「…婚約者?」
「違うの、勝手に」
「よそ者は早く国から出て行け!」
再び飛んでくる水の矢に、フウカは咄嗟に翼を盾にするが、火の翼は水に焼かれ、翼には爛れたように傷が広がった。思わず呻き声を上げて膝をつけば、テラは咄嗟にを庇うようにフウカの前に出た。
「やめて!傷つけないで!」
まっすぐとシュガを見つめ、テラが叫ぶが、その悲痛な叫びは、シュガの自尊心を傷つけるだけのようだった。
「彼女は洗脳されてる!今すぐに奴から引き剥がすんだ!」
そのシュガの言葉に、躊躇いを見せていた皆は再び勢いを取り戻したようで、テラとフウカを離させようと、矢をつがえた。
「なんで、」
「大丈夫だよ、テラ」
痛みに耐えながら、それでもテラを安心させようと、微笑みを浮かべるフウカに、テラは泣きそうに表情を歪めた。
「頭ごなしに、酷いじゃない。私は、間違った事をしてる?ただ、好きなあやかしと居たいだけなのに」
テラは振り返って、皆を見渡した。その視線がシュガに止まる。
「私は、フウカを傷つけたあなたを許さない!こんな事して、私が帰ると思うの!?」
「うるさい!お前は俺のものだろうが!」
やれ、との合図に、水の玉やら水の矢がフウカ目掛けて飛んでくる。
「フウカ!」
このままでは、側にいるテラにも当たってしまう、フウカは攻撃を受けていられず、かといってテラの手も離せず、彼らに反撃するしかない。火の粉を撒いて、テラを炎でたぎらす翼の内側に招いて。
勢いを増す水の攻撃は四方から振りかかり、フウカは懸命に抵抗を見せていた。後方からも水の矢の気配がして、フウカはそれを燃える腕で凪払った。
そして、目の前の光景に、心臓が止まったかと思った。
そこには、テラがいた。恐らくフウカを守ろうと飛び出したのだろう、だが、彼女が受けたのは水の矢ではなく、フウカの炎だった。
炎はがテラに降りかかり、彼女の美しい顔から左肩にかけてを燃やしてしまった。
「テラ!」
倒れるテラを抱き留めようとするが、燃える腕では彼女の体に触れる事も出来ない。フウカは彼女の体の上で手を払い、どうにか彼女が纏う炎を消させたが、透き通るように美しいテラの肌に、爛れた火傷の痕を残してしまった。
「…テラ、」
「よくも、テラを!」
その声に、フウカははっとして顔を起こす。飛んでくる水の刃に炎の翼は撃ち抜かれ、怒りに満ちたその視線の塊に、攻撃の勢いを強めた人魚達に追いやられ、フウカはその場を飛び立つしか出来なかった。
それ以来、フウカは彼女と会っていない。あれは事故だった、それでもフウカはテラに合わせる顔がなかった。彼女の思いに気づけなかったどころか、大切な彼女を傷つけてしまった、そんな自分が許せず、自分の炎が恐ろしく、もうこんな事を二度と起こさないよう、戒めのようにグローブを身につけるようになったという。



