって…そう思ってる?」

「…思ってるよ。だって僕はっ——」

「鷹栖!もう、そういうのやめろって。俺は鷹栖と過ごせて毎日すごく楽しいよ。鷹栖は俺を幸せにしてくれるんだ。だから、今度はお返しがしたい。ただそれだけなんだ。だから、勝手に自分を責めるなよ…」

月海くんは悲しい顔で、僕の頬を優しくなでた。
初めて彼の気持ちを口から聞いた。


もし、それが全部君の本音なら僕は…。


「本当に?」

「ああ。嘘ついてるように見える?」

その言葉には肯定も否定もしなかった。

「僕…は、君が笑ってるのが好きなんだ。月海くんには幸せになってほしい」

「なら、俺とずっと一緒にいて。それだけでめちゃくちゃ幸せだから」

「っ…!」

僕はいつのまにか泣いていた。
きっと嬉しかったんだ、とっても。
君の幸せの未来に僕がいることが、僕が君に必要とされたことが。


僕が生まれたのは罪を(つぐな)うためじゃない。


初めてそう思えた。