高嶺さんのWEB恋愛小説は実話です。

■この小説(仮)に身に覚えがありすぎる件

 その日俺は、とんでもない事に気が付いてしまった。

「え? ……もしかしてこの小説、俺のことじゃないか?」

 有名なWEB小説投稿サイト――の、日間一位に燦然と輝く小説のヒーロー役。そのキャラクターの名前と状況が、あまりにも俺と似ていたのだ。

 タイトルは、『同じクラスの男の子に電車で助けていただいたのですが、これからどうしたらよいでしょうか?』。

 内容は、『普通の学校』に通う高校1年生の『お嬢様』である主人公が、電車登校の際、満員電車で困っていたら、同じクラスの男子生徒に助けられる、というヒロイン視点の(おそらく)現代恋愛もの。
 そして俺は、この小説が投稿が開始されたちょうど同じ日の朝に、学校一の『お嬢様』を電車で助けていた。
 
【コトノ:コメントありがとうございます!
 そうですね。積極的に話しかけるのは大事ですよね。ハルくんも日和さんと同じで、甘い食べ物がお好きなんです。お昼休みにはいつもお菓子を召し上がっていらっしゃるので、それを話題にお話出来るよう頑張ります!】

 俺の本名は『瀬崎晴人《せざきはると》』――ネットリテラシー的に名前をそのまま使うのはどうかとは思うが、『ハルくん』と呼ばれても違和感はない。

 因みにこの『返信』が書かれた翌日にあたる今日の昼休み、一週間ほど前に電車で困っていたところを助けたお嬢様、『高嶺琴乃』さんに話しかけられていた。

『ハル……瀬崎くん。甘いものがお好きでしたら、よかったらこちらはいかがですか?』

 高嶺さん(教師すらさん付けである)はそう言って、俺に高級洋菓子を差し出した。

『高そうだし、悪いよ』
『実は先日、知人に沢山いただいてしまって。私一人では食べきれないので、甘い物がお好きな方に食べていただきたくてお持ちしたんです』

 確かそう――返した記憶がある。
 小説のコメント欄を見ると、お菓子の渡し方についても『コトノ』さんはアドバイスされているようだった。

【コトノ:コメントありがとうございます!
 そうですね。お一人にだけ渡してしまうと、ハルくんを困らせてしまうかもしれません。明日はクラス全員にお渡しできるよう、沢山お菓子を持参しようと思います。】

 事実今日の昼休み、高嶺さんは大量のお菓子を持参して、クラスメイトに配っていた。

「こんな偶然、本当にあるのか?」

 金曜日に更新された最新話のあとがきには、作者コメントとして、こんな言葉が添えられていた。

【明日は月曜日です。また、学校が始まります。ハルくんと仲良くなるためには、私はどうしたらいいのでしょうか?】

「いや……まさか、な?」

 小説が投稿され始めてから、まだ1週間程度。
 俺のような人間が、この国にもう1人いたという可能性はまだ十分ある。
 とりあえず、明日になればわかるだろう。
 俺はそう考えて、スマートフォンの画面をオフにして眠りにつくことにした。