「ギンジ君がお花屋さんで接客を頑張ってる姿は、少なからずあやかしの心を動かしたそうだしね」
「え、マジ?無愛想の塊のギンが!?だって、花屋にいても接客回避してたんだろ?」
「そうそう、そんなギンジ君が、ついに花屋の奥さん発案のフラワーアレンジ教室にも講師として参加して、無愛想なのに的確に教えてくれるイケメンがいるって話題なんですってよー」
ナツメ、春風と続く会話に、花屋で接客回避なんて出来るのか、と、そちらにもなずなは驚いていたが、それでもギンジを思えば自然と頬が緩んでしまう。ギンジが怖がられていない、人と交流を持ちながら好きな事が出来ている、それが嬉しかったからだ。
だが、ギンジはバラされた事が照れくさいのか、なずなの微笑みがこちらに向くのが耐えられないようで、つい口を荒げてしまうようだ。
「ニ、ニヤニヤするな!元はと言えばお前のせいだろ!お前が町内会のイベントで、フラワーアレンジの教室やれって言うから!奥さんから、協力する代わりに、花屋の教室も手伝えって言われたんだよ!」
「え、協力してくれるんですか!?」
嬉々として身を乗り出すなずなに、ギンジは再び照れくさそうにして、今度はそっぽを向いた。
「べ、別にお前の為じゃねぇぞ!このままだと人の世に居られなくなると思ってだな…!店も、奥さんが乗り気になってくれただけで、」
「ありがとうございます!キッチンカーの店長さんも手伝ってくれる事になったんです!これで犯人捕まえれば、万事解決ですよ!」
「僕も、純太君呼びたいな…」
「うん!一緒に招待状持って行こうね!」
「あら、可愛いわねぇ。私も本気出しちゃおうかしら」
「マリンはほどほどにしとけよ、後始末が面倒なんだから」
「そう?ギンちゃんが物壊すよりは良いわよねぇ?フウちゃんの部屋のドアだって、新しいの取り付けなきゃ」
それにはフウカは苦笑った。帰ってきたら部屋のドアが無くなっていたのには驚いたが、心配してくれての行動なら文句は言えない。今は取り敢えず、段ボールを貼りつけてドアの代わりにしている。
「ほらほら、また言い合いになっちゃうからさぁ、今日はフウカ君のお帰りパーティーなんだから!」
「一晩だけですが…」
「今までにない事なんだから、一大事だよ!ハク君も心配してたよねぇ」
春風がハクに声をかけると、ハクは照れくさそうにしながら、フウカを見上げた。
「…うん、でも、帰ってきて良かった」
「…ごめんな、ありがとう」
フウカが申し訳なくその頭を撫でると、ふふ、とハクは擽ったそうに笑った。
そしてフウカが顔を上げれば、春風が言った側から、賑やかに言い合いをする住人達の姿がある。
帰ってこれて良かった、ここが自分の居場所だ。
そう感じ、フウカの視線は自然となずなへと向かった。
大切なものがまた一つ増えてしまった。
今度は壊してしまわないように、大切な場所を、この手でしっかり守ってみせると。大きな決意は、静かにフウカの胸の中で灯っていた。
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お化けアパートと呼ばれるこのメゾン・ド・モナコからは、珍しく明るい笑い声が聞こえ、夜空に響き渡っていた。きっと近所の人達も驚き、同時にほっとしたのではないだろうか。
ここが何の変哲もない、至って普通の人が暮らすアパートだと、もしかしたら思ってくれたかもしれない。
様子を見にやって来ていたミオとナオは、外からアパートの様子を見て顔を見合わせると、ほっとした様子で笑った。
「今日の所は帰ろっか」
「うん!ねぇ僕もお腹すいたなー」
「じゃあラーメンでも食べてく?」
「さんせーい!」
月のキレイな夜、明るい笑い声は、いつまでも尽きる事はなかった。



