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ようやく気持ちが落ち着いてくれば、フウカの前でおんおん泣いていた事が恥ずかしくなってきた。
「すみません、お見苦しいところを」
「何言ってるんですか、それを言ったら僕の方だって…」
お互い顔を見合わせれば、笑いが零れて落ちた。
フウカはグローブをはめた手に視線を落とすと、そっと自身の手を撫でた。その瞳には、決意が見える。
「イベントの日、昼前には帰ってきますから」
「ありがとうございます、でもゆっくりで良いですよ、フウカさんの都合で」
「はい」
「前日から行かれるんですよね…あの、本当に良いんですか?テラさんの事、あの人…あやかしに任せて」
「テラにはきっと、シュガが必要です。僕には、もう側にいる資格もないし、それに…」
言いかけて、フウカはなずなに視線を向けると、そっと微笑んだ。その温かな瞳に、なずなは僅か胸を高鳴らせた。
「…ちゃんと話してこようと思います。約束したとはいえ、ちゃんと会ってくれるといいですが」
「大丈夫です、テラさんだって…きっと会いたいと思ってくれている筈です」
苦笑うフウカに、なずなは胸の高鳴りを鎮めながら、フウカを思って懸命に伝えた。
「…なずなさんのお陰です、なずなさんがあの日、このアパートの前を通らなかったら…いや、なずなさんにとっては怖い思いをしただけですから、良かったとは言えませんね」
「そんな事ないです!私だって、この先どうしていいか分からなかったので、春風さんとフウカさんにあの時会えたから、あやかしの事も知れたし、今、前を向こうと思えます。私、ここに来れて良かったです」
今回の事件がなければ、フウカはテラと再会する事はなかったかもしれない。なずなだって、フウカとも、このアパートの皆と会う事はなかったのだ。
ここに来れたから、腐らずにいられた。一人ぼっちのような気持ちを救ってくれた。
まだ何か結果を残せたわけでも変えられたわけでもないけど、少なからず、気持ちは上を向いている。
夢を見る資格は誰にだってある筈だし、誰にも咎められるものでもない。
頑張ってる人が、あやかしだっている。
なずなはフウカと顔を見合わせ、それから夜空を見上げた。
「人の世の空は、こんなにも清々しいものだったのですね」
そっと呟いたフウカに、なずなも頷いた。
まばらで数える程しかない星の空は、美しいとはいえないかもしれない、けれど、ささやかな星の輝きは、まるで、それを見上げるなずな達に寄り添ってくれているようだった。



