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犯人が分かっても、証拠がなければ捕まえる事は出来ない。
犯人をどうやって誘き出すのか。いつやって来るか分からない犯人を待っていては、なずなの危険が増すだけだ。ならば、犯人に出て来て貰うしかない。
翌日、春風はミオとナオに協力を仰ぎ、とある噂を流して貰う事にした。
ナツメにも、正体を隠した状態で猫のネットワークを通じ、その噂を流して貰う事に。動物を仮の姿とするあやかしの耳にも届けば、あやかし同士で更に噂が広がりやすくなるだろう。
その噂の内容とは、「メゾン・ド・モナコのアパートの住人は、火の玉騒動の犯人ではない、しかも真犯人が特定出来たらしい」という、そのままの内容だ。単純に、犯人へのメッセージである。
そして犯人は、こちらの動向も窺っている筈、きっと、なずなの事は放っておかない。
噂を聞きつけ、少なからず焦った犯人は、なずなが一人になるタイミングを狙ってくる筈だと、そう考えての事だった。
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その夜、ミオとナオが、アパートにやって来た。リビングには、皆が揃っている。
「春風さんが言っていたあやかしだけど、こちらに三ヶ月前から住んでいるみたいだね」
ミオから受け取った書類には、そのあやかしの顔写真と出身地、人の世に居住の理由、現在の住み処まで記されていた。
「こんなに簡単に分かるのか…」
春風の隣で書類を覗き込んだナツメは、どこか拍子抜けした様子だ。
「レイジの所には、人の世にいるあやかしのデータは揃ってる。人の世で、もし騒ぎを起こしたとなれば大問題だからね。見たところ、正規ルートでこっちに来たあやかしだ」
「正規ルートって、鈴鳴川から?」
「そうだね」
「不正に入ってくる奴らもチェック出来るのか?」
ナツメの問いかけには、ナオが胸を張って答えた。
「その為に僕達が居るって言ってもいいね!」
「だから、いつもあちこちでふらふらしてんのか」
「ナツメ!僕達が遊んでると思ってたの!?ナツメの行動もバッチリ見てるからね!」
「俺が妙な事するわけねぇだろ!」
「ふーん、どうだかー」
言い合うナツメとナオに、マリンは微笑ましそうながらも間に入った。
「猫ちゃん同士、可愛いケンカはそこまでよー」
「可愛くないし!」
「一緒にしないでよ!」
マリンの言葉に、ナツメとナオは同時に言葉を発し、フンと同じタイミングでそっぽを向いた。
猫のあやかし同士、気は合いそうだが、仲はあまり良くないようだ。
「でも、こんな風にしっかり管理されてるんですね…それなら、火の玉の事も、バレたらすぐ捕まっちゃいそうなのに」
なずなの言葉に、ミオは肩を竦めた。
「バレずに、皆さんに犯行を擦りつける自信があったんだろうね。それに、人の世への滞在理由は短期留学とある、もうすぐあやかしの世に戻らなくてはいけない。だからこの前、大胆な犯行に及んだんだろう」
ミオの言葉に頷きながら、あやかしの世界にも短期留学制度があるのかと、なずなは別のところでも感心していた。あやかしの世とは一体どういう場所なのだろう、鈴鳴川で行き来が出来るという話だが、それも一体どういう仕組みなのか。改めて、未知なる世界の不思議に驚いていた。
皆と生活を共にして、あやかしというものを少なからず知った気でいたが、まだまだ分からない事ばかりだなと、好奇心がむくむく芽生えているのを感じる。



