■ミッション!
「おはようございます。瀬崎くん」
「……おはよう。高嶺さん」
翌朝教室の扉を開けると、高嶺さんが俺に挨拶してくれた。昨日の今日で彼女をまっすぐに見れなかった俺は、急いで自分の席に着いた。
だが、これで安心できるわけではない。
窓際の、一番後ろの席。
『ごきげんよう』という言葉が似合いそうな、我が校きってのお嬢様である高嶺さんの席は、実は俺の隣なのだ。
……そういえば、途中で寝てしまったけれど、今日の高嶺さんのミッションは何だっただろうか。などと、ぼんやり俺が考えていると。
「……あの、瀬崎くん」
「ん? どうかした?」
「実は私、教科書を忘れてしまって。見せていただけませんか?」
「え?」
俺は素早く高嶺さんに背を向けて、カバンの中のスマートフォンであの小説を確認した。
そこには、こんなコメントが書かれていた。
【席隣なら、まずは『教科書見せて』をやらなきゃだよね! 定番だよね!】
お……お、お前かあーーっ!
誰だよお前。なんで真面目で品行方正、忘れ物なんて一度もしたことのない高嶺さんに、教科書を忘れて俺に見せてもらうように仕組んでるんだ! この人が忘れものなんてしようものなら、「爺や」みたいな人が届けてくれそうなレベルなのに!(この認識はやや誤りかもしれない)
「すいません。やっぱり難しいでしょうか?」
「あっごめん。ちゃっと考えごとしてて……。教科書を見せるのは勿論いいよ。席つけていいかな?」
「席を……つける?」
俺の言葉に、高嶺さんはきょとんとした表情をした。
「うん。俺も机近付けるから高嶺さんも机近付けてくれる?」
「はい。ありがとうございます!」
高嶺さんは声を弾ませて笑顔になった。
男子からの視線をひしひしと感じるが、今は気にしないことにする。
仕方ない。だって、学校一の美少女が、俺みたいなモブと仲良くするなんて普通ありえないから。ある意味、俺のようなモブに偏見を持たずに接してくれるあたりが、高嶺さんの育ちの良さの現れなのかもしれないけれど。
「……でも、珍しいね。高嶺さんが教科書忘れるなんて」
「はい。瀬崎くんに教科書を見せていただきたくて」
「え?」
「?」
その時、俺と高嶺さんの間に微妙な沈黙が流れた。
「……あ」
高嶺さんは、あからさまに「しまった」という表情《かお》をした。
「ち、違うんです! わ、わざと忘れたわけではなくて。忘れてしまったので、瀬崎くんに見せていただきたくて……っ!」
「うん。大丈夫だから。落ち着いて」
どうどう。
俺は、明らかに墓穴を掘った高嶺さんに苦笑いした。
――この人、しっかりしてるけど意外と抜けてるんだろうか?

