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「そう言えば、店長にレストランの話をしたら、相談に乗ってくれると言ってくれました」
「本当ですか!?店長さんなら、百人力ですね!良かった…そうだ、それならいっその事、キッチンカーも来て貰って、庭で食事出来るスペースを作ったらどうでしょう?」
さすがに無理かなと、なずなは話しながら、我ながら浮かれているなと、隣を歩くフウカを見上げた。
夏の陽は高く、まだ空はうっすらと暗い程度だ。
スーパーからの帰り道、二人は買い物袋を手に、住宅街を並んで歩いていた。ついでに無くなりそうな物をと、色々買い込んだが、フウカがほとんど持ってくれている。家を出て気づいたのだが、そう言えば、フウカと並んで外を歩く事はなかった。スーパーの中で買い物をしていても、隣のフウカばかり意識してしまい、自然と舞い上がる心に、学生じゃないんだからと、自分を諌めるのに忙しく、正直勉強どころではなかった。
相手はあやかしだからとか、冷静になれば色々思うところはあれど、勝手に思ってしまう分には許してほしい。その代わり、表には出さないように注意を払っていた。
そんな事もあってか、なずなは自分の気持ちにいっぱいいっぱいで、フウカがそっと表情を曇らせた事に、気づいていなかった。
「どうしてそんなに、一生懸命になれるんですか?僕達の為に」
「え?」
フウカの俯いた声に、なずなはきょとんとしてフウカを見上げた。
フウカの表情には戸惑いが薄ら感じとれ、なずなは少し緊張した。またフウカとの間に壁が見えそうな気がして、なずなは気づかない振りでぱっと目を逸らした。
「あの、私も、協力したいというか、元々春風さんとの約束でしたし…でも、自分も楽しいからだと思います。皆さんはどう思ってくれてるか分かりませんが、私、アパートでの生活は楽しいんです。仕事も貰えて、住まわせて貰って、その上助けて貰ってるので、何か力になりたくて!」
早口でまくし立ててしまったが、純粋に思っての言葉だった。その気持ちだけでもフウカに伝わっただろうか、なずなは少しでもフウカの側に行きたいと思っていたのだが、フウカはますます表情を強ばらせ、その拳をぎゅっと握った。
「でも、あなたを巻き込んだのは僕達ですよ、春風さんがアパートに誘わなければ、それを僕が止めていれば、もしかしたら、火の玉男はなずなさんを再び襲う事はなかったかもしれない」
「それは…ついて行った私にも責任があります。おばあちゃんから預かった手紙の事を知りたいのは事実ですし」
「それは、本当なんでしょうか」
「え?」
「あなたを巻き込む為の嘘かもしれませんよ」
「…春風さんが嘘を?」
「…あなたは、そういう可能性もあると思わないんですか?春風さんだけじゃない、僕に対しても」
なずなはすっかり困惑してしまった。どうしてフウカがそんな事を言うのか分からなかった。
「ど、どういう事ですか?」
「僕は、化け物ですよ、恐ろしいんです、人から見ても…あやかしから見ても」
「え?」
フウカはそれから何も言わず、なずなの持っていた荷物を手に取ると、そのままアパートの敷地内に駆けて行ってしまった。
なずなはその背中を追いかける事も出来ず、立ち尽くした。
何故フウカがそんな事を言い出すのか、なずなには見当もつかなかった。
春風が嘘をついているなんて、なずなには到底思えなかったし、フウカだってきっと、本心で言っているわけではない。皆の様子を見ていれば分かる、彼らは確かに人ではないが、化け物ではない、だから一緒に過ごせる、一緒にいて楽しいと思える。
フウカに、何かあったのだろうか。
きっと、何かあったんだと、慌ててフウカの後を追おうとしたが、ふいに身震いを覚え、なずなは立ち止まった。
何か、おかしい気がする。
季節はまだ夏、だんだんと空は暗くなってきたが、太陽の熱を吸い込んだ町はまだ暑く、風も生ぬるい。なのに突然、肌を撫でるような冷気を感じた。なずなは不思議に思い、周囲を見渡した。メゾン・ド・モナコのアパートの生け垣、すぐ側には住宅もあるが、周囲に人影はない。空にはのんびりと、鳥が一羽飛んでいる。
何だろう、何がおかしいのだろう、いつもと変わらない風景なのに、違和感を感じるのは何故だろう。
「あの、」
その時、背後から声を掛けられた。振り返ると、そこにいたのはハクを助けてくれた少年、純太だった。なずなは驚きつつも、純太に合わせるように腰を折った。



