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「昨日の結界を張った奴だけど、やっぱり火の玉の真犯人っぽい。猫達に聞いて回ったら、また来てたのかって言ってた。今度また火の玉出したら、噛んでやるってさ」
手巻き寿司パーティーの中、ナツメが言う。マグロがお気に入りのようで、たっぷり入れては春風やギンジに咎められていた。
「それって、火の玉がなずちゃんを襲った時も、彼もあの場所にいたって事?」
「そうなるな。あいつのせいで寝床荒らされたって、猫達も腹立ててた。近所の空き地なんだけどさ、火の玉男に火を使って追い出されたんだって。多分、偽物の火だろうけど」
マリンの言葉にナツメは頷きながら、手巻き寿司を頬張った。
「春さん、ミオちゃん達には、この事報告したの?」
ミオの名前が出て、ハクは条件反射のように顔を上げた。ミオはハクにとって、憧れの存在だ。
「あぁ。だけど、こっちに任せてほしいって言っておいたよ。この間の事で犯人が誰か分かった、僕らで捕まえられない相手じゃない」
春風の言葉に、皆勿論だというように頷く。分からないのは、なずなとハクだけだ。
「皆さん、犯人が誰か分かったんですか?」
「僕達、長い付き合いだからね。気配を消すような道具を使ってたみたいだけど、あの氷の結界で分かった。フウカ君の力を引き出す為だとしても、自分の個性も同時に広めているようじゃ、詰めが甘いよね。もしかしたら、相手も相当焦れているのかもね」
「早く捕まえてやろうぜ!どうやって誘き出す?」
顔を上げるギンジに、春風は、まぁまぁとその熱を宥めた。
「昨日みたいな事があってはならないし…、でも早くしないと、次の手を打ってくるかもしれないよな…」
「ミオ達には証人として来て貰った方がいいんじゃないか?」
「ミオちゃん達なら、皆からの信頼も厚いしね」
あれやこれやと話し合う仲間達に、フウカは改めて頭を下げた。
「すみません、僕のせいで…」
え、となずなは声を上げたが、皆は分かっているといった様子で、何を今更と笑った。
「同居人が困ってたら、助けんのは当然だろ」
「あら、ナッちゃん素直ね」
「うるせーマリン!」
「フウカには世話になってるからな、それに俺だって、俺がいるせいで犯人扱いされたわけだし…」
「あらら?ギンジ君まで可愛くなっちゃってー」
「今すぐはっ倒してやる…!このぼんくら神!」
「あ!ギンジさん、お皿ひっくり返しますから!」
立ち上がるギンジを宥めつつ、なずなも何か力になりたいと、立ち上がったついでに、拳を握ってフウカにアピールした。
「あの、私も力になりますから!どんな作戦でもバッチコイです!」
気合い十分のなずなだったが、そんななずなに春風は苦笑い、フウカは顔を顰めた。
「ダメですよ、これは僕達あやかしの問題です、人であるあなたには危険すぎます」
「でも、何かしたいんです!皆さんがいてくれたら問題ありませんよね?」
そう食卓を見回したが、いつも味方をしてくれるマリンも渋い顔だ。
「昨日あんな事があったばかりよ?」
「何かしたいっつーなら、いいんじゃねぇの?囮とかやってもらえば」
「ナツメ君、そんな軽々しく言わないでくれ」
フウカがさすがに咎めるが、ナツメはなんて事ない、といった顔を浮かべ、椅子の背に背中を凭れさせた。
「俺がずっと側に居ればいいだろ?しっぽ一本にして、猫っぽくしてりゃバレないって」
「それなら、僕が姿を消してついていた方が安全だよ、ナツメ君には犯人の動向を見て貰う方が良いかもね、フットワークも軽いしネットワークも広いし」
話を先に進める春風に、フウカは思わず口を挟んだ。
「待って下さい!なずなさんに、本当に囮なんてさせるつもりですか!?」
「そうよ!なずちゃんをエサにするなんて…!」
「エサ…」
何を想像したのかハクは涙目になると、はっとした様子で、震える手でなずなを抱きしめた。なずなは苦笑い「大丈夫だよ、ハク君」と、その背中を撫で擦った。
「まぁ、どうせ向こうからすぐ来るだろ。正体がバレてる事は、相手も薄々気づいてるだろうし」
ナツメはハクの反応に罰の悪い顔を浮かべたが、意見は変えないようだ。春風も、ナツメの言葉に頷いた。
「きっと動き出す筈だ。今度はしっかり人を巻き込んで、犯人を僕らに仕立てる筈だよ。狙うのは、僕らに取り囲まれてかわいそうな人の子、なずな君だろう。なずな君が、僕達が犯人じゃないと声を上げれば、犯人が今まで世間に吹聴してきた僕らの噂を、疑問に思うあやかしも出てくるだろうからね」
「ならいいけどな」
溜め息混じりにギンジが言う。ギンジは自分のせいで皆が犯人扱いされてる事を気にしているのだろう、それに、一度ついてしまったイメージを取り払う事が難しいと、恐らくギンジが一番分かっている。だから、春風の意見には簡単に頷けないのだろう。
しかし春風は、ギンジを見つめてニンマリする。



